入門編 創薬型|製薬・バイオ全17回シリーズ 第16回

Adagene(ADAG)とはどんな会社? ― 「情報が限られる銘柄」の読み方を学ぶ、マスク型抗体のがん治療薬開発企業

株価・データ基準日:2026年9月25日(編集部確認時点)
Adagene(ADAG)は、がんの周りでだけ働くように「マスク(覆い)」をかけた抗体体の免疫の仕組みを応用し、特定のたんぱく質にピンポイントで結合するように作られた物質。薬として使われる医薬品を開発する「創薬型」の会社です。中国・蘇州に主な拠点を置き、米国市場には「ADS」という形で上場しています。米国の会社に比べて決算発表の回数が少なく、日本語の情報もほとんどありません。今回は、このような「情報が限られる銘柄」をどう読めばよいかを考えます。
今回の見方:情報が限られる銘柄を読むための4つの確認点
  1. 開示の回数を確かめる:Adageneは米国外の会社(外国企業)として、決算を年2回(半期ごと)発表しています。四半期ごとに発表する米国企業に比べて、最新の数字が半年近く前のものになりやすい点に注意が必要です。
  2. 株数の「単位」を確かめる:米国で取引されているのは、元の株式を預けて発行されるADS米国預託株式。米国以外の会社の株式を、米国市場で売買しやすくするための証券。1ADSが元の株式の何株分にあたるかは会社ごとに異なるで、Adageneの場合は1ADS=普通株1.25株です。どちらの数で計算しているかによって、時価総額などの数字がサイトごとに食い違うことがあります。
  3. 比べている相手を確かめる:少人数のデータを、別の試験の結果と並べて「より良い」と示す発表もあります。条件が違う試験同士の比較は、参考程度にとどめるのが基本です。
  4. 複数の情報源で突き合わせる:会社の発表、規制当局への提出書類、株価情報サイトの数字を見比べ、食い違いがあれば日付と計算方法を確かめます。

①この会社は何をしている?

がんを攻撃する免疫の力を強める薬の中には、効果が高い一方で、健康な組織まで攻撃して強い副作用を起こしやすいものがあります。Adageneの「SAFEbody(セーフボディ)」技術は、抗体に「マスク」をかけておき、がんの周りの環境でだけマスクが外れて働くように設計することで、効果を保ちながら副作用を抑えることを目指しています。主力候補「muzastotug(ムザストツグ、ADG126)」は、この技術を使った抗体で、免疫治療が効きにくいとされる大腸がん(MSS型)などを対象に、Merckのがん免疫治療薬キイトルーダと組み合わせて開発されています。

②どのタイプの会社?

6つの事業モデルのうち「創薬型」にあたります。Sanofi、Exelixis、Incyteなどの大手・中堅製薬会社と提携しており、提携収入もわずかにありますが、会社の価値は主力候補の試験結果に大きく左右されます。マスク技術を他社に提供する面では第11回のプラットフォーム型に近い要素もありますが、本シリーズでは自社の主力候補の開発を中心とする創薬型に分類しています。

③④ここがユニーク/気をつける点

ここがユニーク MSS型大腸がんを対象にキイトルーダと組み合わせた試験では、一定の投与量のグループで、がんが縮小した患者の割合(奏効率)が31%、がんが進行せずに過ごせた期間の中央値が6.7か月と報告されています。この病気は免疫治療が効きにくいことで知られており、会社はこれを特徴として示しています。2026年4月の約7,000万ドルの公募増資により、6月末の手元資金は1億2,790万ドルとなり、会社は2028年後半まで事業を続けられる見通しとしています。9月22日には、別の候補ADG138について中国で臨床試験の開始が認められました。
気をつける点 muzastotugはまだ承認されていません。奏効率などのデータは、偽薬などと比べる比較試験ではなく、限られた人数の患者での結果です。肝臓がん(HCC)の3剤併用で示された奏効率66.7%は、わずか6人の患者でのデータで、別の条件の患者40人と並べて示されたものです。比較試験である第2相試験の結果は2027年前半の予定です。決算発表が年2回のため最新の数字は6月末時点のものにとどまり、上半期の純損失は前年同期の1,350万ドルから1,640万ドルに拡大しました。中国に主な拠点を置く会社であることに伴う、規制や地政学の影響を受ける可能性もあります。

⑤数字で見るこの会社

時価総額約1億9,700万ドル(2026年9月25日時点)
※ADS換算の株数(普通株約8,393万株÷1.25)×ADS価格による編集部試算。計算方法によりサイトごとに差があります
ADS価格2.93ドル(52週レンジ:1.30〜4.85ドル)
2026年上半期 売上高(提携収入)160万ドル(前年同期ゼロ)
上半期 研究開発費1,400万ドル(前年同期1,200万ドル)
上半期 純損失1,640万ドル(前年同期1,350万ドル)
手元資金1億2,790万ドル(2026年6月30日時点。4月の約7,000万ドルの公募増資を含む)
キャッシュランウェイ手元のお金があと何年もつかを示す期間。開発中の会社にとって最重要の指標2028年後半まで(会社見通し)
数値は2026年8月12日発表の2026年上半期決算資料、9月22日の開示、および2026年9月25日時点の株価情報に基づく(編集部確認)。同社は決算を半期ごとに発表しています

⑥次に何が起きる?

MSS型大腸がんを対象とした、muzastotugの投与量を比べる無作為化第2相試験の結果が2027年前半に予定されています。これは少人数データから一歩進んだ、比較試験の形での結果となります。また、Incyteとの併用試験が2026年中に始まる予定で、ADG138の中国での第1相試験も2026年第4四半期に始まる見込みです。次回の決算発表(2026年通期)は、半期ごとのパターンから2027年3〜4月頃と見込まれます(編集部試算・公式発表前)。いずれも予定であり、時期や結果は変わる可能性があります。

⑦まとめ

Adageneは、がんの周りでだけ働く「マスク型」抗体でがん治療薬を開発する創薬型の会社です。免疫治療が効きにくいがんで一定の反応が報告され、2028年後半までの資金見通しもある一方、データはまだ少人数のもので、決算発表も年2回と情報が限られます。こうした銘柄では「開示の回数」「株数の単位」「比較の相手」「情報源の一致」を確かめることが、数字を正しく読む第一歩になります。当サイトが継続的に追跡する対象の一つであり、特定の投資行動を推奨するものではありません。

抗体
特定のたんぱく質にピンポイントで結合するように作られた物質。薬として使われる
マスク型抗体
覆い(マスク)をかけておき、がんの周りでだけ外れて働くように設計した抗体。副作用を抑えることを目指す
ADS(米国預託株式)
米国以外の会社の株式を米国市場で売買しやすくするための証券。1ADSが元の株式の何株分かは会社ごとに異なる
奏効率
治療によってがんが一定以上縮小した患者の割合
キャッシュランウェイ
手元のお金があと何年もつかを示す期間
時価総額
株価×発行済み株式数で計算する、会社の市場での大きさ
製薬・バイオ17銘柄マップはこちら 前回:Sana Biotechnology入門記事(第15回)はこちら
この記事は投資判断を勧めるものではありません。取り上げた銘柄は当サイトが情報提供目的で継続的に追跡している対象であり、「おすすめの銘柄」ではありません。記事内の数値は公表されている決算資料・株価情報をもとに編集部が確認したもので、将来の業績や株価を保証するものではありません。muzastotug、ADG138などAdageneの候補はいずれもまだ承認されていません。同社は決算を半期ごとに発表しており、記事内の財務数値は2026年6月末時点のものです。投資の最終判断は必ずご自身で行ってください。