本レポートは、高市政権「戦略17分野」航空・宇宙の先行検討技術⑧「民間航空機(次期単通路機・次世代航空機)」の外部環境を、就職・転職検討者および株式投資家向けに数字と事実のみで記述します。所管は内閣府(経済安全保障)です。
良し悪しの評価・投資推奨・将来予測は行いません。構造を示すことで終わります。
旅客機・航空機・リージョナルジェット業界の世界市場規模は2024年に2,112億ドルと推計されており、2029年にかけて年平均4.5%で成長し2,644億ドルへと拡大することが見込まれています(Research and Markets・deallab)。
航空機エンジン業界の世界市場規模は2024年に1,537億ドルで、2032年にかけて年平均7.77%で成長し2,798億ドルへの拡大が見込まれています(Fortune Business Insights・2024年)。
ボーイングの「2025年民間航空機市場予測(CMO)」によると、今後20年間の民間航空機需要は4万3,600機で、うち単通路機が72%を占める見込みです(ボーイング・2025年6月)。2024年CMOでは4万4,000機で単通路機が76%(3万3,380機)という予測でした。牽引役は新興市場の短距離旅行とLCC(格安航空会社)の拡大です。
単通路機の受注残は1万機と過去最高水準に達しており、受注解消に10年かかる状態が続いています(日本経済新聞・2025年)。エアバスの受注残は8,726機・ボーイングは5,643機(2025年1月時点)で、金額換算すると数千億ドル規模の収益ストリームが積み上がっています。
日本の航空機産業の合計生産額は2019年に1兆8,000億円超と2兆円規模に近づきましたが、コロナ禍で2021年に9,500億円まで落ち込みました(日本航空宇宙工業会)。2023年には1兆4,000億円超に回復し、2025年には初めて2兆円を超えたと報じられています(日本経済新聞・2026年2月)。
日本成長戦略会議 第3回 資料2「先行して検討を進めている主要な製品技術等の官民投資ロードマップ素案」(2026年3月)は、2019年時点での日本航空機産業売上高を年間2兆円規模と記載しています。
民間航空機市場(中大型機)はエアバスとボーイングの2社がほぼ市場を二分しており、単通路機市場ではエアバスが約60〜65%のシェアを握っています。エアバスは2024年に766機を納入したのに対し、ボーイングは348機にとどまりました。ボーイングは2024年通期で118億ドルの赤字を計上し、2018年以来黒字を計上していない状態が続いています。
エアバスの受注残は8,726機(2025年1月時点)で、現在の製造体制での完納には約13年を要する見込みです。A321neoが受注残の大半を占めており、単通路機市場でのエアバス優位は当面継続する見通しです。
ボーイングはコロナ前(2018〜2019年)に737MAXと787の間に位置する中型機「NMA(New Midmarket Airplane)」の開発を計画しており、座席数220〜270席・2025年頃の就航を想定していました。三菱重工が主要部品参画を狙い、東レも炭素繊維供給を目指していました。しかしコロナ禍による需要消滅と737MAX・787の同時トラブルにより、2020年にNMA開発計画を事実上打ち切りました(日本経済新聞・2020年4月)。2023年12月のボーイング幹部発言では「現状は進捗がない(NMAについて)」と明言されています(Aviation Wire・2023年12月)。
この「次世代機開発の空白」が、エアバスA321XLRの市場独走を許した一因であり、同時に次世代機が開発される際に日本が上流工程から参画する機会となり得る構造でもあります。
日本の機体構造事業はボーイング双通路機を中心にTier1サプライヤーとしての地位を確立していますが、エアバス機・単通路機市場への参画は限定的です(経済産業省・2024年3月)。機体事業に比べてエンジン・装備品・システム分野の収益性が高く、IHIはGTFエンジン(プラット・アンド・ホイットニー)へのリカーリング収益型ビジネスモデルでボーイング機体事業の影響を受けにくい構造を持っています。
ボーイングの2025年CMOによると、航空旅客需要は今後20年間で毎年平均4.7%増加する見込みです。新興国市場は2044年に世界の民間航空機のうち50%超を占めるとみられ、特にアジア地域内での旅客需要増加・LCC拡大・航空機の性能向上による適用航路拡大が単通路機需要の主要な牽引役となっています。
日本は国際旅客輸送の96%を航空輸送に依存しており(経済産業省・2024年)、航空機産業は国民経済が依拠する重要インフラです。航空機の部品点数は300万点にも及び、中小を含めた幅広いサプライチェーンが存在し、波及効果の大きい産業です。
ICAOは2022年10月に2050年カーボンニュートラル達成の目標を合意しました。SAF(持続可能な航空燃料)の活用・新技術(水素・電動化)の導入・運航方式改善の組み合わせなしには目標達成が困難とされており、新型機開発における環境性能の要件が年々厳しくなっています。エアバスは2035年頃の水素推進航空機導入を目指す「ZEROe」プロジェクトを進行中です。
日本成長戦略会議 第3回 資料2(2026年3月)は「民間航空機開発において必要な設備やサプライチェーン、人材等は防衛産業と共通部分も多くシナジー効果が高く安全保障上も重要。民間航空機産業への投資は、防衛分野への技術裨益を生むとともに、日米間の航空・防衛協力を支える戦略的基盤として不可欠」と明示しています。
日本成長戦略会議 第3回 資料2(2026年3月)は「次期単通路機では、これまで我が国が参画できていない仕様設計や認証等の工程に参画することで、システムインテグレーション能力の獲得を目指す」としています。現在の日本の参画は主に「製造・品質保証」の段階であり、「仕様設計・上流工程・認証」への参画が次のステップとして位置づけられています。
日本成長戦略会議 第3回 資料2(2026年3月)は「安全認証に対応する専門人材不足」「試験設備の不足や老朽化」をボトルネックとして明示しています。FAA(米国連邦航空局)・EASA(欧州航空安全局)との相互認証取得・国際標準への対応が日本企業の単通路機上流参画の前提条件となりますが、この分野の専門人材は国内で慢性的に不足しています。
航空機産業は部品点数300万点・10〜20年の開発期間・型式証明取得という参入障壁の高い産業です。航空会社は実績を最優先するため、新規参入企業が実績なしにTier1認定を受けることは極めて困難です。日本企業はB787プログラムで35%の機体製造を担う実績を積み上げましたが、単通路機・エアバス機での実績は限定的な状態が続いています。
航空機開発は初期の研究開発から型式証明取得・量産・アフターマーケットまでの全工程で、投資開始から利益回収まで10〜20年を要する産業です。日本成長戦略会議 第3回 資料2(2026年3月)は「先行技術開発投資が大きく、投資回収までに時間がかかる」を主要なボトルネックとして明示しています。この時間軸の長さと不確実性が民間企業単独での大規模投資を困難にしており、政府支援の役割が大きくなる構造です。
政策パッケージとして、JAXA等の研究機関の試験・実証インフラ基盤の不足・老朽化への対応として設備整備支援が示されています。試験設備の整備は「海外の技術や設備では取得できない認証に有利な試験機能」の確保として位置づけられており、国内での飛行試験環境の整備が開発期間短縮・費用低減につながるとされています。
日本成長戦略会議 第3回 資料1「戦略17分野における主要な製品・技術等」(2026年3月)は、民間航空機産業の選定理由として「民間航空機開発のサプライチェーンや人材等は防衛産業とのシナジー効果も高く、安全保障上も重要であり、生産・技術基盤の自律性確保が急務」としています。
航空機向けの高品質な部素材(炭素繊維・チタン・特殊合金・セラミック複合材・粉末冶金等)のサプライチェーンは欧米の一部事業者により寡占化されており、世界的に供給力がひっ迫しています。特に次期単通路機搭載エンジンの高温・高圧部へ参入するためのセラミック複合材(CMC)や粉末冶金等の国内サプライチェーン構築が急務とされています(資料2・2026年3月)。
資料2(2026年3月)は「民間航空機産業への投資は、日米間の航空・防衛協力を支える戦略的基盤として不可欠」と明示しています。B787を通じて確立した日米間の民間航空機サプライチェーン協力関係は、防衛分野での協力基盤とも連動しており、単通路機分野での参画拡大はこの協力関係を次世代に継続・拡大するという安全保障上の意味を持ちます。
| 章 | 指標名 | 数値 | 出典・時点 |
|---|---|---|---|
| 第1章 | 民間航空機 世界市場規模 | 2,112億ドル(2024年) | Research and Markets |
| 第1章 | 今後20年間 新造機需要 | 4万3,600機(ボーイング2025年CMO) | ボーイング 2025年6月 |
| 第1章 | うち単通路機比率 | 72%(2025年CMO) | 同上 |
| 第1章 | 単通路機受注残 | 1万機・過去最高(解消に10年) | 日本経済新聞 2025年 |
| 第1章 | エアバス受注残 | 8,726機(2025年1月) | SecondWave 2025年6月 |
| 第1章 | ボーイング受注残 | 5,643機(2025年1月) | 同上 |
| 第1章 | 日本航空機産業 合計生産額 | 2025年に初の2兆円超え | 日本経済新聞 2026年2月 |
| 第2章 | 2050年の日本の目標 | 約6兆円/年規模以上の市場獲得 | 資料2 2026年3月 |
| 第2章 | 次期単通路機 製造目標 | 2050年までに約8,000機 | 同上 |
| 第2章 | 次期単通路機搭載エンジン目標 | 世界シェア約40% | 同上 |
| 第3章 | エアバス単通路機市場シェア | 約60〜65%(推計・2025年) | SecondWave 2025年6月 |
| 第3章 | ボーイング2024年通期損失 | 118億ドル(2018年以来黒字なし) | 同上 |
| 第3章 | B787機体製造の日本比率 | 35%(三菱重工・川崎重工・SUBARU) | 日刊工業新聞 2024年 |
外部環境編では以下の構造を数字と事実で整理しました。
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© 2026年03月 産業構造分析レポート ── 民間航空機(次期単通路機・次世代航空機)(外部環境編)