本レポートは、高市政権「戦略17分野」合成生物学・バイオの「バイオものづくり」の外部環境を、就職・転職検討者および株式投資家向けに数字と事実のみで記述します。所管は経済産業省です。
良し悪しの評価・投資推奨・将来予測は行いません。
バイオテクノロジー分野(健康・医療・ものづくり・農林水産を含む全体)の世界市場は2030年に約200兆円〜500兆円規模に達すると見込まれています(日本政策投資銀行・2023年3月)。バイオものづくり(工業化学・素材・燃料・食品等のいわゆる「ホワイトバイオ」中心)の経済効果に限定すると、2030〜2040年で約165兆円が見込まれています(2020 McKinsey Global Institute分析を元に1ドル150円で経産省計算)。
合成生物学・次世代バイオプラットフォームに特化した市場では、2024年に245.8億ドルと評価され、2034年には1,929.5億ドル規模(CAGR 28.63%)へ急拡大するとの予測も示されています(GII市場調査レポート)。バイオものづくり産業全体では、2040年の世界市場規模を150兆円と予測する調査もあります(アックスタイムズ・2025年7月)。
バイオものづくりの応用分野は「①バイオ医薬品(モノクローナル抗体・組換えタンパク質・ワクチン等)」「②産業用酵素(洗剤・食品加工・テキスタイル・バイオ燃料等)」「③バイオ燃料(バイオエタノール・バイオディーゼル・持続可能な航空燃料等)」「④バイオプラスチック・バイオマテリアル(PLA・PHA等)」「⑤バイオ化学品(有機酸・アミノ酸・ビタミン等)」「⑥バイオ農業(生物農薬・生物肥料等)」の6つが中心です(GII市場調査レポート)。このうち本レポートは医薬品・再生医療以外の「素材・燃料・化学品・食品等のバイオものづくり」(ホワイトバイオ)を主な対象とします。
日本成長戦略会議 第3回 資料1「戦略17分野における主要な製品・技術等」(2026年3月)は「2040年の我が国企業の売上(合計)目標は11.9兆円」と明示しています(政策目標として示されている)。この目標は「基盤となるバイオ製造技術の優位性確保および高付加価値領域(高機能成分・素材等)を中心とするグローバルでの市場獲得」と「経済安全保障・脱炭素の観点から国内生産が肝要な製品領域における輸入品代替」の2軸で達成を目指すとされています(同)。
日本政府は2019年にバイオ戦略を策定し(2020年更新)、「2030年に世界最先端のバイオエコノミー社会」を目標として掲げました。2024年6月には「バイオエコノミー戦略」を統合イノベーション戦略推進会議で決定しています。2022年度には「バイオものづくり等のバイオ分野に総額1兆円規模の大型予算」が措置され、本格的な国家プロジェクトが始動しています(バイオエコノミー戦略・2024年6月)。
日本成長戦略会議 第3回「先行して検討を進めている主要な製品技術等の官民投資ロードマップ素案」(2026年3月)は「既存製品との厳しい価格競争にさらされる中、安定した需要の見通しが不十分」「技術・サプライチェーンが発展途上で既存製品と比べて生産コストが高い」を主要課題として明示しています。石油由来製品は長年にわたる大規模生産によるコスト最適化が進んでおり、バイオものづくり製品がこれと対等な価格競争力を持つには、スケールアップ・技術高度化・初期需要創出という段階的な取り組みが必要です。
同資料は「スケールに応じた機器設備および大規模生産設備への投資が行いにくい」「技術・生産プロセス開発段階における過大な設備投資リスクを分散・低減させる仕組み」が必要と明示しています。バイオものづくりは発酵・培養スケールアップの不確実性が高く、ラボスケール→パイロットスケール→商用スケールへの移行で大規模な追加投資が必要です。この「スケールアップリスク」が民間投資を抑制する構造的問題として認識されています。
同資料は「安価な糖原料と労働力にアクセス可能な地域において一部商用化が先行(米:トウモロコシ、南米:サトウキビ、中:大規模生産能力)」と明示しています。バイオものづくりの商用化先進地域は、安価なバイオマス原料(糖原料)へのアクセスが競争優位の源泉となっており、日本の立地環境(高コスト・糖価調整制度により砂糖の原料糖が割高になる構造等)は産業化の障壁になっています。日本成長戦略会議 第3回「先行して検討を進めている主要な製品技術等の官民投資ロードマップ素案」(2026年3月)は「糖価調整制度における工業原料糖の除外」を政策課題として明示しています。
米国は2022年9月12日の大統領令でバイオものづくりを国家戦略の中核に位置づけました(統合イノベーション戦略推進会議)。National Biotechnology and Biomanufacturing Initiativeのファクトシートは「バイオものづくりが今後10年以内に製造業の世界生産の約1/3を置き換え、金額換算で約30兆ドル(約4,000兆円)に達する」という分析を示しています。2023年3月にはさらなる具体的な方向性を示した「Bold Goals for U.S. Biotechnology and Biomanufacturing」を発表しています。
日本成長戦略会議 第3回「先行して検討を進めている主要な製品技術等の官民投資ロードマップ素案」(2026年3月)は「米国や中国では技術開発を一元的に担うプラットフォームが台頭し、競争が熾烈化している」と明示しています。米国では商業規模のバイオファウンドリへの大規模投資が進んでいます。
中国は「第14次5カ年計画バイオエコノミー発展計画」(2021年)で合成生物学・バイオものづくりを国家重点分野に位置づけ、天津市・中国科学院の合成生物技術イノベーションセンター・山西省の合成生物産業エコロジーパーク等への投資を進めています(アックスタイムズ・2024年)。安価な原料・大規模生産能力・国家補助金を背景に、中国は国際市場での競争力を急速に高めています。
EUは「欧州バイオエコノミー戦略」のもとで、研究開発プログラム「Horizon Europe」・「Circular Bio-based Europe Joint Undertaking(CBE JU)」による助成を実施しています(アックスタイムズ・2024年)。EUは2025年から施行中のEU Green Dealと連動して、バイオベース製品の需要創出・グリーン公共調達の推進を組み合わせた初期市場の形成を図っています。
日本成長戦略会議 第3回「先行して検討を進めている主要な製品技術等の官民投資ロードマップ素案」(2026年3月)は「バイオものづくりの競争力の源泉はバイオ製造技術そのものであり、特に『ウェット』領域の成熟度が国際競争力を決定する」と明示しています。
「ウェット」領域とは微生物や細胞を培養・発酵させ、条件調整や装置運転を通じて目的物質を安定的・大量に生産するための知見や技能を含む実際の実験・製造現場を担う領域です。「ドライ」領域とは設計・解析・シミュレーションなどの計算・情報処理を担う領域です(同)。
最先端のバイオものづくりには「DBTLサイクル」と呼ばれる手法が用いられます。Design(設計)→Build(構築)→Test(試験)→Learn(学習)の高速サイクルをゲノム合成・ゲノム編集等のバイオテクノロジーと機械学習・ロボティクス等のデジタル技術の統合的な運用で回すことで、スマートセル開発の効率化・高度化が進みます(日本政策投資銀行・2023年3月)。AI・機械学習を活用してこのサイクルを加速できる企業・プラットフォームが国際競争力を左右します。
バイオものづくりの中核技術は「スマートセル」の設計・開発です。スマートセルとは高度にゲノムがデザインされた微生物・細胞であり、物質生産性を高度に高め、目的物質を効率的に産生します(経産省・2023年4月)。スマートセルの開発コスト・スピードは10年前と比較して大幅に低下しており、合成生物学の発展がこれを可能にしています。
バイオファウンドリとはDNA合成・ゲノム編集・培養・解析等の一連のスマートセル開発プロセスを自動化・高速化するロボット・AI統合型の研究製造施設です。米英中が先行して整備しており、日本もSIP(戦略的イノベーション創造プログラム)等を通じてバイオファウンドリの整備を進めています。
バイオものづくりの産業化にはGMO(遺伝子組換え)・ゲノム編集技術を使用した製品への消費者受容性が不可欠です。日本では遺伝子組換え表示制度・ゲノム編集食品の届出制度が整備されていますが、消費者認知はまだ発展途上です。資料2(2026年3月)は「消費者の認知拡大・文化創造に向けた環境整備(消費者教育・学校教育・マーケティング・広報)」を政策課題として明示しています。
日本成長戦略会議 第3回「先行して検討を進めている主要な製品技術等の官民投資ロードマップ素案」(2026年3月)は「バイオものづくりは国内資源(再生可能なバイオマス資源、廃棄物などの未利用資源)を有効活用し、我が国技術により国内で生産・高付加価値化させることが可能。輸入資源依存、製造業の空洞化、地球温暖化といった課題を乗り越えながら経済安全保障を実現するとともにグローバルの成長を取り込む鍵となる」と位置づけています。
同資料は「米中をはじめとする技術開発競争の中で、主導権を他国に握られた場合、国内で産業化・事業化する余地は急速に失われる恐れがある」と明示しています。バイオものづくりの技術プラットフォーム(ゲノム設計ツール・AI設計支援・バイオファウンドリ)が特定国に集中すれば、その国の規格・技術・知財に依存する構造が生じます。現状、ゲノム設計ツールのGinkgo Bioworks(米)・Twist Bioscience(米)等の米国プラットフォーム企業が国際市場で先行しています。
同資料は「経済安全保障や脱炭素の観点から国内生産基盤の構築が肝要となる領域(バイオエタノール等)における需要創出および供給能力拡充を進め、中長期的な外部依存リスクの低減と経済の自律性確保を図る」と明示しています。航空燃料(SAF・持続可能な航空燃料)のバイオ由来品については国際的な需要創出の動きが本格化しており、日本においても2030年に国内航空燃料の10%をSAFにする目標(国交省)が設定されています。
| 章 | 指標名 | 数値 | 出典・時点 |
|---|---|---|---|
| 第1章 | バイオ産業の経済効果(ホワイトバイオ中心) | 約165兆円(2030〜2040年) | McKinsey/経産省計算 |
| 第1章 | バイオものづくり産業 世界市場規模予測 | 2040年150兆円 | アックスタイムズ 2025年7月 |
| 第1章 | 合成生物学・次世代バイオプラットフォーム市場 | 245.8億ドル(2024年)→1,929.5億ドル(2034年)CAGR 28.63% | GII市場調査レポート |
| 第1章 | 日本企業の売上目標 | 11.9兆円(2040年・政策目標として示されている) | 資料1 2026年3月 |
| 第2章 | 日本のバイオ分野への予算措置 | 2022年度に総額1兆円規模の大型予算 | バイオエコノミー戦略 2024年6月 |
| 第4章 | 米国の試算 | 今後10年以内に製造業の世界生産の約1/3を置き換え・約30兆ドル(約4,000兆円) | 米国大統領令ファクトシート 2022年9月 |
| 第3章 | 先行商用化地域の優位 | 米:トウモロコシ、南米:サトウキビ、中:大規模生産能力 | 資料2 2026年3月 |
| 第2章 | 官民投資の具体金額 | 「今夏の日本成長戦略の策定に向けて取りまとめ予定」(未確定) | 資料2 2026年3月 |
【免責事項】本レポートは就職・転職および投資判断の参考情報として作成されたものであり、特定の投資・転職行動を推奨するものではありません。市場規模数値は各調査機関の定義・算定方法・集計対象が異なるため単純比較はできません。「政策目標として示されている」と注記した数値は政府が目標として掲げた値であり達成を保証するものではありません。官民投資の具体的金額は2026年夏の取りまとめ予定であり本時点では未確定です。データ基準時点は2026年04月です。
© 2026年04月 産業構造分析レポート ── バイオものづくり(外部環境編)