本レポートは、高市政権「戦略17分野」合成生物学・バイオの「バイオ医薬品・再生医療等製品等」の外部環境を、就職・転職検討者および株式投資家向けに数字と事実のみで記述します。所管は経済産業省です。
良し悪しの評価・投資推奨・将来予測は行いません。
日本成長戦略会議 第3回「先行して検討を進めている主要な製品技術等の官民投資ロードマップ素案」(2026年3月)は「世界の医薬品市場は2022年で約200兆円規模と推計され、バイオ医薬品、再生・細胞・遺伝子治療等の比率は4割を占めている」と明示しています。2022〜2028年のモダリティシェアは低分子医薬が約50%・抗体医薬が約25%・タンパク/ペプチド医薬が約15%で推移すると見込まれています(JST/CRDS「創薬モダリティの潮流と展望」2024年)。
バイオ医薬品市場は成長を続けており、2028年には6,940億ドルに達すると予測されています(市場調査レポート2024年版)。日本国内のバイオ関連市場は2025年に6兆7,025億円と推定されており、前年比2.2%増加しています(日経バイオテク独自調査・2025年)。
同資料は「ファーストインクラス製品・ベストインクラス製品を含む特許品の世界市場は年平均9.6%で拡大している。我が国企業の売上は約11.6兆円(シェア6.9%)」と明示しています。世界の医薬品市場の約6割が集中する日米欧において、日本企業が同時承認を得て市場獲得できるかが課題として示されています。
日本成長戦略会議 第3回 資料1(2026年3月)は「2040年の我が国企業の売上(合計)目標は23.0兆円」と明示しています(政策目標として示されている)。これは2022年時点の約11.6兆円から2倍超を目指す目標です。達成には「海外で製造されている国内向けバイオ医薬品の国内製造化」「アジアの再生医療等製品等のCDMO市場のシェア獲得」「創薬ベンチャーのグローバル展開」という3本柱が示されています(同)。
ADCとはモノクローナル抗体をリンカーを介して細胞毒性薬と結合させた標的がん治療薬です。健康な組織への損傷を最小限に抑えながら、薬物をがん細胞に選択的に届けます。世界のADC市場規模は2023年に93億3,000万ドル・2024年に約127億ドルと評価されており、2031年に約297億ドル(CAGR 15.6%)ないし2032年に約354億ドル(CAGR 13.94%)に達すると複数の市場調査が示しています。
日本では第一三共の「エンハーツ(トラスツズマブ デルクステカン)」が世界的に高い評価を受けており、米国・欧州・アジアで承認を取得しています。ADCの製造には高度なバイオ製造プロセス(抗体生産・リンカー合成・コンジュゲーション・品質管理)が必要であり、製造技術を持つCDMOへの需要が急増しています。
次世代抗体医薬品(ADC・バイスペシフィック抗体等)の市場規模は2025年の164億ドルから2030年に335億ドル(CAGR 15.4%)へ拡大すると予測されています(市場調査レポート・2026年)。中外製薬の「スイッチ抗体」「リサイクリング抗体」等の独自技術を用いた製品が国際的に注目されています。FDAによるバイオ医薬品の承認件数は2022年に低分子医薬品を上回っており(市場調査2024年版)、この傾向は継続しています。
CAR-T(キメラ抗原受容体T細胞)療法は白血病・悪性リンパ腫・多発性骨髄腫等の血液がんを中心に市場が拡大しており、国内市場は2030年に350億円(2023年比2.0倍)と予測されています(富士経済・2024年)。iPS細胞由来のCAR-T細胞治療薬やNK細胞を用いたCAR-NK細胞治療薬の発売が予定されており、2030年代以降の市場拡大が見込まれています。
iPS細胞技術ではクオリプス(キヤノンメディカル・武田薬品の出資会社)が虚血性心疾患を対象とするiPS細胞由来心筋シートの承認申請を2024年12月に提出しました(再生医療.net・2025年1月)。住友ファーマはiPS細胞由来ドパミン神経前駆細胞・iPS細胞由来網膜色素上皮細胞の開発を国内・米国で進めています。
mRNA技術は新型コロナワクチンで実証・普及が急速に進みましたが、2023年は5類移行による需要減少で市場が縮小しました。ただし2025年以降、がん・感染症・希少疾患への適用拡大が期待されており、中長期的な成長モダリティとして位置づけられています(富士経済・2024年)。遺伝子治療では米国で個別化遺伝子治療・遺伝子編集技術を用いた異種移植等が臨床段階に入っています(資料2・2026年3月)。
日本成長戦略会議 第3回「先行して検討を進めている主要な製品技術等の官民投資ロードマップ素案」(2026年3月)は「製造の海外依存による輸入超過」を主な課題として明示しています。日本国内で使用されているバイオ医薬品の製造の多くは海外CDMO(受託開発・製造)に依存しており、コスト・供給安定性・安全保障上のリスクが発生しています。
日本が医薬品を輸入超過に転じた背景には、「国内製薬企業の製造能力投資の不足」「国内CDMOの実績・能力不足」「海外CDMO(Lonza・サムスンバイオロジクス等)との価格競争」があります。
同資料は「ベンチャーの資金不足、長期・高リスクな投資回収構造、物価高や資材高騰によるコスト増」を不確実性の要因として明示しています。バイオ医薬品・再生医療の開発は「創薬研究→前臨床試験→臨床試験(Phase 1〜3)→承認申請→製造承認」という長期プロセスを経るため、投資回収に10〜15年以上かかることが通常です。この投資回収構造がリスクマネーの供給を困難にしています。
同資料は「大規模製造拠点の維持コストが膨大。随時利用可能なバイオリソース供給体制の不足」「感染症危機の備えと平時稼働率とのギャップ」を課題として明示しています。バイオ医薬品製造設備(バイオリアクター・無菌充填ライン等)は初期投資が極めて大きく(大型施設で数百億〜数千億円規模)、平時に稼働率が低ければ維持コストに対して収益が生まれない構造があります。
同資料は「米国の最恵国待遇(MFN)価格政策の動きがある中で、米国で医薬品を販売する製薬企業各社のグローバルでの上市戦略が不透明になっている。仮に、製薬会社が我が国への新薬導入に慎重になった場合、我が国で治験が実施されないリスクがある」と明示しています。米国が特定の医薬品について他国と同等以上の低価格を義務付けるMFN政策を導入した場合、製薬企業がグローバル価格体系を見直し日本への上市を抑制する可能性があります。
日本成長戦略会議 第3回「先行して検討を進めている主要な製品技術等の官民投資ロードマップ素案」(2026年3月)は「製造体制強化において先行するアジア諸外国は、バイオ医薬品を国家戦略上の重要な分野に位置づけ、イノベーション、生産、輸出などに焦点を当てて、急速に体制を強化している」と明示しています。
特に韓国のサムスンバイオロジクス(Samsung Biologics)は2011年創業ながら世界最大規模のバイオCDMO企業に急成長しており、2024年の売上高は4兆2,368億ウォン(約4,500億円)・総生産能力は約78万4,000リットルに達しています。中国はWuXi Biologics等のCDMOが急拡大しており、低コストの生産能力で市場を獲得しています。
日本成長戦略会議 第3回「先行して検討を進めている主要な製品技術等の官民投資ロードマップ素案」(2026年3月)は「他分野と同様に、AIを活用した創薬プロセスの高度化・効率化が進展している」と明示しています。候補分子の設計・スクリーニング・前臨床予測・臨床試験デザイン最適化の各段階でAIの活用が進んでおり、従来10〜15年かかっていた創薬期間の大幅短縮が期待されています。Alphabet傘下のIsomorphic Labsが2024年にノバルティス・イーライリリーとAI創薬で大型契約を締結しています。
同資料は「大規模製造拠点での安定生産に向けた製造自動化及び国内サプライチェーンの強化」を政策課題として明示しています。バイオ医薬品製造では培養条件の安定化・無菌充填の自動化・品質管理のデジタル化(PAT:Process Analytical Technology)が競争力の源泉となっています。国内AGCが2023年に約200億円を投じて製造施設を拡張しており(市場調査2024年版)、製造能力増強と自動化が並行して進んでいます。
同資料は「米国等では個別化遺伝子治療や、遺伝子編集技術を用いた動物の臓器を人に移植する技術(異種移植)が臨床段階に突入するなど、新領域における医療技術も急速に進展している」と明示しています。日本はiPS細胞技術で研究面の先行優位を持っていますが、商業化・製造体制の整備で米国・欧州に後れを取っている状況です。
日本成長戦略会議 第3回「先行して検討を進めている主要な製品技術等の官民投資ロードマップ素案」(2026年3月)は「ワクチンを含むバイオ医薬品・再生医療等製品等は、国民の健康や命に直結する、医療・経済安全保障上、極めて重要な分野。他国依存の現状を脱却し、感染症危機や海外情勢に左右されることなく、国内供給できる体制を構築する危機管理投資が必要」と位置づけています。
コロナ禍(2020〜2022年)における国産ワクチン不足・海外依存の露呈がこの認識を強化しており、再生医療等製品・遺伝子治療等の新モダリティについても同様の国内製造体制整備が急務とされています。
同資料は「国内製造拠点における製造受託実績獲得に向けた支援」「アジアの再生医療等製品等のCDMO市場のシェア獲得」を勝ち筋として明示しています。CDMO(Contract Development and Manufacturing Organization・医薬品開発製造受託機関)は製薬会社から医薬品の製造を受託する事業です。国内製造体制の確立と同時に、アジア向けCDMOサービス輸出による外貨獲得も狙っています。経産省は再生・細胞医療・遺伝子治療CDMO育成に向けた4年間総額383億円の補助金を2025年7月に採択しています。
| 章 | 指標名 | 数値 | 出典・時点 |
|---|---|---|---|
| 第1章 | 世界の医薬品市場規模 | 約200兆円(2022年)・バイオ等の比率約4割 | 資料2 2026年3月 |
| 第1章 | 特許品の世界市場成長率 | 年平均9.6%で拡大 | 同上 |
| 第1章 | 日本企業の医薬品売上・シェア | 約11.6兆円(シェア6.9%) | 同上 |
| 第1章 | 日本企業の売上目標(2040年) | 23.0兆円(政策目標として示されている) | 資料1 2026年3月 |
| 第1章 | 日本国内バイオ関連市場 | 6兆7,025億円(2025年・前年比+2.2%) | 日経バイオテク独自調査 2025年 |
| 第1章 | バイオ医薬品市場(世界) | 2028年に6,940億ドルに達すると予測 | 市場調査レポート2024年版 |
| 第2章 | ADC(抗体薬物複合体)世界市場 | 2023年93億ドル→2031年297億ドル(CAGR 15.6%) | Data Bridge Market Research |
| 第2章 | 次世代抗体医薬品市場 | 2025年164億ドル→2030年335億ドル(CAGR 15.4%) | 市場調査レポート 2026年 |
| 第2章 | CAR-T細胞治療 国内市場 | 2023年比2.0倍・2030年に350億円 | 富士経済 2024年 |
| 第3章 | 再生医療CDMO補助金 | 4年間総額383億円(経産省・2025年7月採択) | 経産省 2025年7月 |
| 第4章 | 官民投資の具体的金額 | 「今夏の日本成長戦略の策定に向けて取りまとめ予定」(未確定) | 資料2 2026年3月 |
【免責事項】本レポートは就職・転職および投資判断の参考情報として作成されたものであり、特定の投資・転職行動を推奨するものではありません。市場規模数値は各調査機関の定義・算定方法が異なるため単純比較はできません。「政策目標として示されている」と注記した数値は政府が目標として掲げた値であり達成を保証するものではありません。官民投資の具体的金額は2026年夏の取りまとめ予定であり本時点では未確定です。データ基準時点は2026年04月です。
© 2026年04月 産業構造分析レポート ── バイオ医薬品・再生医療等製品等(外部環境編)