本レポートは、高市政権「戦略17分野」航空・宇宙の「空飛ぶクルマ」の外部環境を、就職・転職検討者および株式投資家向けに数字と事実のみで記述します。所管は内閣府(経済安全保障)です。
良し悪しの評価・投資推奨・将来予測は行いません。
空飛ぶクルマ(eVTOL・AAM)の市場規模予測は、調査機関・定義・前提条件によって桁違いの幅があります。機体販売のみを対象とした推計か、運航サービス・インフラ・MRO・保険等まで含むかで大きく変わります。以下に代表的な調査数値を示しますが、比較には注意が必要です。
日本成長戦略会議 第3回「先行して検討を進めている主要な製品技術等の官民投資ロードマップ素案」(2026年3月)は「欧米製機体と差別化が可能な路線(都市内運航、観光などの短距離路線)を中心に、国内外市場の獲得を目指す(2040年頃:約1,500億円)」を政策目標として示しています(政策目標として示されている)。
空飛ぶクルマを商用運航するには、各国の航空当局による型式証明が必要です。型式証明とは、機体の設計・構造・強度・性能等が安全基準に適合していることを国が審査・検査する制度です。認証を取得なければ一人の乗客も有償で乗せることができません。この「型式証明」が空飛ぶクルマ産業最大の参入障壁となっています。
eVTOLの認証基準は欧米主導で標準化が進んでいます。ASTMやEUROCAEといった欧米の標準化機関が中心となっており、FAAとEASAが規制のハーモナイゼーション(整合化)を推進しています。日本成長戦略会議 第3回「先行して検討を進めている主要な製品技術等の官民投資ロードマップ素案」(2026年3月)は「認証に使用する国際規格が海外主導で標準化、機体開発と並行した制度整備が国際的に進行中」をボトルネックとして明示しています。
資料2(2026年3月)は「空飛ぶクルマは、世界的に技術開発段階にあり、機体・サービス市場は未成立」と明示しています。これは「将来の大市場予測」と現実の差異を示す重要な記述です。
現在商業飛行が行われているeVTOLは限定的であり、EHang(中国)の EH216-Sが2023年に中国民航局から型式証明を取得し中国国内で有人の商業飛行を開始しているものの、グローバルな市場形成は認証取得・量産・インフラ整備という複数の前提条件を必要とします。
世界には300社超のeVTOL開発企業が存在しており(2024年時点・Market Growth Reports)、2024年時点で300以上のeVTOL機モデルが開発中とされています。型式証明の最終段階に近いのは米国Joby Aviation・Archer Aviationであり、欧州ではエアバス(CityAirbus NextGen)・Volocopterが有力です。中国ではEHangが先行して型式証明を取得しています。日本のSkyDriveは型式証明プロセスで欧米に遅れをとっている状況ですが、万博でのデモフライトを経て認証プロセスを加速させる段階にあります。
空飛ぶクルマの主要な社会的需要は都市交通渋滞の解消・地域交通格差の解消・災害時の緊急輸送です。特に東南アジア等の都市では都心部の約10km圏内で長時間の交通渋滞が日常的に発生しており、短距離・高頻度移動へのニーズが高いとされています(資料2・2026年3月)。観光地・リゾート・離島での移動手段としての需要も期待されています。
資料1(2026年3月)は「要素技術開発やサプライヤー育成は、安全保障上も重要な航空機産業の発展にも貢献するなど、生産・技術基盤の自律性確保が重要」と明示しています。eVTOLの電動推進・自律飛行・軽量構造等の技術は民間・防衛双方への転用が可能なデュアルユース技術として位置づけられています。
資料2(2026年3月)は「開発支援を行っている国内機体(マルチコプター型)は、都市内運航や観光などの短距離路線で強みを持ち、これらのニーズがある都市及び観光地において価格競争力を活かしながらビジネスモデルを構築し、市場展開する」と示しています。日本国内メーカーは小型・軽量・安価なマルチコプター型機体を強みとし、欧米メーカーが注力する長距離・高速ティルトローター型との差別化を図る戦略です。
大阪府ロードマップによれば、2025年頃の「立ち上げ期」はライセンスを取得したパイロットが操縦し限られた路線で定期運航→2030年頃の「拡大期」に自動化比率が高まりパイロット不搭乗の遠隔操縦導入→2035年以降の「成熟期」に人間が関与しない自律飛行による高密度運航、という段階的移行が想定されています(日経クロステック・2022年、大阪府「大阪版ロードマップ」をもとに)。自律飛行が実現してはじめてパイロット費用の削減・乗客数増・運航コスト低減が可能になり、採算性が改善します。
eVTOLの競争力はバッテリーのエネルギー密度・モーターの電力密度・軽量複合材技術の進展に依存します。現状のバッテリー技術では航続距離・搭載能力に制約があり、2030年代以降のバッテリー性能向上が市場拡大の前提条件のひとつです。日本はCFRP(炭素繊維複合材)や高精度モーター技術で既存航空機産業から強みを有しており、サプライヤーとしての参画が期待されています(経産省AAM市場参入可能性検討事業最終報告書・2025年2月)。
商用有人飛行には型式証明が必須です。三菱スペースジェット(MRJ)が型式証明取得の困難さにより開発中止(2023年2月)に至った先例が示す通り、認証プロセスは「コスト・時間・技術の三重の難関」です。世界に300社超の開発企業が存在する一方で、型式証明取得の最終段階に近いのは米国の数社に限られており、多くの企業が資金調達困難・認証遅延により撤退・縮小に追い込まれています。欧州の有力企業Liliumは2024年に経営破綻(その後再建手続き中)しており、開発リスクの高さが示されています。
資料2(2026年3月)は「認証取得に向けた長期の航空機開発に伴うキャッシュフローの不安定性」をボトルネックとして明示しています。型式証明取得には数年〜10年規模の開発期間と数百億〜数千億円の投資が必要である一方、商用運航開始まで収益が発生しないため、資金調達の継続性が事業継続の鍵です。
経産省の最終報告書(2025年2月)は「欧米諸国と比較して日本はOEMの数が少なく、海外OEMによる機体開発の主導が進むことにより、日本のAAM産業としての脅威になり得る」と指摘しています。日本が選択できる戦略的ポジションは「国産OEMとして完成機開発を主導する(SkyDrive型)」か「海外OEMへの部品サプライヤーとして参入する(CFRP・モーター・電池等)」かに大きく二分されます。
資料1(2026年3月)は空飛ぶクルマの「要素技術開発やサプライヤー育成は、安全保障上も重要な航空機産業の発展にも貢献する」と位置づけており、民間航空機・防衛・宇宙との産業基盤共有が政策的に期待されています。eVTOL機体開発で蓄積される電動推進・軽量構造・自律制御等の技術は、次世代航空機・次世代無人機の技術基盤にも転用可能です。
資料2(2026年3月)は「実機を用い実機環境を模擬できる低速風洞等をJAXAに整備することにより、天候不順や自然環境のばらつきにとらわれない国内での飛行試験環境の獲得や開発期間短縮・開発費用低減につながる」と示しています。これは単にeVTOL向けではなく、無人航空機(民生)と共通の試験インフラとして整備される方向です。
| 章 | 指標名 | 数値 | 出典・時点 |
|---|---|---|---|
| 第1章 | 世界市場(2040年頃・機体・サービス等) | 約200兆円(推計) | 資料1 2026年3月 |
| 第1章 | 世界AAM市場 CAGR | 23.7%(2024→2033年・99億→460億ドル) | Report Ocean 2025年 |
| 第1章 | 世界eVTOL機体市場 CAGR | 約22%(2024→2033年・4億→24.7億ドル) | Straits Research |
| 第1章 | 日本政策目標(2040年頃) | 約1,500億円(政策目標として示されている) | 資料2 2026年3月 |
| 第2章 | SkyDrive 国交省適用基準発行 | 2025年2月10日 | SkyDrive 2025年2月 |
| 第2章 | SkyDrive 型式証明取得目標 | 2026年以降(目標値) | SkyDrive 公式 |
| 第2章 | SkyDrive FAA申請受理 | 2024年4月29日 | SkyDrive 2024年6月 |
| 第2章 | Joby Aviation FAA審査段階 | 第4段階(2025年2月時点) | NEDO資料 2025年4月 |
| 第2章 | 大阪・関西万博 開催期間 | 2025年4月13日〜10月13日 | 万博公式 |
【免責事項】本レポートは就職・転職および投資判断の参考情報として作成されたものであり、特定の投資・転職行動を推奨するものではありません。eVTOL・空飛ぶクルマの市場予測数値はすべて各調査機関の推計値であり実現を保証するものではありません。「政策目標として示されている」と注記した数値は政府が目標として掲げた値であり達成を保証するものではありません。SkyDriveの「2026年以降に型式証明取得」は同社の目標値であり、確定した日程ではありません。データ基準時点は2026年03月です。
© 2026年03月 産業構造分析レポート ── 空飛ぶクルマ(eVTOL・AAM)(外部環境編)