本レポートは、高市政権「戦略17分野」創薬・先端医療の「ファーストインクラス製品・ベストインクラス製品(医薬品、再生医療等製品)」の外部環境を、就職・転職検討者および株式投資家向けに数字と事実のみで記述します。所管は内閣府(健康医療)・デジタル庁です。
良し悪しの評価・投資推奨・将来予測は行いません。
日本成長戦略会議 第3回「先行して検討を進めている主要な製品技術等の官民投資ロードマップ素案」(2026年3月)は「世界の医薬品市場は2022年時点で約200兆円に達しており、ファーストインクラス製品・ベストインクラス製品を含む特許品の世界市場は、年平均9.6%で拡大している」と明示しています。世界の医薬品市場の約6割が日米欧に集中しており、この3地域での同時承認が市場獲得の鍵となります。
同資料は「我が国の医薬品産業は、世界有数の新薬創出国の地位を維持してきており、自動車関連産業、素材産業に次ぐ販売金額第3位の基幹産業となっている」と現状を示しています。日本企業の医薬品売上は約11.6兆円(シェア6.9%・2022年時点)です(資料2・2026年3月)。ノーベル賞受賞数世界2位(2001年以降・自然科学分野)という基礎研究力と、国民皆保険をベースとした医療機関の水準の高さによる良質な治験体制が強みです。
ただし、このシェアを維持・拡大するには「特許品のグローバル市場の年平均成長率(年平均9.6%)と同水準の成長を実現すること」が政策目標として示されており、現状維持は可能でも成長は厳しいという認識が背景にあります。
BCGとEvaluatePharmaによる分析(2023年7月時点)によると、グローバルで開発後期段階(Phase 3/申請中)にある新規モダリティ137製品のうち、**75%で日本での臨床開発が未着手**という状態でした(国立がん研究センター・がん新薬開発合同シンポジウム資料・2024年12月)。これが「ドラッグロス(日本で使えない薬が増えている問題)」の実態です。残りは「21%が日本でも同タイムラインで開発中」「4%が日本では遅れて開発中(ドラッグラグ)」という内訳でした。
「創薬力の向上により国民に最新の医薬品を迅速に届けるための構想会議」(2024年5月中間とりまとめ)は、国際共同治験の初回治験届出数を「2028年迄に2021年の1.5倍にあたる**150件**まで増加させること」を政策目標として示しています(政策目標として示されている)。日本製薬工業協会は2025年11月に「治験エコシステム業界宣言2025」を発出し、PMDA(独立行政法人医薬品医療機器総合機構)は2024年度より「治験エコシステム導入推進事業」を開始しています(日本製薬工業協会・2025年11月)。
日本成長戦略会議 第3回「先行して検討を進めている主要な製品技術等の官民投資ロードマップ素案」(2026年3月)は「製薬企業は、開発した医薬品の特許期間中の収益を研究開発に再投資する収益構造となっていることから、医薬品開発を継続する必要がある」と明示しています。このため、革新的新薬(ファーストインクラス・ベストインクラス)の開発成功と日米欧での同時承認・高薬価での発売が、次の研究開発への原資を生む構造的な好循環の前提となります。
同資料は「スタートアップの資金不足、国際共同治験の高コスト化による資金繰りの逼迫」を不確実性の要因として明示しています。2025年の国内未上場創薬ベンチャーの資金調達額は前年比約**25%増**と堅調に成長していますが(新生キャピタルパートナーズ・2026年1月)、米国のバイオテク産業とは依然として規模の差があります。2025年の創薬ベンチャーファイナンスは「全体の資金量は増えた一方で、投資先は絞り込まれている」という状況にあります(同)。
AMED「創薬ベンチャーエコシステム強化事業」は認定VCによる出資額の2倍相当の治験費用を補助し、1課題あたり最大**100億円**(補助率2/3)・最長2031年9月まで支援する制度として運用中です(AMED・2025年第10回公募)。
同資料は「米国の最恵国待遇(MFN:Most Favored Nation)価格政策の動きがある中で、米国で医薬品を販売する製薬企業各社のグローバルでの上市戦略が不透明になっている。仮に、製薬会社が我が国への新薬導入に慎重になった場合、我が国で治験が実施されないリスクがある」と明示しています。米国が特定の医薬品について他国最低価格を基準とする薬価を義務付けるMFN政策は、製薬企業が日本での薬価・上市スケジュールを再検討する動機となり得ます。
世界のAI創薬市場は2024年に約**10億ドル**と評価され、2037年には約**740億ドル**に達するとの予測があります(CAGR 約38%・市場調査レポート)。また、AI創薬へのグローバル投資額は2024年に約**30億ドル(約4,700億円)**規模に達したとも報じられています(ファーマ経営研究所・2025年7月)。
日本成長戦略会議 第3回「先行して検討を進めている主要な製品技術等の官民投資ロードマップ素案」(2026年3月)は「他分野と同様に、AIを活用した創薬プロセスの高度化・効率化が進展している」と明示しています。AIが変えている具体的な場面は「候補分子の設計(AlphaFold等によるタンパク質構造予測)」「バーチャルスクリーニング(膨大な化合物から有望候補を高速絞り込み)」「臨床試験デザインの最適化(患者選別・適応症特定)」「副作用予測」等です。
日本でも2024〜2025年にかけてAI創薬スタートアップが相次いで資金調達を実施しています。AMED「創薬ベンチャーエコシステム強化事業」の採択ベンチャーには、京都大学iPS細胞技術を活用したシノビセラピューティクス(2023年米国拠点整備)・低分子化合物の創薬スタートアップで2025年に米国拠点を親会社とした企業等が含まれています(経産省・創薬エコシステム強化事業資料)。同事業はAMED認定VCによる出資を条件とし、最大100億円の補助を提供しています。
日本成長戦略会議 第3回「先行して検討を進めている主要な製品技術等の官民投資ロードマップ素案」(2026年3月)は「米国等では、ファーストインクラス製品・ベストインクラス製品の開発に当たり、開発の効率化やリスク分散などの観点から、製品開発・販売で強みを持つ製薬企業が、技術シーズを有するスタートアップと連携するモデルが主流」と明示しています。バイオテクノロジースタートアップが革新的シーズを開発し、大手製薬企業がライセンスアウト・買収・共同開発で商業化するという分業構造が確立しています。
米国では「ベンチャーキャピタルが早期から資金を提供→スタートアップがPOC(概念実証)を取得→大手製薬企業が導入・買収→収益を次の研究開発に再投資」という好循環エコシステムが機能しており、日本が目指す「創薬エコシステム」のモデルとなっています。
同資料は「各国の治験誘致競争の激化」を不確実性の要因として明示しています。治験実施のコスト・スピード・患者エンロールメントの観点から、アジアでは韓国・シンガポール・中国が治験誘致で積極的な施策を展開しています。日本が国際共同治験の有力な実施地となるためには、運用面での改革(手続きの効率化・英語対応・FIH試験体制整備)が必要です。
日本成長戦略会議 第3回「先行して検討を進めている主要な製品技術等の官民投資ロードマップ素案」(2026年3月)は「ファーストインクラス製品・ベストインクラス製品の供給確保を通じて、治療法が未確立の疾病にも対処することは、国民の健康維持、健康医療安全保障の実現に直結する」と位置づけています。革新的新薬の創出は単なる経済的価値にとどまらず、国民が治療を受けられるかどうかに直結する安全保障上の課題です。
同資料の勝ち筋は「基礎研究力や高品質な治験の強みを活かし、実用化を担う人材の育成・流動性向上や、リスクマネーの呼び込み等によるスタートアップや国際共同治験における資金面・制度面の課題解消を図る。その上で、AIの戦略的活用や医療データの利活用推進も含めて、新たな創薬シーズの創出から実用化までを一気通貫で進める環境を整備し、成長が見込まれる海外市場の獲得につなげる『世界直行型』の開発を実現する」です。
| 章 | 指標名 | 数値 | 出典・時点 |
|---|---|---|---|
| 第1章 | 世界の医薬品市場規模 | 約200兆円(2022年) | 資料2 2026年3月 |
| 第1章 | 特許品の世界市場成長率 | 年平均9.6%で拡大 | 同上 |
| 第1章 | 日本企業の医薬品売上・シェア | 約11.6兆円(シェア6.9%) | 同上 |
| 第2章 | ドラッグロス——日本で臨床開発未着手率 | グローバル後期開発品137製品の75%(2023年7月時点) | BCG/EvaluatePharma分析 2024年12月 |
| 第3章 | 国際共同治験届出数目標 | 2028年までに150件(2021年比1.5倍・政策目標として示されている) | 構想会議中間とりまとめ 2024年5月 |
| 第5章 | AI創薬 世界市場 | 2024年約10億ドル→2037年約740億ドル(CAGR 38%) | 市場調査レポート |
| 第5章 | AI創薬 世界投資額 | 約30億ドル(約4,700億円)(2024年) | ファーマ経営研究所 2025年7月 |
| 第5章 | AMED創薬ベンチャーエコシステム強化事業 | 1課題最大100億円(補助率2/3)・最長2031年9月まで | AMED 2025年 |
| 第5章 | 国内創薬ベンチャー資金調達 | 前年比+25%(2025年) | 新生キャピタルパートナーズ 2026年1月 |
| 第3章 | 官民投資の具体的金額 | 「今夏の日本成長戦略の策定に向けて取りまとめ予定」(未確定) | 資料2 2026年3月 |
【免責事項】本レポートは就職・転職および投資判断の参考情報として作成されたものであり、特定の投資・転職行動を推奨するものではありません。市場規模数値は各調査機関の定義・算定方法が異なるため単純比較はできません。「政策目標として示されている」と注記した数値は政府が目標として掲げた値であり達成を保証するものではありません。官民投資の具体的金額は2026年夏の取りまとめ予定であり本時点では未確定です。データ基準時点は2026年04月です。
© 2026年04月 産業構造分析レポート ── ファーストインクラス製品・ベストインクラス製品(外部環境編)