| 戦略17分野 ㉒ フュージョンエネルギー | 政策実装・官民投資編 2026年05月
JAPAN GROWTH STRATEGY — FUSION ENERGY — POLICY MONITOR
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フュージョンエネルギー
政策実装・官民投資編
官民投資ロードマップ素案(日本成長戦略会議 第3回、2026年3月)構造に基づく政策モニタリングレポート
JT-60SA 統合試験運転
2026年3月11日
プラズマ加熱実験に向けた統合試験運転が開始。世界最大のトカマク型装置として本格始動
QST×NTT共同開発
2026年3月18日
核融合炉プラズマ制御用の高頻度リアルタイム通信技術を世界初実現
IAEAのGDP押し上げ試算
最大約700兆円超
長期的な全世界へのフュージョンエネルギーによる経済効果
発電実証目標
2030年代
世界に先駆けた発電実証を目指す(政策目標として示されている値)
CHAPTER 00 政策実装サマリー(2026年04月〜05月)
// ANALYST NOTE
2026年3月に日本のフュージョンエネルギー分野で2つの重要な出来事があった。3月11日、JT-60SA(世界最大級のトカマク型超伝導プラズマ実験装置、茨城県那珂市)がプラズマ加熱実験に向けた統合試験運転を開始した(QST)。3月18日にはQSTとNTTが核融合炉のプラズマ予測・制御のための高頻度リアルタイム通信技術を世界初実現したと発表した。2025年6月には「フュージョンエネルギー・イノベーション戦略」が改定され、研究開発にとどまらず実証・産業化までを一体で支援する新たな国家方針が示された。令和7年度補正予算ではQST・NIFS・ILEの3拠点にスタートアップ等への供用も可能な実規模試験設備整備のために95億円が計上された。
2026年3月11日
JT-60SA統合試験運転開始
プラズマ加熱実験に向けた統合試験運転が開始。世界最大のトカマク型装置として本格始動(QST)
世界初
QST×NTT 通信技術
核融合炉のプラズマ予測・制御のための高頻度リアルタイム通信の実現(2026年3月18日)
95億円
令和7年度補正予算
QST・NIFS・ILEの3拠点に、スタートアップ等への供用も可能な実規模技術開発試験設備群を整備
2025年6月
イノベーション戦略改定
「フュージョンエネルギー・イノベーション戦略」改定。研究開発から実証・産業化までを一体支援する国家方針
直近2ヶ月の重要動向(2026年4〜5月)
// 官の動き
  • 2026年3月11日 :QST、JT-60SA統合試験運転を開始。世界最大のトカマク型超伝導プラズマ実験装置として2026年からの本格実験に向けた試験が始動 QST 2026.3
  • 「フュージョンエネルギー・イノベーション戦略」(2025年6月改定):2030年代の発電実証を目指し、実施主体の在り方やサイト選定の進め方など社会実装を促進する取組の在り方について検討 内閣府 2025.6
  • 令和7年度補正予算(95億円):QST(那珂市)・NIFS(土岐市)・ILE(大阪大学・吹田市)の3拠点に実規模技術開発のための試験設備群を整備。スタートアップへの供用も可能な体制 内閣府 2026.2
  • 第1回フュージョンエネルギーWG(2026年2月12日):文部科学省・経産省・内閣府が連携し、発電実証に向けた工学設計や社会実装促進策の検討を開始 内閣府 2026.2
// 民の動き
  • 2026年3月18日 :QST・NTTが核融合炉のプラズマ予測・制御のための高頻度リアルタイム通信技術を世界初実現。フュージョン発電実用化を支える通信技術を共創 QST 2026.3
  • JT-60SA:高速プラズマ位置制御コイル(FPPC)2体が完成(2026年3月)。プラズマを安定して維持するための重要部品が揃い、加熱実験の準備が整う Yahoo!ニュース 2026.3
  • 国内スタートアップ:大学等における研究開発成果をベースに複数のスタートアップが設立。SBIRフェーズ3基金(中小企業イノベーション創出推進基金)を通じた社会実装支援が進む 内閣府
  • 中国BEST(DT反応実証プラント):2027年完成を目指して建設中。ITERのDT運転(2039年)開始前に世界で唯一のDT運転が可能なプラントとなりうる ロードマップ素案 2026.3
日本の主要研究拠点マップ
拠点 機関 役割 直近動向
JT-60SA(那珂市) QST(日)+EUROfusion(欧) 世界最大のトカマク型超伝導プラズマ実験装置。ITERの支援研究・原型炉に向けた補完研究 2026年3月11日、統合試験運転開始。プラズマ加熱実験フェーズへ移行中
核融合科学研究所(NIFS、土岐市) 国立大学法人人間文化研究機構 ヘリカル型装置LHDによるプラズマ研究。人材育成プログラムの中核 イノベーション拠点化に向けた設備整備(令和7年度補正予算95億円に含む)
大阪大学レーザー科学研究所(ILE) 大阪大学 レーザー型(慣性核融合)フュージョンの研究開発 3拠点連携の一角として実規模設備整備中
六ヶ所村(BA活動サイト) QST+欧州 BA活動(幅広いアプローチ)の実施拠点。材料照射・計算機シミュレーション等 欧州研究者の来日受け入れ(将来的に延べ200人以上/年)
CHAPTER 01 1.現状認識と目指す姿【目標】
(1)現状
① 現状:研究開発段階だが「チョークポイントを握る」技術力——プラズマ対向機器・加熱装置
// ROADMAP
フュージョンエネルギーは、①カーボンニュートラル、②豊富な燃料(重水素は海水中に豊富)、③安全性(燃料供給や電源停止により反応が停止)、④環境保全性(放射性廃棄物は低レベルのみ)の特徴を有し、エネルギー問題と地球環境問題を同時に解決し得る次世代のエネルギーであるが、世界的にも未だ発電は実現されておらず、研究開発段階。我が国は、ITER計画やJT-60SAなど国立研究機関や大学において長年にわたり研究開発を進めてきており、プラズマ対向機器や加熱装置等を含め世界的にトップレベルの技術力を有している。現状、海外の野心的な計画においても、例えば、プラズマ対向機器(超高温下でも耐えられるタングステンモノブロックを用いたダイバータ等)や、高出力・高信頼性を誇る加熱装置など我が国がチョークポイントを握る重要技術が多数存在する。
// WHY IT MATTERS
「チョークポイントを握る」という表現が重要だ。フュージョンエネルギーは世界的に研究開発段階で、どの国も発電実現に至っていない。しかし、米国のスタートアップが大規模な実証プラント建設を進める際にも「日本製の超伝導線材などが多数使われている」(ロードマップ素案)という現実は、「発電の実現より前に、重要部品で日本が不可欠な役割を担う」という戦略が既に成立しつつあることを示す。これは⑰の「ファーストインクラス」と同様に、技術の完成より前に「なくてはならない存在」を確立する戦略だ。
// 海外動向

米国 多くのスタートアップが設立され、一部は多額の投資を集め実証プラントの建設を進めている(ロードマップ素案)。Commonwealth Fusion Systems(CFS)は2021年に2,200億円以上を調達し実証炉建設を進める。

中国 政府主導でDT反応を行う実証プラント(BEST)を2027年完成を目指して建設中。ITERのDT運転(2039年)開始までの間に世界で唯一のDT運転を行うプラントとなりうる。

英国 政府主導で発電実証に向けた取組を進めているが未だ設計段階(ロードマップ素案、2026年3月)。

(2)目標
2030年代の発電実証・世界フュージョン市場の一定シェア・主要コンポーネント100%シェア
// ROADMAP
中長期的には、全世界のフュージョンエネルギー市場の約○割。日本企業が海外においてもフュージョン発電所の建設を受注:シェア○割。主要コンポーネントのいくつか:シェア100%。世界に先駆けた2030年代の発電実証の実現(政策目標として示されている値)。
// POLICY MONITOR NOTE
「世界シェア○割」という数値が未確定(【P】は「提示予定」の意)なのは、フュージョン市場全体の規模が未だ見通し段階にあるためだ。「主要コンポーネントのいくつかでシェア100%」という目標は、「チョークポイントを握る技術での不可欠性確立」を定量的に表現したものだ。2030年代の発電実証という目標は、中国BESTが2027年にDT運転を開始した場合、「世界に先駆けて」という表現が成立しなくなる可能性もあり、発電実証のスピードが重要課題になっている。
CHAPTER 02 2.勝ち筋と官民投資の具体像【道筋】
(1)基本戦略:チョークポイント技術でのシステム輸出と2フェーズ推進
① 勝ち筋:チョークポイント技術を起点にシステム全体の設計・建設・運用能力へ
// ROADMAP
現状、海外の野心的な計画においても、例えば、プラズマ対向機器や加熱装置など我が国がチョークポイントを握る重要技術が多数存在するなど、我が国の技術は世界トップレベル。こうした技術力をベースに、今後さらに技術開発・実証を加速することにより、競争力のある(低コストな)フュージョンエネルギー発電システムを世界に先駆けて確立する。これにより、新たなエネルギー源として環境問題の解決や、エネルギー安全保障の強化を実現するとともに、システム輸出及び主要コンポーネント輸出を通じて海外市場を獲得する。
// WHY IT MATTERS
「コンポーネント輸出からシステム輸出へ」という戦略は⑪ロケット分野の「H3ロケットの射場から宇宙サービス全体へ」と同じ論理だ。現在は超伝導線材等のコンポーネントで「チョークポイントを握る」段階だが、将来は「フュージョン発電所をシステムとして設計・建設・運用できる企業」として海外から受注する段階を目指す。そのためには「フュージョンエネルギー発電所を設計・建設・運用できる企業」と「それを支えるコンポーネントや材料等の強固なサプライチェーン」の2層を同時に構築する必要がある。
// 官の動き(直近2ヶ月)
  • 「フュージョンエネルギー・イノベーション戦略」(2025年6月改定):産業化・サイト選定・実施主体の在り方を含む社会実装促進策の検討を進める 内閣府 2025.6
  • 令和7年度補正予算(95億円):QST・NIFS・ILEに実規模技術開発のための試験設備群を整備。スタートアップも利用可能な「フュージョン産業エコシステム」の基盤構築 内閣府 2026.2
// 民の動き(直近2ヶ月)
  • QST×NTT:核融合炉のプラズマ予測・制御のための高頻度リアルタイム通信技術を世界初実現(2026年3月18日)。フュージョン発電実用化を支えるICT技術での産学連携 QST 2026.3
  • 国内スタートアップ:SBIRフェーズ3基金(中小企業イノベーション創出推進基金)を活用した社会実装が進む。トカマク型・ヘリカル型・レーザー型など多様な方式の挑戦を促す体制 内閣府

② 2フェーズ戦略:研究開発フェーズ(今後5年)→発電実証フェーズ(2030年代)
// ROADMAP(研究開発フェーズ・今後5年)
国が中心となって要素技術の研究開発を推進。どの方式の実現にも共通的に必要な要素技術の開発を強力に推進するとともに、実現可能性があると考えられるフュージョン発電システムの技術開発を広く支援(QSTが中心となって進める実績のある方法で実現を目指す技術開発、スタートアップ等が進める様々な野心的な技術開発)。数年後を目途に、各取組の技術開発の進捗、民間を含めた体制整備の状況及び海外の動向を踏まえ、我が国として速やかに実現を目指すフュージョン発電システムを決定。
// ROADMAP(発電実証フェーズ・2030年代)
官民連携で発電実証プロジェクトを推進。官民の連携により人材・資金を集中的に投下することにより、競争力のある(低コストな)フュージョンエネルギー発電システムの発電実証を世界に先駆けて実現し、速やかに実用化する。サイト関連や燃料物質関連についても、国が自治体とも連携して支援。並行して、安全規制も整備。
// WHY IT MATTERS
「数年後を目途に実現を目指すフュージョン発電システムを決定」という表現は、現時点では「トカマク型・ヘリカル型・レーザー型のどれで発電実証を行うか」が確定していないことを示す。27分野の中でも、政策方針の重要部分がまだ決定されていない最も前段階の分野の一つだ。この「決定の延期」は技術の不確実性への対処であると同時に、「各方式の可能性を早期に排除しない」という複線アプローチの表れでもある。
CHAPTER 03 3.課題と政策パッケージ【政策手段】
フェーズ別の課題と政策パッケージ
研究開発フェーズ(今後5年間)の課題
// ROADMAP
不確実性の要因:技術の不確実性が最大の課題。多額の研究開発費を要する上に、現時点ではリターンの見通しを得ることは困難で民間投資が進みづらい。トリチウムの扱いなど、民間企業では研究開発が困難な課題も存在。
// WHY IT MATTERS
「民間企業では研究開発が困難な課題」としてトリチウム(三重水素)が挙げられているのは、核融合のDT反応(重水素とトリチウムの融合)に必要なトリチウムが放射性物質であり、その取り扱いに特殊な設備・安全管理・規制対応が必要なためだ。QST・NIFS・ILEの3拠点への95億円整備は、この「民間企業単独では困難な課題」を国立研究機関が担い、スタートアップに開放するという設計だ。
// 官の動き(直近2ヶ月)
  • 国による要素技術の研究開発推進:ITER計画・BA活動・JT-60SAを軸とした長年の実績を活かし、共通的な要素技術の開発を強力に支援 文科省 2026.2
  • 「他国に劣らない資金供給量を確保」という方針(令和7年6月改定版イノベーション戦略):米国が大規模な民間資金を集める中で、日本が資金面で不利にならないための方針 内閣府 2025.6
// 民の動き(直近2ヶ月)
  • 国内フュージョンスタートアップ:大学等における研究開発成果をベースに設立が進む。ただし、米国CFS(累計2,200億円以上調達)等と比較して資金規模で大きな差がある 各種資料

発電実証フェーズ(2030年代)の課題
// ROADMAP
①リソース制約:多額の費用、多くの人材が必要。用地、燃料物質の確保。②不確実性の要因:リターンの不確実性。安全規制の不確実性。地域理解。バックエンド・デコミッショニングの必要性。
// WHY IT MATTERS
「地域理解」という課題は、⑪ロケット分野の「射場用地確保」や⑱感染症対応製品の「献血の啓発」と同様の「技術・資金以外の社会的要因」だ。フュージョン発電実証プラントの建設には広大な用地と放射性物質(トリチウム)の取り扱いが伴うため、建設予定地の地域住民の理解・同意が必要になる。「バックエンド・デコミッショニング」は、発電実証後の廃止措置(解体・放射性廃棄物処理)の計画を事前に示す必要があるという課題だ。
📋 続編:課題・政策パッケージ編
「なぜ民間投資が進みにくいのか」「技術の不確実性・トリチウム取扱いの困難・地域理解・安全規制の整備という4つのボトルネック」を整理した「課題・政策パッケージ編」も近日公開予定です。
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出典
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本レポートは、公開されている政府資料・報道・企業IRをもとに編集した情報提供を目的としたものであり、投資助言・投資推奨を目的とするものではありません。データ基準時点:2026年04月〜05月。