本レポートは、高市政権「戦略17分野」資源・エネルギー安全保障・GXの「グリーン鉄」の外部環境を、就職・転職検討者および株式投資家向けに数字と事実のみで記述します。所管は経済産業省です。
良し悪しの評価・投資推奨・将来予測は行いません。
日本成長戦略会議 第3回「先行して検討を進めている主要な製品技術等の官民投資ロードマップ素案」(2026年3月)は「グリーン鉄の市場は**2050年に約5億トン**まで拡大するポテンシャルがある」と明示しています。2024年の世界粗鋼生産量は約18億トンとされており(世界鉄鋼協会等)、2050年時点の市場が全需要の相当部分をグリーン鉄が占める可能性を示す試算です。ただしこれは政策環境・技術進展・需要者の調達行動などの前提条件に依存した推計値です。
同資料は「2030年代前半に、自動車・建築・公共工事・造船・産業機械等向けの年約**300万t以上**の規模の高品質なグリーン鉄市場を国内外で獲得する」と明示しています(政策目標として示されている)。日本の粗鋼生産量は約8,000万〜9,000万トン(年間)であり、300万tは全体の3〜4%に相当する規模感です。
中国は依然として世界最大の鉄鋼生産国であり、2024年の世界の粗鋼生産量の半分強を生産し、世界の鉄鋼業界による温室効果ガス(GHG)排出量の60%以上を占めています(SteelWatch・2025年12月)。この中国の圧倒的な生産規模は、グリーン鉄の世界的な普及速度にも大きな影響を与えます。
日本成長戦略会議 第3回「先行して検討を進めている主要な製品技術等の官民投資ロードマップ素案」(2026年3月)は「高品質な素材は、主に高炉で生産されており、我が国の高炉比率は約**7割**を占め、欧米諸国等と比較し高くなっている」と明示しています。欧米では高炉比率が日本より低く、電炉(スクラップ溶解炉)の比率が高い傾向があります。
同資料は「高炉法は、コークスを用いた還元反応の際に多くのCO2を排出し、鉄鋼業は産業部門の中で最もCO2排出量の多い産業(約**4割**)である」と明示しています。日本全体でのカーボンニュートラル達成(2050年目標)において、鉄鋼業の脱炭素化は最も重要かつ困難な課題の一つです。脱炭素化には研究開発・設備投資だけでも2050年までに業界全体で**10兆円**の投資が見込まれています(日本鉄鋼連盟・2024年)。
日本鉄鋼連盟は「革新的技術の実装においては、既存高炉の改修時期に合わせた導入が必要であるところ、改修時期が期近となる中、とくに早急な対応が必要」と明示しています(GXカーボンプライシング専門WG・2024年9月)。高炉の改修は10〜15年に1回程度のタイミングで行われるため、このタイミングを逃すと次の改修まで電炉転換・プロセス変更の機会が遠のきます。JFEスチールの倉敷高炉代替(2027年稼働目標)等はこの時期的制約を踏まえた投資判断です。
グリーンイノベーション基金事業「製鉄プロセスにおける水素活用」プロジェクトでは国費負担額の上限を**4,499億円**として、日本製鉄・JFEスチール・神戸製鋼所・JRCM等が採択されています(経産省・2025年4月)。2030年までに製鉄プロセスにおけるCO2排出削減率**30%**(2013年比)の技術の実装を目指しています(経産省・2025年4月)。
鉄鋼業界は2025年10月、各鉄鋼製品のCFP(カーボンフットプリント)算定に関する業界共通のルールを整備するため「鉄鋼製品に関するCFP製品別算定ガイドライン」を新たに策定しました(資源エネルギー庁・2026年3月)。これはグリーン鉄の「GX価値の見える化」という政策目標(資料2・2026年3月)の具体的な第一歩です。
日本成長戦略会議 第3回「先行して検討を進めている主要な製品技術等の官民投資ロードマップ素案」(2026年3月)は「大型革新電炉等への初期投資負担が大きい」を主要課題として明示しています。日本製鉄の電炉3基への投資は総額8,687億円(2029年度まで)に上ります。業界全体では2050年までに研究開発・設備投資だけで10兆円の投資が見込まれており(日本鉄鋼連盟・2024年)、民間企業が単独で担うには規模が大きく政府支援が前提条件です。
同資料は「従来よりも高価格となるグリーン鉄への需要が短期的に創出されるか現時点において不透明」と明示しています。グリーン鉄は製造コストが従来の高炉製鉄より高いため、自動車・建設・造船等の需要家が「コスト増分を負担してでも低炭素な鋼材を調達したい」というインセンティブが必要です。現時点では「GX価値の見える化及び国際標準への反映が道半ば」(同)という状況です。
同資料は「世界的に高品位スクラップへの需要が高まる中で、安定的な高品位スクラップの調達が必要」「安価・安定な脱炭素電力・水素の確保、CCSの実施環境について不透明」を課題として明示しています。電炉はスクラップを電気で溶かす製鉄方法ですが「高品位スクラップ(不純物が少なく高機能鋼の製造に使える素材)」の確保競争が世界的に激化しています。また電炉の操業には大量の電力が必要であり、安価な再生可能エネルギー電力の確保がコスト競争力の鍵です。
欧州最大手のArcelorMittal(アルセロール・ミタル)は2024年、水素コスト・供給量の懸念から水素直接還元プロジェクトの建設開始を延期し、電炉のみを先行整備する方針を公表しました(経産省・2025年4月)。スペインのヒホンに110万トン/年の電気炉建設を開始し、セスタオに160万トンへの拡大を計画(2026年生産開始見込み)と発表しています(同)。
北欧のSSABは「HYBRIT®技術」(水素直接還元製鉄+電炉)を用い、2021年にパイロットプラントでの製造を実現。スウェーデンのStegraは豊富な高品位鉄鉱石・グリーン電力を背景に直接水素還元による商用製鉄所を建設中です(経産省・2025年4月)。H2 Green Steel(神戸製鋼所も出資)もスウェーデンの北部ボーデンで商用規模の水素還元製鉄所を建設中です(再生可能エネルギー財団・2024年)。
中国では水素を使用する鉄鋼生産に70億米ドル超の資金が投じられており、河鋼集団(120万トン規模のDRI試験プロジェクト)・中国宝武鋼鉄集団・晋南鉄鋼集団などの数社が試験的導入を成功させています。このプロセスは「中国が2030年までに、低炭素の一次鋼材について年間15〜20百万トンという世界トップレベルの生産量を実現させる軌道に乗る」ことを示唆しています(SteelWatch・2025年3月)。また2024年上半期は、中国において石炭を使用した製鋼設備の新規許可が一切出されず、認可されたのは電炉のみでした(同)。
EU-CBAM(Carbon Border Adjustment Mechanism)は、EU域外から輸入される鉄鋼・アルミ・セメント等の製品に対して、製造時のCO2排出に相当するコストを徴収する制度です。2023〜2025年は報告義務のみの移行期間でしたが、**2026年以降は排出権購入が義務化**されます(NEWSCON・2025年4月)。EU市場に鉄鋼を輸出する場合、CO2排出の多い製造方法では追加コストが発生します。
中国の鉄鋼輸入はEU市場シェア27%(2024年)に達し、グリーンスチールのプレミアム価格への対応を巡る競争が激化しています(NEWSCON・2025年4月)。EU域内鉄鋼メーカーはエネルギーコスト高騰・中国からの安価輸入という二重のプレッシャーの下でグリーン転換を迫られています。
欧米の主要自動車メーカーはサプライヤーに対して温室効果ガス排出量のデータ共有・削減目標の設定を要求しており(経産省GXカーボンプライシングWG・2024年)、調達する鋼材の炭素強度を評価基準に組み込む動きが加速しています。北欧SSABはVolvoとの連携で「世界初の脱炭素鋼を使った自動車」を商品化しています(自然エネルギー財団・2021年)。日本の自動車メーカーも同様の調達姿勢を示す方向にあります。
日本成長戦略会議 第3回「先行して検討を進めている主要な製品技術等の官民投資ロードマップ素案」(2026年3月)は「各国も脱炭素化に向けた技術開発や投資を推進している中、日本でもグリーン鉄の供給体制を構築することは、鉄鋼業の競争力維持・強化のために必要不可欠な危機管理投資」と明示しています。グリーン化に取り組まなければ、欧州のCBAMにより輸出競争力を失い、さらに国内でも炭素税等の環境コスト増大にさらされるという構造です。
同資料は「グリーン鉄生産において、主原料である高品位スクラップを安定的に確保することが必要であるが、各国が確保に動くことが予想される中、国内でのサプライチェーンを構築し供給能力を高めることで、国産資源確保につなげる」と明示しています。日本の鉄スクラップは現在、年間数百万トンが海外(主にアジア)に輸出されており、これを国内向けに転換することが高品位スクラップの確保戦略の一部です。EU(2027年から非OECD諸国への鉄スクラップ輸出を原則禁止)も同様の動きを強化しています(NEWSCON・2025年4月)。
| 章 | 指標名 | 数値 | 出典・時点 |
|---|---|---|---|
| 第1章 | グリーン鉄市場ポテンシャル(2050年・世界) | 約5億トン | 資料2 2026年3月 |
| 第1章 | 日本の市場獲得目標(2030年代前半) | 年約300万t以上(政策目標として示されている) | 同上 |
| 第2章 | 日本の高炉比率 | 約7割(欧米諸国等と比較して高い) | 資料2 2026年3月 |
| 第2章 | 日本の鉄鋼業のCO2排出比率 | 産業部門全体の約4割 | 同上 |
| 第2章 | 日本鉄鋼業全体の脱炭素化投資(2050年まで) | 研究開発・設備投資だけで10兆円見込み | 日本鉄鋼連盟 2024年 |
| 第3章 | GI基金「製鉄プロセスにおける水素活用」国費 | 上限4,499億円 | 経産省 2025年4月 |
| 第3章 | GI基金事業のCO2削減目標(2030年) | 製鉄プロセスにおけるCO2排出削減率30%(2013年比) | 同上 |
| 第3章 | 日本製鉄の電炉転換投資(2029年度まで) | 総額8,687億円(電炉3基・九州・瀬戸内・山口) | 日本製鉄公式 2025年5月 |
| 第3章 | 日本製鉄のGXスチール供給見込み | 約160万t/年(電炉転換290万t/年・CO2削減370万t/年) | 日本製鉄公式 |
| 第5章 | Super COURSE50 高炉CO2削減実績 | 世界最高記録となる43%削減を確認(2024年11〜12月) | 日本製鉄公式 |
| 第7章 | EU-CBAM 本格課金開始 | 2026年以降(鉄鋼等輸入品に排出権購入義務) | NEWSCON 2025年4月 |
| 第6章 | 中国の低炭素一次鋼材生産見込み(2030年) | 年間15〜20百万トン(世界トップ水準)の軌道 | SteelWatch 2025年3月 |
【免責事項】本レポートは就職・転職および投資判断の参考情報として作成されたものであり、特定の投資・転職行動を推奨するものではありません。市場規模数値は各調査機関の定義・想定シナリオが異なるため単純比較はできません。「政策目標として示されている」と注記した数値は政府が目標として掲げた値であり達成を保証するものではありません。官民投資の具体的金額は2026年夏の取りまとめ予定であり本時点では未確定です。データ基準時点は2026年04月です。
© 2026年04月 産業構造分析レポート ── グリーン鉄(外部環境編)