| 戦略17分野 ㉑ グリーン鉄 | 政策実装・官民投資編 2026年05月
JAPAN GROWTH STRATEGY — GREEN STEEL / HYDROGEN DIRECT REDUCTION — POLICY MONITOR
21
グリーン鉄
政策実装・官民投資編
官民投資ロードマップ素案(日本成長戦略会議 第3回、2026年3月)構造に基づく政策モニタリングレポート
グリーン鉄 市場規模(2050年)
約5億トン
世界全体の潜在的ポテンシャル
国内グリーン鉄市場目標
年約300万t以上
2030年代前半(政策目標として示されている値)
GI基金(水素活用製鉄)
上限4,499億円
日本製鉄・JFEスチール・神戸製鋼所コンソーシアム
JFEスチール 倉敷革新電炉
2027年度稼働
2025年3月に機関決定。世界最大規模の電気炉
CHAPTER 00 政策実装サマリー(2026年04月〜05月)
// ANALYST NOTE
グリーン鉄分野は「高炉改修時期」という物理的タイムリミットが投資判断を迫る。JFEスチールは2027年に改修時期を迎える倉敷高炉の代替として革新電炉への転換を2025年3月に機関決定し、2027年度中の稼働を目指す。日本製鉄は2026年から東日本製鉄所君津地区の第二高炉での水素系ガス吹込み技術の実証試験を開始する準備を進めており、2024年12月にはSuper COURSE50試験高炉でCO2削減率43%を達成した(経産省、2025年4月)。GI基金「製鉄プロセスにおける水素活用」事業(国費負担上限4,499億円)を通じて日本製鉄・JFEスチール・神戸製鋼所・JRCMのコンソーシアムが高炉水素還元・水素直接還元・大型電炉の3技術を複線的に開発中だ。「どの技術が優位か今は言えない」(JFEスチール北野社長)という現状は、技術の不確実性とともに、複線的アプローチの合理性も示している。
CO2削減率43%
日本製鉄 試験高炉(2024年12月)
Super COURSE50試験高炉で高温水素の直接吹込みによりCO2削減率43%を実現(経産省、2025年4月)
2025年3月
JFEスチール 革新電炉決定
倉敷高炉の代替として革新電気炉へのプロセス転換を機関決定。2027年度中の稼働を目指す
4,499億円
GI基金 水素製鉄事業
「製鉄プロセスにおける水素活用」事業の国費負担上限額。日本鉄鋼3社+JRCMのコンソーシアム
産業部門の約4割
鉄鋼業のCO2排出量
国内産業部門の中で最もCO2排出量が多い産業。業界全体で2050年CNに向け10兆円規模の投資が必要とされる
直近2ヶ月の重要動向(2026年4〜5月)
// 官の動き
  • 経産省製造産業局金属課「鉄鋼業のカーボンニュートラルに向けた国内外の動向等について」(令和7年4月16日)を公表。日本製鉄・JFEスチールの技術開発進捗をモニタリング 経産省 2025.4
  • GI基金「製鉄プロセスにおける水素活用」プロジェクト:国費負担額の上限を約4,499億円に設定。日本製鉄・JFEスチール・神戸製鋼所・JRCMの4者コンソーシアムが進行中 経産省 2025.4
  • 「排出削減が困難な産業におけるエネルギー・製造プロセス転換支援事業」:JFEスチールの革新電気炉へのプロセス転換を採択 NEDO/METI
// 民の動き
  • 日本製鉄(2026年3月24日) :GX取組み状況を公表。スクラップ+電炉・高炉水素還元+CCUS・水素直接還元+電炉という複線的アプローチを採用。マスバランス方式グリーン鋼材「Zebbies™ Advanced」の輸出を推進 日本製鉄 2026.3
  • JFEスチール:マスバランス方式グリーン鋼材「JGreeX®」を2023年度から販売開始。造船・建築・変圧器等にCO2削減価値を上乗せしたプレミアム価格で販売。国内海運8社に採用済み JFEスチール
  • 神戸製鋼所:ミドレックス技術(天然ガス→水素への切替を前提とした直接還元炉)を中心に据えた脱炭素戦略を展開 各種報道
主要プレイヤー×技術アプローチマップ
企業 技術アプローチ 直近動向
日本製鉄 ①スクラップ+電炉(移行期)②高炉水素還元+CCUS(中期)③水素直接還元+電炉(長期)の複線アプローチ 2026年から君津第二高炉で水素吹込み実証試験。2024年12月にCO2削減率43%達成。グリーン鋼材「Zebbies™ Advanced」輸出推進
JFEスチール カーボンリサイクル高炉(CR高炉)+大型革新電炉。倉敷電炉は2027年度中稼働目標 2025年3月に革新電気炉への機関決定。「JGreeX®」を2023年度から販売開始。国内海運8社に採用済み
神戸製鋼所 ミドレックス(直接還元炉)技術を中核に据えた水素直接還元+電炉 20t電炉で通常スクラップと還元鉄の溶解試験を実施中
3社共通(GREINS) GI基金「製鉄プロセスにおける水素活用」コンソーシアム(GREINS) 高炉水素還元・水素直接還元・大型電炉の3技術を並行開発。2030年までにCO2削減率30%以上の技術実装目標
CHAPTER 01 1.現状認識と目指す姿【目標】
(1)現状
① 現状:高炉比率7割という構造と鉄鋼業CO2排出量(産業部門の4割)
// ROADMAP
高品質な素材は、主に高炉で生産されており、我が国の高炉比率は約7割を占め、欧米諸国等と比較し高くなっている。高炉法は、コークスを用いた還元反応の際に多くのCO2を排出し、鉄鋼業は産業部門の中で最もCO2排出量の多い産業(約4割)であるため、CO2排出量削減に向け、大型革新電炉への転換や水素還元製鉄の技術開発等の取組を進めている。
// WHY IT MATTERS
「高炉比率約7割」という構造は、日本のグリーン鉄転換が欧州より難しい根本的な理由だ。欧州の主要鉄鋼メーカー(ArcelorMittal等)はすでに電炉比率が高く、スクラップ+電炉への転換が相対的に容易だ。日本は「高炉で高品質な鋼材を生産する」という技術的強みが、脱炭素化の制約にもなっている。ただし「高炉でしか作れない高品質な高級鋼(自動車外板・電磁鋼板等)を脱炭素プロセスで供給できる」という点では、逆に「グリーン高級鋼」という差別化製品を世界で最初に提供できるポテンシャルを持つ。
// 海外動向

欧州 ArcelorMittalは2024年5月にスペイン・ヒホンで110万トン/年の電気炉建設を開始。スウェーデンSSABは直接水素還元技術の開発で2026年に商業生産開始を目指す(各種報道)。欧州では「GX価値」が製品評価基準として先行している。

中国 河北鋼鉄集団が高濃度水素ガスによる60万トン/年規模の実証試験を2022年12月までに完了と発表。技術開発が加速している(経産省、2023年)。


② 取り巻く環境:欧州CBAM・Scope3開示義務化・需要側の低炭素鋼材ニーズ
// ROADMAP
欧州では、製造時のCO2排出量が多い製品の市場参入規制を導入する動きが見られるほか、日本でも、27年3月期から、時価総額が一定規模以上の東証プライム市場上場企業に対し、サステナビリティ開示基準に従い、Scope3も含め温室効果ガスの排出量等の情報開示を義務付ける方向で議論が進められている。斯かる環境規制が導入される中で、需要サイドでも高機能性に加えて低炭素な鋼材を求めるように嗜好が変わる動きが見られる。
// WHY IT MATTERS
「27年3月期からScope3開示義務化(東証プライム)」という規制変化は、グリーン鉄市場の需要側に直接影響する。自動車・建機・造船等の大口需要家が「鋼材調達に伴うScope3排出量」を財務報告書に開示しなければならなくなれば、「少し高くても低炭素な鋼材を調達する」という経営判断が加速する。これは「グリーン鉄のプレミアム価格を正当化する需要」が制度的に創出されることを意味する。
(2)目標
2030年代前半 年約300万t以上の高品質グリーン鉄を国内外で獲得・「不可欠性」の確立
// ROADMAP
2030年代前半に、自動車、建築、公共工事、造船、産業機械等向けの年約300万t以上の規模の高品質なグリーン鉄市場を国内外で獲得する(政策目標として示されている値)。海外メーカーでは製造することができない高品質かつGX価値をもった鋼材を、スクラップや還元鉄を主原材料とし、いち早く製造することにより、不可欠性を獲得する。スクラップについて、大型革新電炉や鋳物等製造業向けの安定的な供給に向け、高品位スクラップの国内生産量を年○万t増加させることにより、自律性を確保する。
// POLICY MONITOR NOTE
「海外メーカーでは製造することができない高品質かつGX価値をもった鋼材」という目標は、⑭永久磁石・⑯バイオ医薬品と同じ「不可欠性戦略」の適用だ。スウェーデンSSABのグリーンスチールは直接水素還元で製造されるが、高品質な高級鋼(自動車外板・電磁鋼板等)の大量供給は難しいとされる。日本のGI基金事業が目指す「水素直接還元+電炉で高品質高級鋼を量産する」技術の確立が実現すれば、この「不可欠性」が成立する。高品位スクラップの目標値が「○万t増加」と未確定であることは、2026年夏の官民投資ロードマップ取りまとめで具体化される予定だ。
CHAPTER 02 2.勝ち筋と官民投資の具体像【道筋】
(1)基本戦略:3技術の複線アプローチ+マスバランス方式の活用
① 勝ち筋:高品位スクラップ確保×大型革新電炉×水素還元製鉄の複線展開
// ROADMAP
グリーン鉄の生産基盤構築及び高品位スクラップ確保に向けた技術開発・設備投資を進めることで、高品位かつGX価値を有した鋼材の供給体制を確立するとともに、GX価値の見える化及び国際標準への反映、公共調達におけるグリーン鉄の優先調達、大口需要家(自動車・建材等)に対する需要喚起策や制度の導入等を進め、国内においてグリーン鉄市場を創出する。
// WHY IT MATTERS
「どの技術が優位か今は言えない」(JFEスチール北野社長)という現場の声は、「3技術の複線アプローチ」の合理性を端的に示す。高炉水素還元・大型革新電炉・水素直接還元の3技術はそれぞれ異なる将来を前提として開発されており、「水素の価格がいくらになるか」「高品位スクラップが十分確保できるか」「欧州CBAMがどの程度進展するか」という外部要因の組み合わせによって、最適解が変わる。複線アプローチは「不確実な未来への賭けを分散するポートフォリオ戦略」だ。
// 官の動き(直近2ヶ月)
  • GI基金「製鉄プロセスにおける水素活用」(上限4,499億円):3技術を複線的に支援。2030年までにCO2削減率30%以上の技術実装を目標 経産省 2025.4
  • GI基金関連予算を約4,500億円に倍増(当初の約2倍)し、実装可能時期を2040年代半ばから約5年前倒す方針(ニュースイッチ) 各種報道
// 民の動き(直近2ヶ月)
  • 日本製鉄:2026年から君津第二高炉で水素系ガス吹込み実証試験を開始(準備中)。大型実機(4,500m3)での実証が焦点 経産省 2025.4
  • JFEスチール:GI基金事業と「排出削減が困難な産業」事業を組み合わせ、倉敷革新電炉(2027年度稼働目標)を推進 NEDO/METI
  • 神戸製鋼所:ミドレックス技術の水素対応化を軸に、20t電炉での溶解試験が進行中 経産省 2025.4
// 海外動向(マスバランス方式)

世界鉄鋼連盟 マスバランス方式による「世界共通ルール化」に向けて、日本鉄鋼3社が社内体制を整備し、世界鉄鋼連盟における検討を継続的に促進(GREINS、2025年4月)。グリーン鋼材の国際標準を日本主導で設定することが、GX価値の国際的な承認につながる。

(2)構築すべき機能・官民投資の具体像
// ROADMAP
構築すべき機能:グリーン鉄生産基盤。高品位スクラップ生産基盤の増強(○万t増)。安価・安定な脱炭素電力・水素の供給基盤。CCS事業実施基盤の構築。供給拡大に繋がるグリーン鉄市場の創出。GX価値の情報伝達スキーム。国際標準化の策定向けた有志国との連携体制。【投資内容】鉄鋼メーカーによる、大型革新電炉の建設、水素還元製鉄の技術開発等供給サイドのプロセス転換。鉄鋼メーカーやスクラップ事業者による、AI等を活用したスクラップ高度選別設備や大型シュレッダー等リサイクル施設。
// POLICY MONITOR NOTE
定量的インパクト(投資額・経済波及効果)は「官民投資ロードマップの取りまとめまでに提示」と明記。2026年夏の日本成長戦略取りまとめで具体化予定。「業界全体で2050年までに10兆円規模の研究開発・設備投資が必要」(鉄連)という数字は、GI基金(4,499億円)が「呼び水」に過ぎず、民間投資の大部分を民間が負担することを示す。この民間投資が実現するには「グリーン鉄市場の創出(需要側の確保)」という外部条件が不可欠だ。
CHAPTER 03 3.課題と政策パッケージ【政策手段】
① 国内投資支援
// ROADMAP
大型革新電炉等への設備投資補助金。水素還元製鉄技術開発への支援。AI等を用いたスクラップ選別効率化等技術開発への支援。スクラップ高度選別設備や大型シュレッダー等リサイクル施設への設備投資支援。
// 官の動き(直近2ヶ月)
  • GI基金「製鉄プロセスにおける水素活用」(上限4,499億円):3技術コンソーシアムへの継続支援 経産省 2025.4
  • 「排出削減が困難な産業におけるエネルギー・製造プロセス転換支援事業」:JFEスチールの革新電炉への転換を採択 NEDO/METI
// 民の動き(直近2ヶ月)
  • 日本製鉄・JFEスチール・神戸製鋼所:各社がGI基金支援を受けながら10t規模小型試験電気炉・還元炉の試験を2024/12から開始・継続中 経産省 2025.4
② 需要創出・市場確保・社会実装支援
// ROADMAP
グリーン鉄の国内初期需要創出に向けた取組。グリーン購入法を踏まえた、国・自治体による優先的調達・購入の推進。公共工事における試行工事の実施・順次対象の拡大及び検討方針の明確化、国及び地方公共団体における本格活用。大口需要家(自動車・建材等)に対する需要喚起策や制度の導入・検討。
// WHY IT MATTERS
「公共工事における試行工事の実施」は、グリーン鉄市場の「最初の一歩」として政策的に最も重要な施策だ。公共工事でグリーン鉄を優先調達することで、①国内での初期需要が創出される、②鉄鋼メーカーが量産のための設備投資判断ができる、③「公共工事での採用実績」が民間大口需要家への訴求材料になる——という3つの正の連鎖が生まれる。JFEスチール「JGreeX®」が国内海運8社に採用されたケースは、この「実績の連鎖」が民間でも始まっていることを示す。
③ 立地競争力強化
// ROADMAP
自動車・家電等の高度リサイクル促進。国内高品位スクラップの確保。脱炭素電力・水素・CCSインフラの整備。
// WHY IT MATTERS
「自動車・家電等の高度リサイクル促進」は、グリーン鉄の主原料となる高品位スクラップ確保の「上流」に位置する政策だ。日本は毎年大量の廃自動車・廃家電を輩出するが、含まれる不純物(銅・ニッケル等)を除去した高品位スクラップとして選別・回収するには高度な技術が必要だ。AI等を活用したスクラップ高度選別設備への投資が、国内のグリーン鉄生産を支える原料基盤を強化する。
④ 国際連携
// ROADMAP
グリーン鉄のGX価値の国際標準への反映。
// WHY IT MATTERS
「GX価値の国際標準への反映」は、⑲ペロブスカイト太陽電池の「非価格価値の具体化」と同じ政策論理だ。日本製グリーン鉄の「高品質+低炭素」という二重の優位性が、国際的な基準で正当に評価される仕組みがなければ、価格だけで評価されて低炭素鋼材の競争に埋没する。マスバランス方式の国際ルール化への参画は、この「GX価値の見える化」の核心的な取組だ。
📋 続編:課題・政策パッケージ編
「なぜグリーン鉄の初期市場創出が難しいのか」「大型革新電炉の初期投資負担・高品位スクラップの確保難・グリーン鉄需要の短期的不透明性・GX価値の見える化が道半ば」という4つのボトルネックを整理した「課題・政策パッケージ編」も近日公開予定です。
▶ marketsupporter-ai.com で読む
出典
免責事項

本レポートは、公開されている政府資料・報道・企業IRをもとに編集した情報提供を目的としたものであり、投資助言・投資推奨を目的とするものではありません。データ基準時点:2026年04月〜05月。