本レポートは、高市政権「戦略17分野」資源・エネルギー安全保障・GXの「水素等」の外部環境を、就職・転職検討者および株式投資家向けに数字と事実のみで記述します。所管は経済産業省です。
良し悪しの評価・投資推奨・将来予測は行いません。
日本成長戦略会議 第3回「先行して検討を進めている主要な製品技術等の官民投資ロードマップ素案」(2026年3月)は「水素等の関連市場は堅調に拡大しており、2050年には**30〜40兆円規模**になるとみられる」と明示しています。EPI Consultingの標準シナリオでは2050年の水素等需要が水素換算**3.3億トン**(2020年比3.3倍)に達し、30円/Nm³換算で約**111兆円**の市場と試算されています(EPI・2024年)。PwCは2050年の水素需要が年間1.5億〜5億トン(シナリオによって幅が大きい)としています(PwC 分析)。
2023年の世界の水素需要は9,700万トン超で前年比+2.5%の伸びを見せており、IEAは2024年の水素需要が**1億トン超**になると見込んでいます(JETRO・2024年)。ただし現状の水素の大半は化石燃料由来(グレー水素)であり、クリーン水素の需要は2023年に前年比+10%拡大したものの全需要の**1%未満**にとどまっています(IEA「Global Hydrogen Review 2024」)。
IEAによると、現時点で世界各国が設定している2030年時点の政策目標の合計は「供給面が**4,900万トン**・需要面が**1,100万トン**」と**4.5倍の開き**があります(JETRO・2024年)。また過去12か月間に発表された公的支援額は「供給面が**620億ドル**・需要面が**400億ドル**」と1.6倍の差があります。「これまでの政策が供給(水素の生産)に重点を置き、需要(新たな消費市場の創出)への支援が不足していた」というIEAの分析は、水素市場の普及が計画より遅れている構造的な原因を示しています(JETRO・2024年)。
日本成長戦略会議 第3回「先行して検討を進めている主要な製品技術等の官民投資ロードマップ素案」(2026年3月)は「市場・産業全体の成長は、一時の高水準の予測からは減速しつつも、堅調に推移」と現状認識を明示しています。2020年代前半に「水素は近い将来に急速に普及する」という楽観的な予測が先行しましたが、コスト・インフラ・需要創出の難しさから実際の進捗は当初予測より緩やかです。
川崎重工は豪州・ビクトリア州での褐炭由来のブルー水素製造計画が2024年に頓挫した結果、海上輸送を予定していた大量の水素調達ができなくなり、2030年に予定していた大型輸送船(16万m³)を4分の1の規模の中型船(4万m³)に変更しています(自然エネルギー財団・2025年5月)。これは「一時の高水準の予測からは減速」という状況を示す具体的な事例です。
EPIの標準シナリオによると、グリーン水素が天然ガスと熱量等価ベースで同等のコストになる(クロスポイント)のは、欧州では2030年代前半・米国では2040年前後・日本では**2040年中盤**と見込まれています(EPI・2024年)。日本では再生可能エネルギーのコストが相対的に高いため、補助金なしに水素が自律的に普及するまでには時間を要します。
日本政府の2030年コスト目標は30円/Nm³ですが、現状の水素供給コストはこれよりも高い状況です。2023年11月のLNG価格とのパリティは21.6円/Nm³-H2(資源エネルギー庁)であり、水素が商業的に競争力を持つには到達していません。水素専焼火力の発電コストは政府のコスト検証(2025年2月)で1kWhあたり**29.9円**とされており、太陽光や風力発電(10円/kWh台)の2〜3倍という高コストです(自然エネルギー財団・2025年5月)。
水素社会推進法に基づく「価格差支援」とは、低炭素水素等の製造・利用コストと化石燃料コストの差を国が補填する制度です(資源エネルギー庁)。この制度により、経済的に採算が合わない現状でも水素等の商用導入を促すことが目的です。ドイツの「H2Global」が同様のダブルオークション方式を採用しており、日本の制度設計の参考になっています。
日本成長戦略会議 第3回「先行して検討を進めている主要な製品技術等の官民投資ロードマップ素案」(2026年3月)は「需要側は、大規模水素の輸送技術の未確立や燃料価格高騰の影響もあり、投資判断に遅れが生じている」と明示しています。供給側も「安定した需要が見込めず能増投資に踏み込めない」という状況であり、「需要と供給の両方が動き出すきっかけを誰が作るか」という「鶏と卵問題」が業界全体の課題です。
日本成長戦略会議 第3回「先行して検討を進めている主要な製品技術等の官民投資ロードマップ素案」(2026年3月)は水素サプライチェーンの「鍵となる4製品」として以下を明示しています。
米国のインフレ削減法(IRA・2022年)は低炭素水素製造に10年間で最大**3ドル/kg**の税額控除を実施(水素以外も含む全体で約50兆円規模)(資源エネルギー庁)。トランプ大統領就任後(2025年1月)、米国内エネルギーを解放し化石燃料の生産増を進める方針の下、米国内の水素ハブへの資金拠出は一時停止されています(資源エネルギー庁・2025年7月)。ただし「水素を名指しした批判はないことから、水素・アンモニア政策への影響は限定的」との見方もあります(同)。
欧州は2025年2月に「H2Global」の第2回固定価格買取入札を開始し、ドイツ連邦政府・オランダ政府から25億ユーロ(約4,100億円)の支援を準備しています(資源エネルギー庁・2025年7月)。グリーン水素は欧州が約半数のプロジェクトを占めており(EPI・2024年)、欧州全土への水素流通インフラ整備が進行中です。日本は2026年3月の「次世代型太陽電池戦略」に続き、液化水素の日独間の協力関係を通じた共同サプライチェーン構築を目指しています(資料2・2026年3月)。
中国は政府支援と組み合わせて着実に底堅い投資を進めています(資料2・2026年3月)。特に燃料電池分野では量産投資による価格低減が進んでおり、FCトラック・バス等の商用車での社会実装で日本に先行しています(同)。グリーン水素・アンモニアについては世界最大規模のプロジェクト(800MW太陽光・風力+年産3.2万トンのグリーン水素製造・2022年10月開始・総投資1,267億円)が中国内で進行中です(資源エネルギー庁・2025年7月)。
日本成長戦略会議 第3回「先行して検討を進めている主要な製品技術等の官民投資ロードマップ素案」(2026年3月)は「特に、中東依存9割の石油代替燃料として、供給国の多様化を通じた安定供給に貢献」と明示しています。水素等は再エネや脱炭素技術を活用したブルー/グリーン水素・アンモニアや、将来的な高温ガス炉・天然水素等、製造手法の多様性から従来の化石燃料よりも供給国が多角化する可能性があります。これはエネルギー安全保障上の重要な意義です。
同資料は「水素技術を自前で確保することは、グローバルに進展するGX市場で、"買わされる側"に回らないために重要な自律性の確保につながる」と明示しています。水素関連機器(ガスタービン・水電解装置・燃料電池等)のサプライチェーンを特定国・企業が握った場合、日本がその製品を購入するしかない状況が生まれるリスクがあります。「技術で勝ってビジネスでも勝つ」という戦略の背景にはこの認識があります。
日本は「アジア・ゼロエミッション共同体(AZEC)」構想等の枠組みを活用したアジア連携を進めています(資源エネルギー庁)。アジア諸国は石炭・化石燃料依存度が高く、水素・アンモニアの混焼技術は既存の発電インフラを活用できる脱炭素手段として需要がある地域です。日本企業がアジアでの水素・アンモニアサプライチェーン構築を主導することで、技術輸出・インフラ輸出の機会を得る構造があります。
| 章 | 指標名 | 数値 | 出典・時点 |
|---|---|---|---|
| 第1章 | 水素等関連市場規模(2050年・世界) | 30〜40兆円規模 | 資料2 2026年3月 |
| 第1章 | 世界の水素需要(2024年) | 1億トン超(IEA推計) | IEA Global Hydrogen Review 2024 |
| 第1章 | クリーン水素の全需要比率(2023年) | 1%未満 | IEA 2024年 |
| 第1章 | 水素関連機器の世界投資(2030年まで) | 520億ドル | 経産省参考資料 |
| 第2章 | 2030年の供給目標/需要目標の乖離 | 供給4,900万t・需要1,100万t(4.5倍の開き) | IEA・JETRO 2024年 |
| 第3章 | 日本の水素等導入目標 | 2030年300万t・2040年1,200万t・2050年2,000万t(政策目標として示されている) | 資料2 2026年3月・水素基本戦略 |
| 第3章 | 日本の水素コスト目標 | 2030年30円/Nm³・2050年20円/Nm³以下(政策目標として示されている) | 資源エネルギー庁 |
| 第3章 | 日本の水電解装置導入目標 | 2030年までに15GW程度(政策目標として示されている) | 水素基本戦略 2023年改定 |
| 第4章 | グリーン水素が天然ガスと競合力を持つ時期(日本) | 2040年中盤(補助金なし・EPI標準シナリオ) | EPI 2024年1月 |
| 第4章 | 水素専焼火力の発電コスト | 29.9円/kWh(政府コスト検証 2025年2月) | 経産省 2025年2月 |
| 第5章 | 日本のガスタービン世界市場シェア | 約4割(水素アンモニア対応ガスタービン) | 資料2 2026年3月 |
| 第6章 | 米国IRAの水素関連税額控除 | 低炭素水素製造に10年間で最大3ドル/kg | 資源エネルギー庁 |
| 第6章 | 欧州H2Global 第2回入札支援額 | 25億ユーロ(約4,100億円)(ドイツ・オランダ) | 資源エネルギー庁 2025年7月 |
【免責事項】本レポートは就職・転職および投資判断の参考情報として作成されたものであり、特定の投資・転職行動を推奨するものではありません。市場規模数値は各調査機関の定義・想定シナリオが異なるため単純比較はできません。「政策目標として示されている」と注記した数値は政府が目標として掲げた値であり達成を保証するものではありません。官民投資の具体的金額は2026年夏の取りまとめ予定であり本時点では未確定です。データ基準時点は2026年04月です。
© 2026年04月 産業構造分析レポート ── 水素等(外部環境編)