| 業態 | 代表プレイヤー | 感染症分野での役割 | 事業化ステージ |
|---|---|---|---|
|
感染症治療薬・抗菌薬
(国内外展開) |
塩野義製薬(4507)、
Meiji Seikaファルマ(非上場)、 明治HD(2269) |
新規抗菌薬(セフィデロコル等)の開発・製造・グローバル展開。COVID-19・インフルエンザ治療薬の国産化。AMR対応新薬は「サブスクリプション型償還」という新モデルで海外展開。 | 商用販売段階(セフィデロコル・ゾコーバ等) |
|
ワクチン製造
(国内基盤担当) |
KMバイオロジクス
(非上場・田辺三菱製薬子会社)、 第一三共(4568・インフルエンザワクチン)、 武田薬品工業(4502) |
インフルエンザ・日本脳炎・DPT等の国内需要の基幹ワクチンの製造。国産mRNAワクチン技術の開発・商用化。コロナ禍を契機に国産ワクチン製造能力の強化が政策課題として浮上。 | 商用販売〜初期量産段階 |
|
血漿分画製剤
(免疫グロブリン) |
日本血液製剤機構(JB・一般社団法人)、
KMバイオロジクス(同上)、 CSLベーリング(外資系) |
献血由来の血漿を原料とする免疫グロブリン・アルブミン・血液凝固因子等の製造。国内自給率100%という政策目標に向け、献血啓発と製造能力増強を推進。JBが国内の中核機関。 | 商用販売(国内自給不足が継続) |
|
診断薬
(感染症検出) |
富士レビオ(非上場・富士フイルム傘下)、
デンカ(4061)、 栄研化学(4549) |
インフルエンザ・COVID-19・RSV等の迅速診断キット・PCR試薬の製造・販売。コロナ禍での需要急増で国内生産能力が注目された。資料2(2026年3月)の「診断薬の国際展開」においても重要な役割を担う。 | 商用販売(安定段階・需要は感染流行に連動) |
塩野義製薬(4507)の2025年3月期(2024年度)連結業績(IFRS)は売上収益**4,382億円**(前期比+0.7%)・営業利益1,566億円(+2.1%)・純利益1,704億円(+5.2%)と3期連続過去最高を更新しました(塩野義製薬 2025年3月期決算・2025年5月12日)。研究開発費は**1,086億円**(前年比+59.7億円)に達しています。
セフィデロコル(製品名:フェトロージャ)は既存の抗生物質が効かない多剤耐性グラム陰性菌感染症に対応する新規抗菌薬です。2024年度の海外売上収益は**59.1億円**(+18.4%)で4期連続で海外事業は過去最高を更新しています(塩野義製薬 2025年3月期決算)。英国・スウェーデン等の欧米20か国以上で「サブスクリプション型償還(定額制・処方量と切り離して国が開発企業に固定報酬を支払う)」モデルを採用しています(塩野義製薬 決算資料・2025年5月)。これは外部環境編が指摘した「抗菌薬開発インセンティブ不足」問題への政策的解決策の実例です。
COVID-19治療薬「ゾコーバ(エンシトレルビル)」とインフルエンザ治療薬「ゾフルーザ」は、感染症の流行規模によって収益が大きく変動します。2025年3月期のCOVID-19関連製品+インフルエンザ関連製品の合計売上収益は**518億円**(塩野義製薬 2025年3月期決算)です。パンデミックピーク時(2022年度)にはゾコーバの政府買い上げ200万人分が1,047億円の売上を生みましたが、コロナ流行が低調だった年は急減するという「平時低需要・有事急増」の構造的特性を持ちます。
2026年3月期(2025年度)は JT医薬事業・鳥居薬品の買収完了(2025年9月完全子会社化)が加わり、売上収益**5,300億円**(過去最高予想・日経・2025年5月)を見込んでいます。
KMバイオロジクスは化血研(旧化学及血清療法研究所)の製造事業を承継した会社であり、日本市場で同社のみが製造・または同社が最大シェアを持つ「シングルサプライ製品」を多数保有しています(Wikipedia)。ヒト用A型肝炎ワクチンは日本唯一の製造メーカーとされており、その他のワクチンでも高いシェアを持つ製品が複数あります。この「代替品のない製品が多い」という構造は、「供給途絶時に代替困難」という意味でリスクであると同時に、「公共財的な性格を持つ安定事業基盤」でもあります。
2024年11月19日、世界保健機関(WHO)がコンゴ民主共和国などで広がっているエムポックス(サル痘)の予防薬として、KMバイオロジクス製ワクチンの緊急使用を認めました(Wikipedia・2024年12月14日閲覧)。日本製ワクチンが国際的な感染症対応に採用された事例であり、外部環境編が示す「25か国以上への国際展開」という政策目標の実例として重要です。
KMバイオロジクスは百日せき・ジフテリア・破傷風・不活化ポリオ・Hib・B型肝炎を予防する6種混合ワクチン(KD2-396)の第III相臨床試験を開始しています(KMバイオロジクス公式・2025年)。現在国内で使用されている4種混合ワクチンと単独B型肝炎ワクチンを1本にまとめた製品で、接種回数削減による利便性向上を目指しています。
第一三共(4568)は2023年3月に「フルミスト(経鼻インフルエンザワクチン)」の製造販売承認を取得し、2024年8月に3価(A型2種、B型1種)ワクチンとして一部変更承認を取得しました。2024年10月より今シーズン(2024〜2025年インフルエンザシーズン)から日本初の経鼻投与による季節性インフルエンザワクチンとして供給を開始しています(第一三共 プレスリリース・2024年10月4日)。鼻腔内に噴霧するタイプのため針穿刺が不要であり、自然感染後に誘導される免疫に類似した局所抗体応答・液性免疫・細胞性免疫の誘導が期待されます。
第一三共はADCに並ぶ主力事業として感染症ワクチン分野への継続的な投資を進めており、インフルエンザ・RSV・mRNAワクチン技術の開発も続いています。感染症分野では感染症治療薬(ADC・レポート別途)よりも安定的・継続的な需要が見込めるワクチン分野に注力する方向性を持っています。
日本血液製剤機構(JB)は2012年6月設立・同年10月より事業開始の一般社団法人です(日本赤十字社の血漿分画事業部門と田辺三菱製薬グループのベネシスが統合して発足:Wikipedia)。「血液は商業的に売買されるべきではない」という基本的考え方に基づき、営利を目的としない一般社団法人として発足しています。設立趣旨は「善意の献血血液を安心・安全な形で患者さんへ届けること」(JB公式)であり、「国内自給の達成と安定供給」が基本使命です。
JBは日本赤十字社の血液センターから届けられる血漿を原料に、千歳工場(北海道)と京都工場の2工場で血漿分画製剤(免疫グロブリン・アルブミン・血液凝固因子等)を製造しています(JB公式)。2025年12月には京都工場でフィブリノゲン製剤等の新棟落成式を開催しており(JB公式・2025年12月15日)、製造能力の増強が進んでいます。
JBは国内血漿分画製剤メーカー3社(JB・KMバイオロジクス・もう1社)で連携し、日本赤十字社・厚生労働省医薬局血液対策課と連携のもとで国内自給率向上に取り組んでいます(JB公式・CSR活動)。「少子高齢化社会により献血可能人口が年々減少する中、製造収率の向上に取り組んでいる」と明示しており(JB公式)、献血確保と製造効率化の双方を課題として抱えています。
外部環境編が示した「免疫グロブリンは平時から国内自給できていない・政策目標は自給率100%」という状況を踏まえると、JBの事業は「公共財的使命と経営の持続可能性を同時に追求する」という特殊な経営構造にあります。
塩野義製薬がゾコーバ(COVID-19治療薬)で2022年度に政府買い上げ1,000億円超の売上を計上した一方、2025年3月期には518億円(COVID-19+インフルエンザ合計)まで落ち着いた事例は、感染症対応製品固有の「流行に連動する収益変動」を示しています。インフルエンザ治療薬「ゾフルーザ」も流行規模によって売上が大きく変動し、2024年冬の流行拡大時には計画通り業績に貢献しています(塩野義製薬 2025年3月期決算)。
日本成長戦略会議 第3回「先行して検討を進めている主要な製品技術等の官民投資ロードマップ素案」(2026年3月)は「抗菌薬の処方量と切り離し、国が開発企業に対して固定報酬を支払う代わりに、必要なときに抗菌薬を受け取ることができる(サブスクリプション型)」モデルを記載しています。塩野義製薬がセフィデロコルで欧米に先行適用しているこのモデルは、抗菌薬の「使用を抑制するほど収益が下がる」という矛盾を解決します。日本においても厚生労働省が議論を進めており、国内導入が検討されています。
JBは非営利の一般社団法人であり、利益最大化を目的とせず「国内自給達成・安定供給」という公益使命のもとで事業を運営しています。献血は善意の無償提供であり、血漿原料の確保は経済的インセンティブではなく「献血啓発活動と社会的理解」に依存しています。製造工程は高度なGMP(医薬品製造品質管理基準)対応が必要で、新棟整備等の設備投資が継続します。
塩野義製薬の事例(ゾコーバのコロナ特需後の急減)が示すように、感染症治療薬・ワクチンの民間企業による製造・販売は、感染症の流行規模に収益が依存します。「平時に在庫・製造能力を維持しながら売り上げが小さい」という状況は企業経営上の課題であり、日本成長戦略会議 第3回「先行して検討を進めている主要な製品技術等の官民投資ロードマップ素案」(2026年3月)が「民間企業が安定的に投資を行える構造の確立が必要」と明示しているのはこの実態を反映しています。
コロナ禍で明らかになった国産mRNAワクチン不在の問題に対し、第一三共・KMバイオロジクス・武田薬品等が開発を進めていますが、商業規模での国産mRNAワクチン製造体制の整備は現在も進行中です。同資料が「新型コロナ対応等を踏まえ、生産基盤を立て直し、国産化・サプライチェーン強化、有事に対応できる体制づくりが同時に進む移行期フェーズにある」と位置づけているのはこの状況です。
JBが明示しているように「少子高齢化社会により献血可能人口が年々減少する」という人口動態的制約は、免疫グロブリン国内自給率100%という政策目標達成の構造的なボトルネックです。献血は善意に依存するため、人口動態の変化への処方箋は「製造収率向上(同一血液量からより多くの製品を製造)」と「献血啓発の継続強化」の2点に限られており、根本解決には時間がかかります。
| 章 | 指標名 | 数値・事実 | 出典・時点 |
|---|---|---|---|
| 第2章 | 塩野義製薬 売上収益 | 4,382億円(2025年3月期・3期連続過去最高) | 塩野義製薬 決算短信 2025年5月 |
| 第2章 | 塩野義製薬 研究開発費 | 1,086億円(2025年3月期) | 同上 |
| 第2章 | セフィデロコル 海外売上収益 | 59.1億円(2024年度・+18.4%・4期連続過去最高) | 同上 |
| 第2章 | ゾコーバ+ゾフルーザ等 感染症薬合計 | 518億円(2025年3月期・COVID-19+インフルエンザ) | 同上 |
| 第2章 | 塩野義製薬 2026年3月期見通し | 売上収益5,300億円(過去最高予想・JT医薬事業買収含む) | 日経 2025年5月12日 |
| 第3章 | KMバイオロジクス 特記事項 | 2024年11月:WHOがエムポックス予防薬として緊急使用承認 | Wikipedia 2024年12月 |
| 第4章 | 第一三共 フルミスト | 日本初の経鼻投与インフルエンザワクチン・2024年10月供給開始 | 第一三共 PR 2024年10月 |
| 第5章 | JB 設立 | 2012年10月1日設立(一般社団法人・非営利) | JB公式 |
| 第5章 | JB 工場体制 | 千歳工場・京都工場の2工場。2025年12月:京都工場新棟落成 | JB公式 2025年12月 |
【免責事項】本レポートは就職・転職および投資判断の参考情報として作成されたものであり、特定の投資・転職行動を推奨するものではありません。KMバイオロジクス・日本血液製剤機構は非上場企業・非営利法人のため財務詳細の開示は限定的です。「政策目標として示されている」と注記した数値は政府が目標として掲げた値であり達成を保証するものではありません。データ基準時点は2026年04月です。
© 2026年04月 産業構造分析レポート ── 感染症対応製品(内部環境編)