| 戦略17分野 ⑱ 感染症対応製品 | 政策実装・官民投資編 2026年05月
JAPAN GROWTH STRATEGY — INFECTIOUS DISEASE COUNTERMEASURE PRODUCTS — POLICY MONITOR
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感染症対応製品
政策実装・官民投資編
官民投資ロードマップ素案(日本成長戦略会議 第3回、2026年3月)構造に基づく政策モニタリングレポート
パンデミックワクチン確保目標
全国民分
(約1.2億人分)
次なる感染症危機に備えた確保目標
免疫グロブリン国内自給率目標
100%
血液法の基本理念を踏まえた目標
抗菌薬原薬・原材料備蓄目標
6か月分
供給途絶リスクに備えた製薬企業の備蓄
2026年5月時点
複数ワクチン
限定出荷
日本脳炎ワクチン等で供給調整が継続
CHAPTER 00 政策実装サマリー(2026年04月〜05月)
// ANALYST NOTE
本分野は「平時の需要は小さいが有事には数兆円規模」という根本的な需給ギャップへの対応が政策の核心だ。2026年5月時点でも、日本脳炎ワクチンの限定出荷(2026年5月〜)、MRワクチンの一部製造販売業者による出荷停止(2026年6月頃再開見込み)等、平時の需給調整が現在進行形で発生している。ワクチン4団体(日本製薬工業協会・日本ワクチン産業協会・米国研究製薬工業協会・欧州製薬団体連合会)は2026年3月、「国内外での製造を問わず1年以上の供給リードタイムを要する」「成人・任意接種ワクチンでは感染症のアウトブレイクによる需要増は予測できず急な増産は難しい」という構造的課題を厚生科学審議会に提起している。
数兆円規模
感染症有事の需要急増
感染症対応医薬品(ワクチン・治療薬・診断薬)は有事には感染拡大に応じて数兆円規模の需要が生じる
1年以上
ワクチン供給リードタイム
国内外での製造を問わず1年以上の供給リードタイムを要する(ワクチン4団体、2026年3月)
約5,293万回分
2025/26季節性インフル供給量
2025/26シーズンのインフルエンザワクチン供給量見込み(厚労省)
複数品目
限定出荷・出荷停止中(2026年5月)
日本脳炎ワクチン(限定出荷)、MRワクチン(一部製造販売業者出荷停止)等
直近2ヶ月の重要動向(2026年4〜5月)
// 官の動き
  • 2026年5月 :厚労省、日本脳炎ワクチンの限定出荷(1社)・MRワクチンの2026年6月頃出荷再開見込み等、複数のワクチン供給状況を継続的に情報発信 厚労省 2026.5
  • 2026年4月 :DTワクチン・DPTワクチンの限定出荷が解除。価格改定に伴う需要急増・在庫確保の動きが落ち着く 厚労省 2026.4
  • 内閣府健康・医療戦略推進事務局:「ワクチン開発・生産体制強化戦略」(令和3年6月閣議決定)に基づく研究開発支援・生産体制強化の推進状況を公表(令和7年4月) 内閣府 2025.4
  • SCARDA戦略推進会合(第10回、2025年12月):「次の感染症有事を見据えたワクチン開発・生産体制強化戦略の見直し」を議論。治療薬・診断薬を含むMCM(医療対抗手段)全体への対応検討が本格化 AMED 2025.12
// 民の動き
  • ワクチン4団体(製薬協・ワクチン産業協会・PhRMA・EFPIA):「需要予測の難しさと供給リードタイムの長さにより増産には廃棄リスクが伴う」という構造的課題を厚生科学審議会に提起(2026年3月30日) 厚労省 2026.3
  • 各製造販売企業:2025/26シーズンの季節性インフルエンザワクチンの抗原組成変更(JN.1系統対応)に伴う開発・薬事申請を実施中 厚労省 2025.5
重要プレイヤーマップ
機能・分野 主要プレイヤー 政策対象・直近動向
ワクチン製造 各製造販売企業(国内大手製薬・海外メガファーマ日本法人) 季節性インフル抗原組成変更・限定出荷品目の供給調整を継続中
業界団体 日本製薬工業協会、日本ワクチン産業協会、PhRMA、EFPIA 供給リードタイムの構造的課題を厚生科学審議会に提起(2026年3月)
研究開発支援 AMED、SCARDA(先進的研究開発戦略センター) ワクチン開発・生産体制強化戦略の見直しを議論中(2025年12月)
政府・規制当局 内閣府健康・医療戦略推進事務局、内閣感染症危機管理統括庁、厚労省 平時から有事への切替え体制構築を継続的に推進
抗菌薬・免疫グロブリン 国内製薬企業(原薬・原材料の特定国依存品目あり) 備蓄支援・原料血漿確保体制強化が政策課題として継続
CHAPTER 01 1.現状認識と目指す姿【目標】
(1)現状
① 現状:感染症リスクの確実な高まりと国際的に高い品質管理水準
// ROADMAP
気候変動などの影響で動物由来の感染症が増え、大規模な流行やパンデミックの発生間隔は短くなっており、感染症リスクは確実に高まっている。製薬企業は国内外の製造所と連携して安定供給を担っており、我が国の製造現場は品質管理や供給の確実性が国際的に見ても高い水準にある。
// WHY IT MATTERS
「パンデミックの発生間隔が短くなっている」という認識は、気候変動・グローバル化・都市化が動物由来感染症(人獣共通感染症)のリスクを構造的に高めているという科学的知見を反映している。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は「100年に一度」とされたが、今後はより頻繁な感染症危機への備えが必要だという前提に政策が立っている。日本の強みである「品質管理・供給の確実性」は、この頻発する危機への対応力の基盤となる。

② 取り巻く環境と構造変化:平時・有事の需要急変とサプライチェーンの複雑化
// ROADMAP
感染症対応医薬品(ワクチン、治療薬、診断薬)は流行で需要が急変(感染症有事には、その感染拡大に応じて数兆円規模の需要が生じる)し、平素から安定供給体制の維持が極めて難しい。その上、抗菌薬は、原材料・原薬の調達が特定国に極端に依存する品目があり、国際分業の深化によりサプライチェーンは複雑化している。国際情勢次第で供給が途絶するリスクがある。免疫グロブリンは、原材料や製造能力不足により平時から国内自給できておらず、有事には大幅に不足する。感染症対応医薬品は、新型コロナ対応等を踏まえ、生産基盤を立て直し、国産化・サプライチェーン強化、有事に対応できる体制づくりが同時に進む移行期フェーズにある。
// WHY IT MATTERS
ワクチン4団体が2026年3月に提起した「国内外での製造を問わず1年以上の供給リードタイムを要する」「増産後の流行終息による廃棄リスクが生じやすい」という指摘は、ロードマップ素案の現状認識を裏付ける実務的なエビデンスだ。2026年5月時点でも日本脳炎ワクチンの限定出荷が続いており、「平時の安定供給」自体がすでに容易でない実態が浮き彫りになっている。免疫グロブリンの「平時から国内自給できていない」という記述は、有事を待たずに既に構造的な脆弱性が存在することを示す。
// 海外動向

米国・欧州 米国研究製薬工業協会(PhRMA)・欧州製薬団体連合会(EFPIA)が日本のワクチン政策議論に参加していることは、グローバル製薬企業のサプライチェーンが国境を越えて統合されている実態を示す。日本単独の供給体制強化だけでなく、国際的な供給網全体での議論が必要とされている。

(2)目標
25か国以上への国際展開・免疫グロブリン国内自給率100%・全国民分パンデミックワクチン確保
// ROADMAP
抗菌薬等をはじめとする治療薬や診断薬の分野において、平素から国際的な薬事承認を踏まえ、25か国以上への国際展開を行う。重症感染症等に用いられる免疫グロブリンについて、血液法の基本理念を踏まえ国内自給率100%を目指すとともに、成長が続く海外市場を見据え必要に応じて海外供給(輸出)も可能とする。次なる感染症危機において、全国民分(約1.2億人分)のパンデミックワクチン等を確保する。国内で重要な抗菌薬の海外からの供給途絶リスクに備え、製薬企業における原薬・原材料の備蓄を6か月分確保する。
// POLICY MONITOR NOTE
「全国民分(約1.2億人分)のパンデミックワクチン確保」という目標は、新型コロナウイルス感染症パンデミック時の経験を踏まえた具体的かつ野心的な数値目標だ。「免疫グロブリン国内自給率100%」は、現状の「平時から国内自給できていない」状態からの大転換を意味し、相当な期間と投資を要する目標であることが示唆される。
CHAPTER 02 2.勝ち筋と官民投資の具体像【道筋】
(1)基本戦略:供給計画遵守力×測定技術での需要創出と安定供給
① 勝ち筋:高い供給計画遵守力と高精度測定技術を活かした需要創出と安定生産体制
// ROADMAP
感染症対応医薬品は、平時は需要が小さい一方で、有事には需要が急増するため、生産体制を安定的に維持することが難しい。原材料・原薬の特定国依存や、製造能力不足が見られる医薬品もある。我が国は、供給計画遵守力の高さや生産技術、高精度・非破壊で工程管理を可能とする測定技術といった強みを有している。感染症対応医薬品の研究開発や製造施設の整備、ワクチン・抗菌薬等の買上げ・備蓄、安定供給に資する措置の推進、原料血漿確保体制の強化を持続可能な形で図ることを通じて、需要創出とともに生産体制を安定化させることで国内に供給するとともに、技術力を活かした高品質な製品を輸出する。
// WHY IT MATTERS
「供給計画遵守力の高さ」という強みは、ワクチン4団体が指摘した「需要予測の難しさ・廃棄リスク」という業界共通の課題に対し、日本企業が比較的安定したオペレーションを実現できる土台だ。「ワクチン・抗菌薬等の買上げ・備蓄」という政策手段は、「平時の需要が小さい」という構造的問題を、政府が公的需要を作り出すことで補う設計だ。
// 官の動き(直近2ヶ月)
  • SCARDA戦略推進会合(2025年12月):ワクチン開発・生産体制強化戦略の見直しを議論。治療薬・診断薬を含むMCM全体への対応へ範囲を拡大検討 AMED 2025.12
  • 「世界トップレベルの研究開発拠点形成」「戦略性を持った研究費のファンディング機能の強化」を通じ、ワクチン・診断薬・治療薬の提供を国際貢献の柱と位置づける方針 AMED 2025.12
// 民の動き(直近2ヶ月)
  • 各製造販売企業:季節性インフルエンザワクチンの抗原組成変更(JN.1系統対応)に伴う開発・薬事申請を実施。供給リードタイム1年以上という制約の中での迅速対応 厚労省 2025.5
// 海外動向

国際 世界トップレベルの健康長寿を達成してきた知見や優位性を活かし、G7・G20等の枠組みでワクチン・診断薬・治療薬の提供を国際貢献・国際協力の柱と位置づける方針が示されている(内閣府、2025年4月)。

(2)我が国として構築すべき機能・官民投資の具体像
// ROADMAP
需要急増に耐える十分な供給キャパシティと、それを支える適切な品質・工程・供給管理に基づく高い供給計画遵守力の堅持(平素からの安定した製造オペレーション)。抗菌薬の原薬・原材料の備蓄を確保。次なる感染症危機に備え、製薬企業における感染症対応医薬品の安定的な国内生産・供給能力を確保するための研究開発・生産体制の構築及び、需要が限られる平素から民間企業が安定的に投資を行える構造の確立。免疫グロブリンの原料血漿確保体制の強化。【投資内容】感染症対応医薬品(原材料・原薬を含む)の研究開発支援や国内製造施設整備・国内生産体制確保。製薬企業における抗菌薬の原薬・原材料備蓄の支援。免疫グロブリンの原料血漿確保体制の確保。
// POLICY MONITOR NOTE
定量的インパクト(経済波及効果・関連投資誘発効果)は「官民投資ロードマップ取りまとめまでに提示」と明記。2026年夏の日本成長戦略取りまとめで具体化予定。「需要が限られる平素から民間企業が安定的に投資を行える構造の確立」という表現は、⑯バイオ医薬品・再生医療等製品等分野の「デュアルユース」発想(富士フイルム富山CDMO拠点)とも共通する、平時・有事の二面性に対応する設計思想を示している。
CHAPTER 03 3.課題と政策パッケージ【政策手段】
① 国内投資支援
// ROADMAP
自動化やフロー合成・連続生産などによる生産効率向上、我が国の技術力を生かせるPAT分析(ラマン分光法)等による製造・品質管理に係る新技術の活用を推進する。新型コロナワクチンを始めとした健康危機管理上必要な感染症対応医薬品等生産体制を構築・維持する。献血の啓発や献血ルームの整備などの原料血漿確保体制の強化と併せ、免疫グロブリンの製造施設の更なる整備促進を図る。最新の医療環境やサプライチェーンの状況、国内製造状況等も踏まえ、抗菌薬等の感染症対応医薬品について、経済安保法の特定重要物資への追加の検討を行う。原材料及び原薬供給ルートの多角化を図る製品について、安定供給に資する更なる措置を検討する。
// WHY IT MATTERS
「PAT分析(ラマン分光法)」は、低出力の光で非破壊かつリアルタイムに製造工程を監視できる先端測定技術だ。従来の品質検査は製品の一部を破壊・採取して検査する必要があったが、PAT分析により生産ラインを止めずに連続的な品質モニタリングが可能になる。これは「自動化・フロー合成・連続生産」という生産効率化の取組と組み合わさることで、平時の生産コストを下げつつ有事の急速増産にも対応できる柔軟な生産体制の実現に貢献する。
// 官の動き(直近2ヶ月)
  • 厚労省:日本脳炎ワクチン限定出荷・MRワクチン出荷再開見込み等、複数品目の供給状況を継続的にモニタリング・情報発信(2026年4〜5月) 厚労省 2026.4-5
// 民の動き(直近2ヶ月)
  • ワクチン4団体:供給リードタイムの長さ・廃棄リスクという構造的課題を厚生科学審議会に正式提起。政策パッケージの実効性向上に向けた業界側からのインプット 厚労省 2026.3
② 需要創出・市場確保・社会実装支援
// ROADMAP
感染症有事の発生に備えるため、感染症危機対応医薬品等(ワクチン、治療薬、診断薬等)開発・生産体制強化戦略の策定により、研究開発から、事業予見性の確保につながる買上げ・備蓄等の一連の取組を推進する。さらに、その他有事に備えた医薬品備蓄を推進する。製薬企業による国産抗菌薬の原薬・原材料の6か月分の備蓄を支援する。新技術の導入に関し、規制要件を整理するとともに、査察当局の協力枠組みであるPIC/Sや医薬品規制調和国際会議(ICH)等の活動を通じた国際規制調和を進める。アジアへの規制理解を進めるPMDAアジア医薬品・医療機器トレーニングセンターにより国際規制調和の成果の普及を図る。
// WHY IT MATTERS
「事業予見性の確保につながる買上げ・備蓄」は、ワクチン4団体が訴える「需要予測の難しさ」という課題への政策的解だ。政府が事前に「買上げ・備蓄」を約束することで、製薬企業は「作っても売れないかもしれない」というリスクを負わずに増産投資ができる。これは⑪ロケット・射場分野の「アンカーテナンシー」と同じ政策論理であり、「需要が見えない市場に政府が確実な需要を提供する」という共通パターンが17分野を横断して現れている。
// 官の動き(直近2ヶ月)
  • SCARDA戦略推進会合:「次の感染症有事を見据えたワクチン開発・生産体制強化戦略の見直し」を議論中。治療薬・診断薬を含むMCM全体の開発・生産体制強化に向けた検討が本格化 AMED 2025.12
③ 競争力強化
// ROADMAP
実生産設備を利用した実践的な研修プログラムなどを通じて、製造人材を育成し確保する。後発医薬品の品目統合による業界再編を促進する。
// WHY IT MATTERS
「後発医薬品の品目統合による業界再編」は、感染症対応製品分野に固有の興味深い政策手段だ。日本の後発医薬品(ジェネリック)業界は中小メーカーが多数乱立しており、各社が同じような品目を少量ずつ製造する非効率な構造になっている。品目統合を通じた業界再編は、限られた製造人材・設備をより効率的に活用し、有事の急速増産能力を確保するための産業構造改革という側面を持つ。
📋 続編:課題・政策パッケージ編
「なぜ感染症対応製品の安定供給体制構築が進まないのか」「製造・品質管理人材の確保困難・需要変動による収益モデル構築の困難さ・物価高騰によるコスト増・原材料調達の特定国偏在という課題」を整理した「課題・政策パッケージ編」も近日公開予定です。
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出典
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本レポートは、公開されている政府資料・報道・企業IRをもとに編集した情報提供を目的としたものであり、投資助言・投資推奨を目的とするものではありません。データ基準時点:2026年04月〜05月。