本レポートは、高市政権「戦略17分野」マテリアル(重要鉱物・部素材)の「永久磁石」の外部環境を、就職・転職検討者および株式投資家向けに数字と事実のみで記述します。所管は経済産業省です。
良し悪しの評価・投資推奨・将来予測は行いません。
世界の永久磁石市場規模は2024年に328億6,000万ドルと評価され、2033年までに672億5,000万ドルに達すると予測されています(CAGR 8.47%・PressWalker/市場調査レポート 2025年)。ネオジム磁石(NdFeB)単体の市場規模は2023年に119億6,700万ドル・2030年に219億2,700万ドル・CAGR 10.57%と推計されています(GII・市場調査レポート)。
日本成長戦略会議 第3回 資料1「戦略17分野における主要な製品・技術等」(2026年3月)は「ネオジム磁石の世界需要は0.6万トン(2017年)から16.1万トン(2040年)に増加が見込まれ」と明示しています。これは約27倍の増加です。風力発電向けでも0.8万トン(2017年)から4.1万トン(2030年)への増加が試算されています(経産省「永久磁石に係る安定供給確保を図るための取組方針」2023年・2025年改定)。
米エネルギー省によると、2025年までにバッテリーおよびハイブリッドEVの90〜100%がネオジム鉄ホウ素(NdFeB)磁石を使用した同期トラクションモーターを搭載すると推計されています(市場調査レポート)。EV1台あたりに使用されるネオジム磁石の量は駆動モーター用に約1〜3kgとされており、EV普及台数に比例して需要が増加する構造があります。
日本成長戦略会議 第3回「先行して検討を進めている主要な製品技術等の官民投資ロードマップ素案」(2026年3月)は以下を政策目標として示しています。
経済産業省は2023年1月に「永久磁石に係る安定供給確保を図るための取組方針」を策定し、2025年6月23日に改定しています。重レアアースの中国依存度がほぼ100%という状況を踏まえ、①原材料の調達先の多角化、②リサイクル技術開発・スキーム確立、③省レアアース/レアアースフリー磁石等の開発、④永久磁石の製造能力増強という4本柱で対応策を整理しています。
ネオジム磁石の世界シェアは中国勢が推計8割強を握り、日本勢は2位ながら約15%に低下しています(日経ビジネス・2024年4月)。中国の台頭の背景は「自国での電子機器・EVの生産拡大」と「レアアース産出大国としての強み」です。中国は世界のレアアース鉱石生産量の約60%(2021年・JOGMEC 2025年)を占めており、分離精製・磁石製造工程まで含めた一貫生産体制を持っています。
資料2(2026年3月)は「特定国以外で高性能磁石の供給能力を有するのは事実上我が国のみであるなど、我が国磁石企業の不可欠性の向上を図る絶好の機会」と位置づけています。欧米においても磁石の安定供給確保に向けた国内生産支援が行われており、一部の下流企業は日本製磁石からの調達を検討中とされています(同)。
資料2(2026年3月)は「永久磁石の原価は原材料費が大半を占める中、レアアース原料価格の変動によって、量産用設備やリサイクル設備の投資リスクが発生」と明示しています。ネオジム磁石のコスト構造は原材料費(ネオジム・鉄・ホウ素・重レアアース)に大きく依存しており、中国の輸出管理強化や地政学的緊張がそのまま製品コストの不安定性につながります。
日本が輸入するレアアースの中国依存度は、2010年時点の約90%から現在約60%程度に低下しています(NRI・2025年11月)。豪州のライナス(Lynas Rare Earths)への出資・調達契約(JOGMEC・2011年出資・2023年追加融資)等の調達先多様化が一定の成果を上げています。ただし重レアアース(ジスプロシウム・テルビウム)はほぼ100%中国依存の状況が続いており(NRI・2025年11月)、これがEV向け高温対応磁石の最大のリスクです。
中国政府は2025年4月4日、サマリウム・ガドリニウム・テルビウム・ジスプロシウム・ルテチウム・スカンジウム・イットリウムの7種のレアアースについて、輸出管理を強化しました(笹川平和財団・2025年)。全面禁止ではなく「輸出時にライセンス取得義務化」という措置です。米国の対中関税引き上げへの対抗措置として発動されました。
これらの7種はいずれも重希土類であり、特にテルビウム・ジスプロシウムはEV駆動用ネオジム磁石の高温対応(100℃超の環境で必要)に不可欠な添加材料です。日本向けの5月輸出実績は25.7トンと近年最低水準に達しました(JETRO・2026年3月)。7月以降は許可取得企業が増加し過去2年並みの水準に回復しつつありますが、許可取得プロセスには依然として約3ヶ月以上かかるとされています(JETRO)。
中国は2025年10月9日に「レアアース採掘・製錬・分離・金属精錬・磁性材料製造・リサイクルに関する技術とその媒体・生産設備」の輸出について中国商務部による輸出許可を必要とする措置を公布しました(JETRO・2025年10月)。これは技術・ノウハウの流出規制であり、日本企業が中国企業と技術連携する際の障壁が高まることを意味します。ただし同年10〜11月の米中首脳会談を受けた措置として2026年11月まで暫定停止されています(JETRO)。
中国は2026年1月6日、デュアルユース品について日本への輸出管理を強化すると発表しました(みずほリサーチ&テクノロジーズ・2026年)。2025年11月以降の日中関係悪化を背景とした措置で、具体的な対象品目は非公表のため、個別品目の該否は中国当局の判断に依存する状況です。
みずほリサーチ&テクノロジーズ(2026年)の試算によると、中国からのレアアース輸入が停止した場合、3ヶ月程度であれば備蓄活用でGDPへの影響は限定的、6ヶ月の場合は▲0.3%程度、1年の場合は▲0.9%程度と試算されています。現在の国家備蓄目標は国内需要の60日分を基本としつつ、地政学的リスクが高い品目はより長い備蓄目標が設定されています。
資料2(2026年3月)は「省レアアース/レアアースフリー磁石(重レアアースフリーネオジム磁石や完全レアアースフリー磁石等)の技術開発を並行的に実施中であり、早いものでは2028年度頃を目標に開発終了予定」と明示しています。この技術が実用化されれば、EV向け高温対応磁石に不可欠だった重レアアース(Dy・Tb)の使用量を大幅削減または不要化できます。ただし「技術確立の不確実性」も同資料に課題として明示されています。
使用済み製品(廃EV・ハードディスク・洗濯機等)から磁石・レアアースを回収・再利用するリサイクル技術の確立が、調達先多様化と並ぶ重要な対応策です。資料2(2026年3月)は「市中からのリサイクル網が未整備であり、磁石/レアアース回収の品質・量・コストが課題」と明示しています。プロテリアルが磁石を含む廃棄物から合金粉末を回収する技術を持つほか、バーミンガム大学(英国)でも廃磁石を合金粉末に変える技術が開発されています。
資料2(2026年3月)は「著しく低い価格付けがなされたレアアース磁石の流通リスク」を不確実性要因として明示しています。中国メーカーが補助金等を背景に低価格で磁石を供給することで日本企業の競争力が損なわれるリスクです。
永久磁石市場は「EV・再エネ普及による需要の急増(構造的成長要因)」と「レアアース原料の中国集中・輸出規制リスク(構造的調達リスク)」が同時に作用する独特の市場構造にあります。この二重の構造が「脱中国依存を進めつつ高性能磁石の生産能力を増強できる企業」に市場機会をもたらしています。
資料2(2026年3月)は「欧米においては、磁石の安定供給確保に向けた国内生産支援等を行うとともに、一部の下流企業は日本製磁石からの調達も検討中」と明示しています。米国では国防総省主導でレアアース関連企業との官民パートナーシップ契約が締結(2025年7月)されており(デロイト・2025年8月)、欧州でも磁石サプライチェーンの中国依存低減が政策課題になっています。
南鳥島周辺の日本のEEZ海底に世界需要数百年分とも言われるレアアース泥が確認されています(NRI・2025年11月)。商業化は水深6,000mという技術的困難から2028年以降となる見込みですが、長期的な国内調達源として研究開発が進んでいます。
資料2(2026年3月)は「永久磁石は、自動車・産業機械等の基幹産業における生産活動に必須」と位置づけています。中国がレアアース輸出を全面停止した場合、EV・ハイブリッド車の製造停止・風力発電機の新規建設停止・産業ロボットの部品調達困難等、広範な産業への波及が生じます。みずほRT(2026年)は1年の輸入停止でGDP▲0.9%という試算を示しています。
2025年4月以降、中国側は輸出許可申請時に最終利用用途の確認書類を求めており、フォワーダーによる自主規制や税関での検査が発生し、磁石製品全般の納期に大幅な遅延が生じています(マグナ・2025年6月)。これは単なる輸出許可の問題を超え、製造業のサプライチェーン管理全体に影響する構造変化です。
| 章 | 指標名 | 数値 | 出典・時点 |
|---|---|---|---|
| 第1章 | 電動車向けネオジム磁石世界需要 | 0.6万トン(2017年)→16.1万トン(2040年) | 資料1 2026年3月 |
| 第1章 | 風力発電向けネオジム磁石世界需要 | 0.8万トン(2017年)→4.1万トン(2030年) | 経産省試算 |
| 第1章 | 永久磁石 世界市場規模 | 328億→672億ドル(2024→2033年・CAGR 8.47%) | 市場調査レポート 2025年 |
| 第3章 | 中国勢 ネオジム磁石世界シェア | 推計8割強 | 日経ビジネス 2024年4月 |
| 第3章 | 日本勢 ネオジム磁石世界シェア | 約15%(2位) | 同上 |
| 第3章 | 重レアアース(Dy・Tb)の中国依存度 | ほぼ100% | NRI 2025年11月 |
| 第3章 | 日本のレアアース全体の中国依存度 | 約60%(2010年の約90%から低下) | NRI 2025年11月 |
| 第4章 | 中国の重レアアース7種 輸出管理強化 | 2025年4月4日(ライセンス取得義務化) | 笹川平和財団 2025年 |
| 第4章 | 日本向けレアアース磁石輸出 最低水準 | 2025年5月 25.7トン(近年最低) | JETRO 2026年3月 |
| 第4章 | 中国の日本向けデュアルユース品規制強化 | 2026年1月6日 | みずほRT 2026年 |
| 第5章 | 省レアアース/レアアースフリー磁石 開発目標 | 2028年度頃(政策目標として示されている) | 資料2 2026年3月 |
【免責事項】本レポートは就職・転職および投資判断の参考情報として作成されたものであり、特定の投資・転職行動を推奨するものではありません。市場規模数値は各調査機関の定義・算定方法が異なるため単純比較はできません。「政策目標として示されている」と注記した数値は政府が目標として掲げた値であり達成を保証するものではありません。中国の輸出管理に関する情報は2026年04月時点のものです。データ基準時点は2026年04月です。
© 2026年04月 産業構造分析レポート ── 永久磁石(外部環境編)