本レポートは、高市政権「戦略17分野」造船の「次世代船舶」の外部環境を、就職・転職検討者および株式投資家向けに数字と事実のみで記述します。所管は国土交通省・内閣府(経済安全保障)です。
良し悪しの評価・投資推奨・将来予測は行いません。
世界の造船市場規模は2024年に約1,456億ドルと推定され、2029年には約1,845億ドルへ・CAGR 4.84%で成長すると予測されています(Mordor Intelligence)。2024年の世界の新造船受注は6,600万CGT・2,040億ドルと過去17年間で最大の受注量を記録しました(クラークソンズリサーチ・2024年)。
日中韓3カ国で世界の造船生産量の9割以上を占める寡占状態が続いています(Better Equation Research・2025年)。2024年の国別シェアは以下の通りです。中国はCGTベースで世界受注量の約70%超を獲得し、15年連続で世界一の座を維持しています。日本の2024年新規受注は838万CGT・世界シェア約13%、生産量シェアは12%(前年比3%減)でした(同)。
日本成長戦略会議 第3回「先行して検討を進めている主要な製品技術等の官民投資ロードマップ素案」(2026年3月)は「近年、我が国造船業の建造量は減少傾向が継続(2019年1,600万総トン→2024年900万総トン)。足下では、我が国船主の1年間の造船需要を下回り、海外の造船所に頼らざるを得ない状況」と明示しています。
国際海事機関(IMO)は2023年7月に「2023 IMO GHG削減戦略」を採択し、従来の「2050年までに50%排出削減」から「2050年頃までにGHG排出ゼロ」へと目標を大幅に強化しました(国土交通省・2023年7月)。この目標強化が全世界の造船・海運業界に対して燃料・推進システムの大転換を迫る最大の外部圧力となっています。
中期対策(GHG強度規制+GHGプライシング)は2025年4月のIMO MEPC 83で承認・2025年秋の臨時MEPCで採択の方向で検討が進んでいます(日本海事センター・2024年10月)。
EUは2025年から「FuelEU Maritime」(EU域内・発着船を対象とする燃料のGHG強度規制)を導入しています。EU域内に関与する日本の海運・造船事業者への影響が始まっており、EU基準に準拠した次世代燃料・船舶への対応が国際競争力維持の条件となっています(日本海事センター・2024年10月)。
資料2(2026年3月)は「船価の約7割を材料費(鋼材、舶用機器等)が占め、船舶受注後(船価確定後)に材料を調達するため、物価の上昇局面で利益が圧迫される傾向」と明示しています。このコスト構造は鋼材・資材の高騰が直接収益に影響するという造船業固有のリスクを示しています。
資料2(2026年3月)は「船舶の受注と竣工の期間が長い(近年は3〜4年)」とボトルネックとして明示しています。航空機・自動車と異なり、1隻単位の大型受注品であることと、建造の全工程が特定造船所に依存することから、需要変動への対応が難しい構造があります。
資料2(2026年3月)は「ゼロエミッション化による大幅なコスト上昇が起きる見込みであることを踏まえ、早急な需要の創出が必要」と明示しています。アンモニア燃料タンクは重油タンクに比べて約2.7倍の容積が必要(次世代環境船舶開発センター)であり、機器の新規開発・燃料供給システムの整備・安全基準対応等の追加コストが従来船と比較して大幅に増加します。この「コスト高のゼロエミッション船を誰が最初に発注するか」という初期需要創出が政策課題として明示されています。
2024年の世界新造船受注が過去17年最大(6,600万CGT・2,040億ドル)を記録した主要因として、IMO環境規制強化・EU FuelEU Maritime導入を背景とするLNG二元燃料船・メタノール対応船等への代替需要(グリーンフリート更新)が挙げられています。環境対応船の受注では中国が世界市場の78.5%を占めており(Better Equation 2025年)、次世代船舶分野でも中国の先行という競合構造が続いています。
資料2(2026年3月)は「四面を海に囲まれエネルギーや食料等の物資を海外に頼る我が国にとって海上輸送は必要不可欠。造船業は海上輸送に使用する船舶を安定的に供給し、国民生活や経済活動を支える極めて重要な役割を担っている」と位置づけています。また「商船を建造する造船業は、我が国の海上警備や防衛を担う船舶を建造しており、安全保障の観点からも必要な産業」とも明示しています。
資料2(2026年3月)は「我が国造船業の建造量の減少傾向が継続した場合、海上貿易に不可欠な船舶の建造を極度に他国へ依存せざるを得なくなる恐れ」とリスクを明示しており、造船能力の維持が国家安全保障の観点から必須とされています。
資料2(2026年3月)は「国内生産比率が約8割、地域生産比率9割以上であることに加え、ほぼ全ての部品を国内調達しており、地域の経済・雇用を支えている」と明示しています。造船所が立地する長崎・愛媛・広島・兵庫等の地域では造船業が基幹産業であり、建造能力の低下は地域経済への直接的な打撃となります。
現在の船舶燃料は重油(HFO)が主流で総トン数ベースで約90%を占めています。2050年カーボンニュートラルに向けてアンモニア・水素・メタノール・LNG等への燃料転換が必要ですが、現時点では「何が主流の代替燃料になるか」は確定しておらず、複数シナリオへの対応が有効とされています(次世代環境船舶開発センター)。各燃料の主要課題は以下の通りです。
資料2(2026年3月)の勝ち筋として「DX、AI、ロボット等の導入によって更なる生産性向上を図る」「AI・ロボティクスを活用した自動化設備が必要」が明示されています。次世代船舶は従来の船舶より複雑で工数が多いため、AI・ロボット活用による溶接・ブロック加工の自動化は不可欠な競争力強化手段です。今治造船は2025年8月に新燃料船の燃料タンク生産能力向上のため2028年度をめどに建屋増設を決定しています(脱炭素技術センター・2025年)。
資料2(2026年3月)は「造船業は世界単一市場で厳しい国際競争(日中韓で9割以上)があり、次世代船舶についても、コスト面での国際競争が厳しい」と明示しています。造船業は本質的に世界単一市場で顧客(船主)は最も安く最も良い船を提供できる国の造船所に発注します。日本国内の優遇策だけでは国際競争を乗り越えられない構造があります。
資料2(2026年3月)は「ドック、クレーンを始めとした大規模な施設・設備やAI・ロボティクスを活用した自動化設備が必要。建造能力拡大には長期間・多額の設備投資が必要」と明示しています。造船所の設備は非常に大型・特殊であり、1基数十億〜数百億円規模のドライドック・超大型クレーン等の設備投資が前提となります。2035年に1,800万総トン(2024年比倍増)という目標のためには、この投資を早期に着手する必要があります。
資料2(2026年3月)の勝ち筋は「将来、船舶の大半が新燃料に移行する想定の下、次世代船舶の技術開発・生産体制整備・国際ルールの策定の主導・初期需要の創出等により、中国や韓国に対する優位性を確立し、先行者利益とシェアを獲得する」です。技術的複雑性の高いゼロエミッション船においては、早期に建造実績・安全データ・認証を積み重ねた国が標準設定力を持つという先行者利益の構造が存在します。
資料2(2026年3月)は「2035年までに官民で1兆円規模の投資を想定」と示しています。内訳は「①非価格競争力向上のためのグリーン投資(官民:2,800億円規模)」と「②次世代船舶の建造を含む造船能力の抜本的向上(官民:7,300億円規模)」の2本柱です(政策目標として示されている)。
資料1(2026年3月)は「造船業再生基金を通じた建造能力向上により、造船業の自律性を確保する」と明示しています。造船業再生基金は日本政策投資銀行等を通じた出融資スキームで、設備投資の資金調達を支援します。
資料2(2026年3月)の勝ち筋の一つは「国際海事機関(IMO)における国際ルールの策定を主導する」です。アンモニア燃料船・水素燃料船の建造・運航に関する国際安全基準の策定において、日本が技術開発の先行を活かして標準化をリードすることが競争優位の源泉となります。
| 章 | 指標名 | 数値 | 出典・時点 |
|---|---|---|---|
| 第1章 | 日本の建造量(現状) | 900万総トン(2024年)←1,600万総トン(2019年) | 資料2 2026年3月 |
| 第1章 | 世界新造船受注(2024年) | 6,600万CGT・2,040億ドル(過去17年最大) | クラークソンズ 2024年 |
| 第1章 | 中国の世界受注シェア | 約70%超(2024年・CGTベース) | Better Equation 2025年 |
| 第1章 | 日本の世界受注シェア | 約13%(2024年・CGTベース) | 同上 |
| 第2章 | 2035年建造目標 | 1,800万総トン・市場規模約5兆円(2024年比倍増) | 資料2 2026年3月 |
| 第2章 | 2035年ゼロエミッション船比率 | 建造需要の6割程度(見込み) | 同上 |
| 第2章 | 官民投資規模 | 2035年までに1兆円規模(グリーン2,800億円+建造能力7,300億円) | 同上 |
| 第2章 | アンモニア燃料船 実証運航 | 2026年開始目標(政策目標として示されている) | 国交省 |
| 第2章 | 水素燃料船 実証運航 | 2027年開始目標(政策目標として示されている) | 国交省 |
| 第3章 | 船価に占める材料費 | 約7割 | 資料2 2026年3月 |
| 第3章 | 受注〜竣工期間 | 近年3〜4年 | 同上 |
【免責事項】本レポートは就職・転職および投資判断の参考情報として作成されたものであり、特定の投資・転職行動を推奨するものではありません。市場規模数値は各調査機関の定義・算定方法が異なるため単純比較はできません。「政策目標として示されている」と注記した数値は政府が目標として掲げた値であり達成を保証するものではありません。データ基準時点は2026年04月です。
© 2026年04月 産業構造分析レポート ── 次世代船舶(外部環境編)