中編(技術検証編)で確認した通り、NuScale Powerは対象4社で唯一NRC設計認証を取得していますが、最初の商用プロジェクトは認証取得からわずか3年で中止されました。本稿では、2026年8月5日発表のQ2決算と、ルーマニア・RoPower案件、TVA・ENTRA1との交渉状況を中心に、NuScale個別の状況を検証します。
①市場規模 ―― 軽水冷却SMRのポジション
前編で確認した通り、NuScaleが採用する軽水冷却SMR「NuScale Power Module(NPM)」は77メガワットの発電能力を持ち、4基・6基・12基の構成で「VOYGR」発電プラントとして展開されます。パッシブ(受動的)安全系統を採用し、非常用炉心冷却システムの信頼性を高める設計が特徴とされています。産業用途としては地域暖房・海水淡水化・水素製造への応用も想定されています。
②政策・規制環境 ―― 「認証」という切り札の限界
NuScaleは2020年、77メガワット設計についてNRCから標準設計承認(Standard Design Approval)を取得した、対象4社で唯一の企業です。しかし中編で検証した通り、この規制上の優位性は、ユタ州公営電力連合体UAMPS向けの最初の商用プロジェクト「Carbon Free Power Project」を守ることができませんでした。同プロジェクトは2014年の計画発表から、コストが約36億ドルから93億ドルへ膨張し、2023年11月に正式に中止されています。
③コスト・収益構造
NuScaleの収益は、ライセンス供与とエンジニアリングサービスから構成されます。Q2の売上減少は、ルーマニア・RoPower案件のFEED(フロントエンド・エンジニアリングデザイン)業務が2025年末に完了したことが主因とされています。次の収益の柱となるのは、RoPower案件での建設関連サービスや、将来の電力購入契約に基づくロイヤリティですが、これらはいずれもまだ実現していません。
④事業セグメント動向
売上高は前年同期の805万ドルから98.8%減少し、7万5,000ドルにとどまった。減少要因はRoPower向けFEED業務の完了によるものとされる。EPSは▲0.13ドルで市場予想と一致した。手元資金・投資は19億ドルへ拡大し、前四半期から9億ドル増加した。これは2026年6月に完了した10億ドル規模のATM(随時株式発行)プログラムによる調達が主因である。2026年6月30日時点で無借金の財務体質を維持している。
経営陣は、RoPower案件からの収益発生型サービスが2026年内に開始し、2027年に本格化する可能性があると説明している。建設期間は40ヶ月未満と見積もられている。ただし、これは経営陣の見通しであり、確定した収益計上時期を保証するものではない。
テネシー川流域開発公社(TVA)との間で最大6ギガワット規模の電力購入契約を目指すとしているが、2025年9月に締結されたのは非拘束の合意にとどまる。ENTRA1(エネルギー関連の顧客企業)との交渉も進行中とされるが、2026年8月時点で確定契約の締結には至っていない。
2026年9月1日、NuScaleはMillenniTEKとの提携により、SMRの受動的非常用炉心冷却システム向けの酸化ホウ素ペレットの開発を進めると発表した。技術面での前進を示す材料だが、これ自体が収益化に直結するものではない。
⑤株式バリュエーション
2026年9月3日時点の株価は9.86ドル前後で、前日終値9.56ドルから上昇しています。52週レンジは7.21〜57.42ドルと極めて広く、52週高値からの下落率は約84%に達しています。時価総額はデータソースにより38億〜42億ドルの幅で報じられています。
⑥リスク要因
1. 拘束力ある大型契約がまだゼロという事実
NRC認証取得という規制上の優位性にもかかわらず、2026年8月時点で電力購入契約は非拘束段階にとどまっています。TVA・ENTRA1との交渉が確定契約に至らない可能性は常に存在します。
2. RoPower案件のコスト超過リスク
中編で検証した通り、NuScaleの過去の商用プロジェクトはコスト超過により中止された前例があります。RoPower案件が同様の経路をたどらない保証はありません。
3. 希薄化の継続
2026年6月に完了した10億ドル規模のATMプログラムに続き、さらなる資金調達のための株式発行が行われる可能性があります。
4. 収益の空白期間
RoPower向けFEED業務の完了により売上が急減しており、次の収益源(建設サービスやロイヤリティ)が本格化するまでの期間、収益面での空白が生じる可能性があります。
5. セクター全体の連動性
前編・後編で確認した通り、個別企業の材料と無関係にセクター全体が同方向に動く場面が頻発しています。
⑦まとめ
NuScale Powerは、対象4社で唯一のNRC設計認証取得済み企業でありながら、拘束力のある大型電力購入契約を一件も獲得できていないという、規制と商業の間の乖離を最も色濃く体現する企業です。19億ドルという潤沢な手元資金は、この乖離を埋めるための時間的猶予を提供していますが、その猶予期間内にTVA・ENTRA1・RoPowerのいずれかが確定契約に至るかどうかが、今後の株価を左右する最大の焦点になります。本シリーズの基本姿勢に沿い、NuScaleの評価についても「まだ判定できる段階にない」という中立的な立ち位置を維持します。
◆WHAT TO WATCH
- TVAとの拘束力ある契約締結の有無:最大6ギガワット構想が具体化するか
- ENTRA1との交渉進捗
- RoPower案件の建設進捗とコスト管理:中編で見た前例が繰り返されないか
- 2026年Q3決算(11月5日発表予定)
- 追加の株式発行・希薄化の有無
- アナリスト評価の方向性:さらなる下方修正が続くか、反転の兆しが出るか
- 第1弾:AI×量子コンピューティング(完結)
- 第2弾:AI×次世代原子力 前編・中編・後編(完結)
- 第2弾:個別企業編① Oklo
- 第2弾:個別企業編② NuScale Power(本稿)
- 第2弾:個別企業編③ NANO Nuclear Energy(次回)
- 第2弾:個別企業編④ Centrus Energy
次回はNANO Nuclear Energyです。マイクロ炉「KRONOS」のNRC建設許可申請の進捗と、潤沢な手元資金(約5.8億ドル)の使途を中心に検証します。