| 戦略17分野 ⑭ 永久磁石(レアアース磁石) | 課題・政策パッケージ編 2026年05月
JAPAN GROWTH STRATEGY — PERMANENT MAGNETS / RARE EARTH — CHALLENGE & POLICY PACKAGE
永久磁石(レアアース磁石)
課題・政策パッケージ編
官民投資ロードマップ素案(3)官民投資促進に向けた課題と政策パッケージ 構造に基づく分析レポート
最大ボトルネック①
市中リサイクル網
未整備
回収の品質・量・コストが課題
最大ボトルネック②
レアアース価格変動
×設備投資リスク
原価の大半が原材料費
最大ボトルネック③
省レアアース技術
確立の不確実性
2028年度開発終了は「目標」段階
最大ボトルネック④
低価格レアアース磁石
の流通リスク
ダンピング型供給による市場攪乱
CHAPTER 00 課題・政策パッケージサマリー(2026年04月〜05月)
// ANALYST NOTE
永久磁石分野の課題は「リサイクル網未整備・価格変動リスク・技術不確実性・ダンピングリスク」の4重構造だ。これらは互いに連動している。リサイクル網が未整備だと国内循環量が増えず、レアアース価格は中国の供給政策に左右され続ける。価格変動リスクが大きいと量産・リサイクル設備への投資判断が難しくなる。省レアアース技術の確立が遅れれば、価格変動リスクへの根本的対応も遅れる。さらに「著しく低い価格付けがなされたレアアース磁石」が市場に流入すれば、苦労して構築した国内サプライチェーンの経済性そのものが損なわれる。2026年1月の中国対日輸出規制強化は、この4つの課題すべてに緊急性を与えた出来事だった。
未整備
市中リサイクル網
使用済み磁石・電子機器からの磁石/レアアース回収の品質・量・コストすべてが課題
原価の大半
原材料費比率
永久磁石の原価の大半は原材料費。レアアース価格変動が量産・リサイクル設備の投資リスクに直結
2028年度
開発終了「目標」
省レアアース/レアアースフリー磁石の早いものでの開発終了予定。確立できるかは不確実
2026年1月
対日輸出規制強化
中国がサマリウム・ジスプロシウム・テルビウム等の対日輸出管理を強化。4重課題すべてに緊急性
4つのボトルネックと政策パッケージの対応関係
ボトルネック 具体的障壁 政策パッケージ
① 市中リサイクル網未整備 使用済み磁石・電子機器からの回収の品質・量・コストが事業として成立しない水準 国内投資支援(リサイクル設備の低コスト化技術開発・設備投資支援)
② 原材料価格変動×投資リスク 原価の大半が原材料費で、レアアース価格変動が量産・リサイクル設備の投資判断を不確実にする 需要創出(国産磁石への切替え支援で需要の予見可能性を高める)
③ 省レアアース技術確立の不確実性 2028年度開発終了は「目標」であり確実な保証はない。技術ブレイクスルーへの賭けという性質 国内投資支援(技術開発支援を継続・複数の技術アプローチを並行支援)
④ 低価格レアアース磁石の流通リスク 著しく低い価格付けがなされたレアアース磁石が市場に流入し、国内サプライチェーンの経済性を損なう 立地競争力強化(技術管理徹底)・国際連携(同志国リサイクルネットワーク)
CHAPTER 01 (1)投資促進に向けた課題
① リソース制約:市中からのリサイクル網が未整備で回収の品質・量・コストが課題
// ROADMAP
市中からのリサイクル網が未整備であり、磁石/レアアース回収の品質・量・コストが課題。
// BOTTLENECK
永久磁石のリサイクルには「品質・量・コスト」という三重の壁がある。品質面では、使用済みモーターから取り出した磁石は劣化・酸化しており、新品同等の磁力特性を回復させる分離・精製プロセスが必要だ。量の面では、EV・家電が大量廃棄される時期は今後数年〜数十年先であり、現時点での回収量は商業ベースで採算が取れる規模に達していない。コスト面では、新品のレアアース(特に現状の中国産)と比較してリサイクル材のコストが高くなりやすく、「リサイクルする経済合理性がない」という状況が生まれやすい。三菱マテリアル等が回収技術の商業化を推進しているが、「市中からの回収網」という収集インフラ自体がまだ整備途上だ。
// 官の動き(直近2ヶ月)
  • 「リサイクル設備(回収、選別、取出、分離・精製)の低コスト化技術開発、設備投資への支援」がロードマップ素案の政策パッケージ第一に明記 ロードマップ素案 2026.3
  • 「産官学連携による使用済み磁石の回収、選別、取出、分離・精製のスキーム整備及び低コスト化技術の確立」を「我が国として構築すべき機能」として明示 ロードマップ素案 2026.3
// 民の動き(直近2ヶ月)
  • 三菱マテリアル等:使用済みモーター・電子機器からのレアアース回収技術の商業化を推進中。中期課題として位置づけられている JRIFE 2026.1
② 不確実性の要因
a. 原材料費比率の高さ×レアアース価格変動による設備投資リスク
// ROADMAP
永久磁石の原価は原材料費が大半を占める中、レアアース原料価格の変動によって、量産用設備やリサイクル設備の投資リスクが発生。
// BOTTLENECK
レアアース価格は2010年の中国輸出規制時に数倍に高騰した経験があるように、極めて変動が大きい。永久磁石メーカーが「数十億円規模の量産ライン増強」を決断する際、その投資の経済性は「将来のレアアース価格」に大きく依存する。価格が高止まりすれば省レアアース化への投資は正当化されるが、価格が急落すれば既存設備の更新投資が回収できなくなるリスクがある。この「価格変動の予見不可能性」が設備投資判断を慎重にさせる構造的要因だ。
// 海外動向

中国 レアアース価格の決定権を実質的に持つ中国の輸出政策(2025年4月の7種輸出管理強化、2025年12月の規制対象拡大)が、世界のレアアース価格のボラティリティの主要因となっている。


b. 省レアアース/レアアースフリー磁石の技術確立の不確実性
// ROADMAP
省レアアース/レアアースフリー磁石の技術確立の不確実性。
// BOTTLENECK
「早いもので2028年度頃を目標に開発終了予定」という表現は、裏を返せば「全ての開発が2028年度に終わるとは限らない」という不確実性を含意している。重希土類フリーネオジム磁石・完全レアアースフリー磁石といった技術は、磁力特性(残留磁束密度・保磁力)を従来のジスプロシウム添加ネオジム磁石と同等以上にしながらコストを下げるという、材料科学上のブレイクスルーを必要とする。「技術が確立しなかった場合、調達源複線化とリサイクルだけで需給バランスを保つ必要がある」という代替シナリオへの備えも政策設計上重要になる。
// 官の動き(直近2ヶ月)
  • NEDO経済安全保障重要技術育成プログラム:重希土フリー磁石・レアアースフリー磁石・次世代磁石対応モータの設計開発という複数アプローチを並行支援することで、単一技術への依存リスクを分散 NEDO 2024.7

c. 著しく低い価格付けがなされたレアアース磁石の流通リスク
// ROADMAP
著しく低い価格付けがなされたレアアース磁石の流通リスク。
// BOTTLENECK
このリスクは「ダンピング(不当廉売)型の市場攪乱」を指している。仮に日本が国内投資・調達源複線化・省レアアース化に多額の投資を行い国内サプライチェーンを構築しても、中国メーカーが採算度外視の低価格でレアアース磁石を世界市場に供給すれば、日本製磁石の価格競争力が失われ、構築したサプライチェーンが経済的に成立しなくなる。実際、2026年1月7日には中国商務部が日本からの輸入品「ジクロロシラン」(半導体製造材料)についてダンピング調査を開始すると発表しており(JRIFE、2026年1月)、貿易摩擦の応酬という文脈もこのリスクの一部だ。
// 海外動向

米国 米国は中国製レアアース磁石・関連製品への関税賦課(追加関税)を実施済みで、ダンピング対策の前例として機能している。日本も同様の貿易救済措置(アンチダンピング関税)の検討余地がある。

CHAPTER 02 (2)講じるべき政策パッケージ
① 国内投資支援
// ROADMAP
省レアアース/レアアースフリー磁石の技術開発支援。リサイクル設備(回収、選別、取出、分離・精製)の低コスト化技術開発、設備投資への支援。省レアアース/レアアースフリー磁石を含む国内磁石生産ラインの増強・自動化にかかる設備投資補助金。
// WHY IT MATTERS
3つの支援項目(技術開発・リサイクル設備・生産ライン増強)はそれぞれ前章の3つの不確実性(技術確立・リサイクル網・価格変動投資リスク)に対応している。「複数の不確実性に対して複数の支援策を並行投入する」というポートフォリオ的なアプローチが、単一施策への依存リスクを下げている。
// 官の動き(直近2ヶ月)
  • NEDO経済安全保障重要技術育成プログラム:重希土フリー磁石・レアアースフリー磁石・次世代磁石対応モータの設計開発を継続支援中(2024年7月着手) NEDO 2024.7
// 民の動き(直近2ヶ月)
  • 三菱マテリアル等:使用済みモーター・電子機器からのレアアース回収技術の商業化推進が継続中 JRIFE 2026.1
② 需要創出・市場確保
// ROADMAP
国内製造業(自動車や産業機械等)における国産磁石への切替え支援。
// WHY IT MATTERS
「国産磁石への切替え支援」は、原材料価格変動リスクへの間接的な対応でもある。需要側(自動車・産業機械メーカー)が「多少高くても国産磁石」という調達方針に転換すれば、磁石メーカーにとって「価格変動に左右されない安定的な需要」が確保され、設備投資の予見可能性が高まる。2026年1月の中国輸出規制強化は、この切替えの経済合理性を実証する出来事として機能した。
③ 立地競争力強化
// ROADMAP
我が国が強みとする技術が海外に流出しないよう官民による技術管理を徹底。使用済み磁石の回収、選別、取出、分離・精製のスキーム整備。
// WHY IT MATTERS
「技術管理の徹底」は、低価格レアアース磁石の流通リスクへの間接的対応でもある。日本の省レアアース技術が海外(特に中国)に流出すれば、その技術を用いた低価格磁石が中国から逆輸入され、日本の国内サプライチェーンの優位性を消失させる可能性がある。外為法に基づく技術輸出管理の厳格化が、この技術的優位を維持する制度的基盤となる。
④ 国際連携
// ROADMAP
同志国との国際的な磁石リサイクルネットワーク構築。
// WHY IT MATTERS
「同志国との磁石リサイクルネットワーク」は、市中リサイクル網未整備という①の課題に対する国際版の解だ。日本国内だけでは使用済み磁石の回収量が不足する場合でも、同志国(米・欧・豪等)の使用済み製品からも磁石/レアアースを回収するネットワークが構築できれば、リサイクル原料の絶対量が増え、リサイクル事業の経済性が向上する。これは「国内リサイクル網の未整備」という弱点を「国際連携でスケールを確保する」ことで補う設計だ。
// 海外動向

G7・EU 「Critical Raw Materials Club」構想が、同志国間でのレアアース・重要鉱物のサプライチェーン協力枠組みとして議論されている。リサイクルネットワークもこの枠組みの一部として位置づけられる可能性が高い。

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出典
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本レポートは、公開されている政府資料・報道・企業IRをもとに編集した情報提供を目的としたものであり、投資助言・投資推奨を目的とするものではありません。データ基準時点:2026年04月〜05月。