本レポートは、高市政権「戦略17分野」航空・宇宙の先行検討技術⑨「ロケット・射場」の外部環境を、就職・転職検討者および株式投資家向けに数字と事実のみで記述します。所管は内閣府(経済安全保障)です。
良し悪しの評価・投資推奨・将来予測は行いません。構造を示すことで終わります。
世界の宇宙産業の規模は2022年時点で約54兆円と推計されています(経済産業省「国内外の宇宙産業の動向を踏まえた経済産業省の取組と今後について」・2024年3月)。世界経済フォーラム(WEF)は、宇宙には年率9%で成長を続け2035年には現在の2.8倍に達する成長機会があると分析しており(WEF「Space: The $1.8 Trillion Opportunity for Global Economic Growth」・2024年)、この成長率は世界のGDP成長率(5%)の2倍・半導体産業の成長率(6〜8%)と同等とされています(経産省資料・2025年2月)。
日本成長戦略会議 第3回 資料2「先行して検討を進めている主要な製品技術等の官民投資ロードマップ素案」(2026年3月)は「2030年代における世界の市場規模は150兆円ともいわれる」としています。
宇宙打上げ市場(ロケット打上げサービス)は2024年に14,314百万ドルと評価され、2033年までに41,650百万ドルに拡大、CAGRは12.6%と予測されています(Global Growth Insights)。また衛星打上げロケット市場は2024年に46.5億ドルと推計され、2029年までに121.1億ドルに達する見込み(CAGR 21.10%)とされています(Mordor Intelligence)。
日本の宇宙産業規模は2020年時点で約4兆円(経産省)。宇宙基本計画(2023年6月改訂)は「2030年代の早期に8兆円に拡大する」ことを政府目標として掲げています(政策目標として示されている)。
2025年時点の世界のロケット打上げ回数は米国(SpaceX含む)192回・中国91回・日本3回です(日本成長戦略会議 第3回 資料2・2026年3月)。SpaceXのFalcon 9は2024年に132回の打上げを実施し、世界全体のロケット打上げ数の50%超を占めました(Wikipedia・JAXA資料)。2024年はStarlink(SpaceX自社衛星コンステレーション)が90回・GTO(静止軌道投入)が10回です(JAXA H3プロジェクトチーム・2025年3月)。
| ロケット | 打上げ価格 | GTO能力 | 特徴 |
|---|---|---|---|
| SpaceX Falcon 9 | $69.75M(GTO・1段回収前提) | 5.5トン | 2024年に132回打上げ。再使用(1段回収)で実コストは推定2,000万ドル以下(2024年・Wikipedia)。世界市場の50%超を独占。 |
| SpaceX Falcon Heavy | $90M(1段コア/LRB回収前提) | 8.0トン | 2024年は2回打上げ。重量衛星向け。 |
| H-IIA(旧型) | 約100億円(約6,700万ドル) | 4〜6トン | 打上げ成功率97.96%(49号機まで)。2024年度中に運用終了予定。Falcon 9より高コスト。 |
| H3(新型・目標) | 約50億円(約3,300万ドル)目標 | 4〜6.5トン(形態別) | H-IIA比約半減が目標。2024年に3・4号機の打上げ成功。商業初受注(Eutelsat)。使い捨て方式。 |
国内衛星の国内打上げ比率は2015〜2024年累計で50%です(資料2・2026年3月)。政府衛星は国内打上げが多いものの、民間衛星の多くは海外(主にSpaceX)から打ち上げられています。「衛星事業者はSpaceXによる市場の寡占を懸念し、それ以外の打上げサービスを求める需要も顕在化しつつある」という認識が政府・業界の共通認識となっています(経産省・2024年3月)。
通信・観測・測位・安全保障等で宇宙空間の利用が進み、ロケット・射場はこれらすべての宇宙利用の根幹となるインフラです。GPS・衛星通信・気象衛星・情報収集衛星(安全保障目的)は現代の社会・経済・安全保障にとって不可欠であり、これらを打ち上げる能力を自律的に持つことが「宇宙アクセスの自律性確保」として政策課題となっています。
多数の衛星を軌道上に配置する衛星コンステレーション構築計画が多数発表されており、米中を中心に打上げ回数が急増しています。SpaceXのStarlinkは2024年に単体で90回のFalcon 9打上げを実施しており、コンステレーション向けの定期・大量打上げが新たな産業形態として確立しています。この需要に日本が対応できるかが「SpaceX依存からの脱却」の鍵とされています。
H3ロケット4号機(2024年11月)でXバンド防衛通信衛星「きらめき3号」を打ち上げた実績が示す通り、防衛用途の衛星打上げは基幹ロケット需要の重要な柱です。安全保障分野含め自律的な宇宙アクセス手段の確保が宇宙基本計画でも明記されており、防衛費増額に伴い政府衛星の打上げ需要増加が見込まれます。
SpaceXのFalcon 9が2015年に1段再使用を実現して以来、「再使用によるコスト削減」が世界の宇宙輸送技術の主流となりつつあります。2024年現在、Falcon 9の1段再使用後のコストは推定2,000万ドル以下とされており(Wikipedia)、使い捨てが基本のH3(目標約50億円)との価格差が課題として残ります。ただし再使用は必ずしも低コストに直結しないという議論もあり、使い捨て方式の極限追求(H3の設計思想)も選択肢として維持されています。
JAXA H3プロジェクトチームの2025年3月資料は「H3のアップグレード2では再使用技術の飛行実証・大型化を目指す」として、将来的な再使用化への対応を段階的に進める方針を示しています。
日本でも民間ロケット企業の新規参入が加速しています。インターステラテクノロジズ(北海道)・スペースワン(和歌山・カイロス)・将来宇宙輸送システム等が独自ロケットの開発・打上げを進めています。2024年にはカイロスロケット初号機が打上げを試み(打上げ失敗)、2025年以降に再挑戦を予定しています。宇宙戦略基金では民間ロケット開発支援が22テーマの一つとして採択されています。
ロケット産業は「打上げ失敗リスクが事業継続に直結し、開発期間や打上げ再開までの期間が長期化する」という特殊な産業です(資料2・2026年3月)。一度の打上げ失敗が信頼喪失→受注減→事業継続危機という連鎖を生む可能性があり、実績の積み上げが参入の前提条件です。H3試験機1号機の失敗(2023年3月)がその典型的な例です。
資料2(2026年3月)は「打上/試験設備等の多くは整備後50年近く経過し老朽化が激しく、安定した打上げや開発の継続に対してリスクを有する状態」と明示しています。種子島宇宙センターを中心とする射場設備・燃焼試験場・推進剤保管設備・追跡管制設備等の老朽化対応は待ったなしの課題であり、大規模な先行投資が必要です。
資料1「戦略17分野における主要な製品・技術等」(2026年3月)は「宇宙利用のためにはロケット打上げ能力が不可欠。国内衛星の多くは海外から打ち上げられており、米・中・欧・印が打上げ能力を強化する中、我が国も自律的な宇宙空間へのアクセス確保・拡大が急務」と明示しています。特定の外国ロケット(現実的にはSpaceX)に依存した状態では、地政学的変化・価格交渉・打上げ順位調整等でリスクが生じます。
宇宙戦略基金第1期は総額3,000億円・22テーマで構成され、ロケット開発・射場整備・衛星製造・関連インフラの各分野を支援しています。アンカーテナンシー(政府による打上げサービスの計画的調達)による民間の投資予見性向上も政策として示されており(資料2・2026年3月)、単年度予算による予見可能性の低さという従来の課題への対処が進んでいます。
経済安保推進法に基づくロケット部品等の特定重要物資支援が政策パッケージに明示されています(資料2・2026年3月)。ロケット製造に必要な部品・素材のサプライチェーン強靱化が経済安全保障の観点から政策的に位置づけられています。
| 章 | 指標名 | 数値 | 出典・時点 |
|---|---|---|---|
| 第1章 | 世界宇宙産業規模 | 約54兆円(2022年) | 経産省 2024年3月 |
| 第1章 | 2030年代の世界市場見通し | 約150兆円 | 資料2 2026年3月 |
| 第1章 | 宇宙打上げ市場 CAGR | 12.6%(2024〜2033年) | Global Growth Insights |
| 第1章 | 日本宇宙産業規模→目標 | 約4兆円(2020年)→8兆円(2030年代・政策目標) | 宇宙基本計画 2023年 |
| 第3章 | 米国の打上げ回数(2025年) | 192回 | 資料2 2026年3月 |
| 第3章 | 日本の打上げ回数(2025年) | 3回 | 同上 |
| 第3章 | SpaceX Falcon 9 打上げ回数(2024年) | 132回(世界全体の50%超) | Wikipedia・JAXA資料 2025年3月 |
| 第3章 | Falcon 9 打上げ価格(GTO) | $69.75M(1段回収前提) | JAXA資料 2025年3月 |
| 第3章 | H-IIA打上げコスト | 約100億円 | 複数報道・JAXA資料 |
| 第3章 | H3目標コスト | 約50億円(設計目標値) | JAXA・三菱重工 目標値 |
| 第3章 | 国内衛星の国内打上げ比率 | 50%(2015〜2024年累計) | 資料2 2026年3月 |
| 第2章 | 宇宙戦略基金 第1期総額 | 3,000億円・22テーマ | UchuBiz 2024年12月 |
| 第2章 | 2030年目標(打上げ回数) | 年30回以上(政策目標として示されている) | 資料2 2026年3月 |
| 第2章 | 2040年目標(打上げ需要) | 年1,500〜3,000億円規模(政策目標として示されている) | 同上 |
外部環境編では以下の構造を数字と事実で整理しました。
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© 2026年03月 産業構造分析レポート ── ロケット・射場(外部環境編)