はじめに|「海外進出=製造業」は、いまも正しいのか?
日本企業の海外進出というと、
長らく「製造業が工場を海外に移す」というイメージが中心でした。
では実際に、この10年で海外進出の業種構成はどう変わったのでしょうか。
本稿では、感覚論ではなく公的データに基づいて整理します。
1|海外進出企業の絶対数では、製造業が依然として最大
まず前提として押さえるべき事実があります。
経済産業省の調査によれば、
海外で事業活動を行う日本企業の絶対数では、
現在も製造業が最大のボリュームを占めています。
この点は、10年前も現在も大きく変わっていません。
👉
「製造業が海外進出の主役である」という認識自体は、今も誤りではありません。
2|一方で、非製造業の構成比はこの10年で確実に上昇している
重要なのは「絶対数」ではなく、構成比の変化です。
業種構成の変化(全体像)
公的調査を基に整理すると、以下の傾向が確認できます。
- 2012年前後
- 製造業:約70%
- 非製造業:約30%
- 2022〜2023年
- 製造業:約60%前後
- 非製造業:約40%弱
この10年で、
非製造業の比率はおよそ10ポイント上昇しています。
これは一時的な変動ではなく、
構造的な変化と捉えるのが妥当です。
3|「新規で海外に出る企業」の中心は、さらに変化している
次に注目すべきは、
**「すでに海外展開している企業」ではなく「これから海外展開を考えている企業」**です。
海外展開を検討する企業を対象とした調査では、
- 製造業:約45〜50%
- 非製造業:約50〜55%
と、
非製造業が過半を占める結果が示されています。
特に比率が高いのは、
- 情報通信業
- 各種サービス業
- デジタル関連
- 教育・コンテンツ関連
といった分野です。
👉
「新しく海外に出る層」では、すでに構造転換が起きている
と読むことができます。
4|ストックとフローで見ると、何が起きているのか
ここで重要なのは、
海外進出をストック(過去からの蓄積)とフロー(これからの動き)に分けて捉えることです。
-
過去からの蓄積(ストック)
海外拠点を持つ企業の構成比では、製造業が約6割と依然として最大。 -
これからの動き(フロー)
今後海外展開を検討している企業では、非製造業が過半(5割超)。
この**「ストックとフローの逆転」**こそが、
この10年で起きている海外進出構造変化の本質と言えるでしょう。
5|なぜサービス業・IT系は「増えている」と言えるのか
サービス業・IT系は、
統計上の件数では目立ちにくいにもかかわらず、
「増加が顕著」と評価される理由があります。
① 進出形態が根本的に異なる
- サービス業・IT系
- 小規模拠点
- 駐在員数は1〜3名以下
- 現地法人を設立しないケースも多い
- 製造業
- 工場・大型設備
- 数十人〜数百人規模の雇用
👉
同じ「海外進出」でも、前提条件が大きく異なります。
② 初期投資額と撤退可能性の違い
公的資料による分析では、
- 製造業(工場系)
- 初期投資:数億円〜数十億円規模
- サービス業・IT系
- 初期投資:数百万円〜数千万円規模
と、桁が異なります。
その結果、
- テスト的に海外に出る
- 合わなければ撤退する
といった判断が可能になり、
進出件数・増加率が高くなりやすい構造が生まれています。
③ DX・クラウド環境の整備という追い風
加えて、この10年で大きく変わったのがIT環境です。
かつては海外進出にあたり、
現地サーバーや専用回線などのインフラ整備が不可欠でした。
しかし現在では、SaaSやクラウドサービスの活用により、
「PC1台から海外事業を開始する」ことも現実的になっています。
このDX環境の進展が、
サービス業・IT系企業の海外進出を強く後押ししています。
6|整理すると見えてくる「正確な理解」
ここまでを整理すると、次のようにまとめられます。
- 海外進出企業の絶対数の主役は、今も製造業
- 一方で、構成比・新規進出・進出形態では非製造業が拡大
- 特にサービス業・IT系は、
- 増加率が高い
- 小規模・低投資
- 撤退可能性を前提に設計されている
👉
海外進出の主役は、
「特定の業種」から「柔軟な設計思想」へ移りつつある
と言えるでしょう。
まとめ|税理士・支援者にとっての示唆
小規模・低投資な海外進出が増えているということは、
支援する側にも変化が求められていることを意味します。
重厚長大なスキーム設計だけでなく、
- クイックな立ち上げ支援
- リモートでの管理体制構築
といった実務的な伴走力が、
これまで以上に重要になりつつあります。
出典
- 経済産業省「海外事業活動基本調査」
- JETRO「日本企業の海外事業展開に関するアンケート調査」
- 中小企業庁「中小企業白書」