はじめに|海外進出の成否は「支援設計」で決まる
海外進出の成否は、
事業アイデアや市場選定以上に、誰がどの段階で関与するかによって左右されます。
中堅・中小企業では、
- 社内に国際部門がない
- 情報源が限られている
- 初期段階では意思決定が属人的になりやすい
といった事情から、税理士が最初の相談窓口になるケースが少なくありません。
本稿では、
海外進出を支えるプレイヤーの役割を整理しつつ、
税理士がどのような立ち位置で関与すべきかを考えます。
1|10年前の海外進出支援モデルと、その限界
かつての典型的なモデル
- 製造業による海外工場進出
- 商社・金融機関主導の案件形成
- 現地設立後は「走りながら考える」運営
このモデルは、
中国・ASEANを中心とした低コスト生産モデルの時代には機能していました。
現在、このモデルが機能しにくい理由
- 地政学リスクの顕在化
- 国際税務・移転価格・恒久的施設認定など論点の高度化
- 業種の多様化(製造業以外の進出増加)
結果として、
「進出ありき」の支援モデルは成立しにくくなっています。
2|銀行の役割は「融資」から「情報と接続」へ
金融機関の現在地
海外ネットワークを持つ金融機関は、
依然として重要な支援プレイヤーです。
一方で中堅・中小企業の初期フェーズでは、
- 案件性が見えないと動きづらい
- 構想段階では関与が限定的
というケースも少なくありません。
地域金融機関の変化
近年は、地域金融機関が
- 現地パートナーの紹介
- 専門家ネットワークとの接続
といった情報ハブ的役割を担う場面が増えています。
この段階で、
税理士が金融機関との連携窓口になることも多いのが実情です。
3|税理士は「国内顧問の延長」では通用しない
海外進出に際し、経営者が税理士に期待しているのは、
海外税務をすべて自ら処理してほしいということではありません。
公的調査や各種白書では、海外進出時の課題として
- 信頼できる専門家が分からない
- 誰に何を相談すべきか判断できない
といった点が繰り返し指摘されています。
実務上、税理士は
その最初の相談窓口になるケースが多いため、
すべてを抱え込むのではなく、
「適切な相談先を示す力」が重要になります。
4|国際税務ネットワークと中堅税理士法人の台頭
近年、海外進出支援では
中堅規模の税理士法人が存在感を高めています。
背景には、
- 機動力の高さ
- 現地会計事務所との実務連携
- 国際ネットワーク(BDO、Grant Thornton、RSM 等)の活用
があります。
税理士の立ち位置は、概ね次の3タイプに分かれます。
- 全体設計と専門家接続を担う「ハブ型」
- 国際税務は外部と連携する「専門連携型」
- 明確に関与範囲を限定する「非関与型」
重要なのは、
中途半端に抱え込まないことです。
5|公的機関は「進出前」と「撤退時」に効く
公的機関は、
- 市場調査
- 法制度の一次情報
- 実証・PoC支援
といった「進出前フェーズ」で特に有効です。
また、見落とされがちですが、
撤退判断の整理においても客観的な材料を提供します。
税理士が関与できるポイントは、
- 補助金・実証事業の会計整理
- 撤退時の損失整理
- 感情論に流されない判断支援
です。
6|税理士が提供できる本当の価値とは
税務計算は「前提」であり、引き続き重要な本業である
海外進出においても、
- 正確な税務計算
- 適切な申告
- リスクを踏まえた税務判断
は、税理士の本業であり、信頼の土台です。
そのうえで海外進出という局面では、
- 進出そのものが妥当か
- 想定外の税務・法務リスクはどこにあるか
- うまくいかなかった場合の出口はどこか
といった、税額計算だけではカバーしきれない判断領域が生じます。
海外進出時に、特に重要になる税理士の視点
海外進出時に税理士が発揮できる価値は、
税率やスキームそのものではなく、次のような「整理力」にあります。
- 進出の是非を、感情ではなく構造で整理する
- 撤退条件を、事前に言語化する
- 銀行・専門家・公的機関など、支援者の役割を整理する
これらは、
税務・会計を理解しているからこそ可能な整理です。
税理士は「海外進出プロジェクトの編集者」
税理士に求められる役割は、
- すべてを自分で実行することではなく
- しかし、全体を理解せずに丸投げすることでもありません
プロジェクト全体を俯瞰し、適切な専門家を配置する存在として、
税理士は
「海外進出プロジェクトの編集者」
という立ち位置を担うことができます。
まとめ|海外進出時代の税理士に求められる役割
- 税務計算・申告という本業は、引き続き重要な基盤である
- そのうえで、海外進出という非連続な意思決定において
税理士の視点は、経営者にとって不可欠になる - 税理士の役割は
実務を超えて、意思決定を支える存在へと広がっている
出典
- JETRO「海外進出日系企業実態調査」
- 経済産業省「海外事業活動基本調査」
- 中小企業庁「中小企業白書」
- 各種公的資料および業界ヒアリングを基に筆者整理