はじめに|「解散=予算が変わる」は本当か
衆議院解散の可能性が報じられるたびに、
「これで来年度予算が大きく変わるのではないか」
という声が必ず聞こえてきます。
とりわけ今回は、
高市首相が解散に踏み切る背景として、
「前政権色の強い予算案を通したくないからではないか」
といった見方も語られています。
しかし、制度と実務の両面から冷静に整理すると、
この説明にはやや単純化が含まれているように見えます。
本記事では、
解散総選挙と国家予算は実際にどう関係しているのか、
そして
解散の目的を『予算の大幅変更』と見るのは妥当なのか
を整理します。
1.国家予算は「選挙で白紙に戻る」仕組みではない
来年度予算は、
各省庁の概算要求、財務省査定、与党内調整を経て、
長期間の積み上げによって作られます。
その中核を占めるのが、いわゆる義務的経費です。
- 社会保障費
- 国債費
- 地方交付税交付金
これらは、
国家予算全体のおよそ7割前後を占めるとされ、
政権が代わっても、選挙があっても、
短期間で動かすことはほぼ不可能です。
この構造を踏まえると、
解散総選挙によって
「予算を大幅に組み替える」という発想自体が、
制度的にかなり制約を受けていることが分かります。
2.解散すると、むしろ予算は「変えにくくなる」
直感に反しますが、
解散総選挙は予算の大胆な修正を難しくする側面があります。
特に、
2026年1月の通常国会冒頭で解散した場合、
最大の実務的懸念は、
4月1日までに本予算が成立しない可能性
です。
この場合、政府は
**「暫定予算」**を編成せざるを得ません。
暫定予算とは、
- 義務的経費
- 継続性の高い既存事業
に支出を限定し、
新規政策や目玉施策の執行を極力抑える
つなぎ的な予算です。
皮肉なことに、
「予算を変えるための解散」が、
新内閣のやりたい政策の実行を
むしろ遅らせる
という構造が生まれます。
3.「骨格予算」との違いが示す今回の異例さ
政権交代直後には、
政策判断を抑えた**「骨格予算」**が組まれることがあります。
しかし今回は事情が異なります。
- すでに 高市内閣としての予算案が12月に閣議決定されている
- その予算案を、あえて本格審議に入らず解散する可能性が議論されている
これは、
「骨格予算を組むための解散」ではなく、
「閣議決定済み予算の正統性を一度、民意で整理するための解散」
と見る方が、構造的には自然です。
この点は、今回の解散議論の異例性を示す重要なポイントです。
4.「前内閣の予算を通したくないから解散」説の慎重整理
一部では、
「解散しなければ、石破前内閣が組んだ予算案を
ほぼそのまま通さざるを得ないからだ」
という見方もあります。
しかし、制度上、
- 予算は内閣全体の案であり、首相個人の案ではない
- 政治判断による修正や方針転換は可能
です。
実際に制約となるのは制度ではなく、
時間と政治的調整コストです。
そのため、
- 「踏襲せざるを得ない圧力」が生じることはあり得る
- しかし、それを理由に
「解散しなければならない」とまでは言えない
というのが、冷静な整理になります。
5.本質論としての整理
以上を踏まえると、
次の理解が最も妥当でしょう。
- 解散総選挙をしても、予算の抜本改編は現実的ではない
- むしろ暫定予算によって、新政策の実行は遅れやすくなる
- 「前内閣の予算を通したくないから解散」という説明は、やや言い過ぎ
- 解散の本質は、予算の中身ではなく
予算に紐づく人・正統性・優先順位を整理することにある
この視点に立つと、
解散をめぐる議論は、
単なる政局論ではなく、
制度と実務に根差したものとして理解できるようになります。
おわりに|次に見るべき論点
次回は、
この整理を一歩進めて、
選挙後に、どのような予算が「静かに整理されやすいのか」
という点を、
具体的な分野の特徴から見ていきます。
解散総選挙は、
予算を「変える」ためのものではない。
しかし、
予算の優先順位を静かに組み替える契機にはなり得る。
その仕組みを理解することは、
政治を読み解くうえでの重要な知識と言えるかもしれません。
出典
- 財務省「予算編成の仕組み」
- 衆議院事務局「予算審議と衆議院の優越」
- 総務省「国会制度の概要」
- 各社報道(解散総選挙と予算日程に関する一般報道)