第0章|このレポートの立ち位置
本レポートは、酒税法の適用を受ける酒類業界を対象としています。
対象となる企業例としては、
アサヒビール、
サントリー、
キリンビール
などが挙げられます。
清涼飲料水や非酒類飲料、飲食店・小売専業事業者は対象外とします。
本レポートでは、評価や戦略提案は行わず、
酒類業界に共通する内部構造の整理に限定します。
第1章|設備投資という「引き返せない前提」
酒類業界の内部構造を理解するうえで、
まず押さえるべきなのが設備投資の性質です。
蒸留器、発酵タンク、貯蔵タンク、樽など、
酒類製造に必要な設備は高額であり、かつ用途が限定されています。
他業界への転用は難しく、
設備そのものが「この業態を続けること」を前提に設計されています。
その結果、設備投資の回収期間は
短くても十数年、場合によっては数十年に及びます。
これは、事業の方向転換や撤退が
心理的にも、財務的にも極めて難しいことを意味します。
第2章|設備と熟成が資金を固定する構造
前編(外部環境編)で触れた「熟成」という時間制約は、
内部環境では資金の固定化として現れます。
製造した酒類は、
すぐに売上として回収できるわけではありません。
熟成期間中は在庫として保有され、
設備と在庫の両方が長期間バランスシートに残ります。
この構造により、
酒類業界ではキャッシュフローが
慢性的にタイトになりやすい傾向があります。
売上が安定していても、
資金繰りの余裕が常にあるとは限りません。
第3章|「やめにくさ」が生む内部的硬直性
設備投資と熟成による時間制約は、
業界内部に一種の硬直性を生みます。
一度事業を始めると、
「少し様子を見る」「一旦止める」といった判断が取りにくくなります。
結果として、
環境変化に対して、
調整ではなく耐える選択が増えやすくなります。
この点は、
同じ飲料業界であっても
清涼飲料水や非清涼飲料とは大きく異なる特徴です。
第4章|物流・卸を介した流通構造と情報の分断
酒類業界では、免許制度を前提として
メーカー、卸、小売という
三段階の流通構造が基本となります。
この構造により、
メーカーは消費者と直接接点を持ちにくくなります。
販売数量や在庫状況は把握できても、
「誰が、なぜ買ったのか」という情報は
現場まで届きにくい傾向があります。
また、販促施策や価格調整についても、
卸・小売を通じた調整が必要となり、
メーカー側でコントロールできる範囲は限定的です。
第5章|現場に蓄積する見えにくい負荷
こうした構造の結果、
現場では以下のような負荷が蓄積しやすくなります。
設備は重く、
在庫は長く滞留し、
市場の反応は間接的にしか見えない。
この状態では、
「忙しさ」と「成果」の関係が見えにくくなり、
業務改善や意思決定の手応えを得にくくなります。
第6章|内部環境の整理
酒類業界の内部環境は、
以下の前提条件によって形作られています。
設備投資の回収期間が長く、
事業から引き返しにくい構造であること。
熟成と在庫が資金を長期間拘束すること。
卸を介した流通構造により、
市場情報が分断されやすいこと。
これらは、個社の努力だけで
解消できるものではありません。
第7章|有料版への橋渡し
有料版では、
この内部構造を前提として、
どの立場の人が
「動けない状態」に陥りやすいのか。
どの経験が
他業界に持ち出しにくいのか。
を整理します。
第8章|関連記事
出典
- 国税庁「酒類製造業の現状および酒税制度に関する資料」
- 経済産業省「工業統計調査」
- 農林水産省「食品産業動態調査」
- 各社有価証券報告書