はじめに|南から始まった、日本ウイスキーのもう一つの物語
日本ウイスキーといえば、
山崎や白州のような「完成度の高いバランス型」を思い浮かべる方が多いでしょう。
しかし鹿児島には、
まったく異なる文脈から生まれた蒸溜所があります。
それが 嘉之助蒸溜所 です。
ここで造られるウイスキーは、
力強さよりも「やわらかさ」が印象に残ります。
その背景には、この土地ならではの文化と設計思想があります。
蒸溜所の基本情報
- 所在地:鹿児島県日置市
- 設立:2017年
- 母体:小正醸造株式会社
- 東シナ海を望む海沿いの立地
嘉之助は、老舗焼酎メーカーである小正醸造が立ち上げた蒸溜所です。
特に重要なのが、
同社の代表的な樽熟成焼酎 「メロー小正」 の存在です。
ウイスキーを始める以前から、
- 木樽と原酒の関係性
- 熟成による丸みの出し方
- 樽由来の甘みのコントロール
を長年研究してきました。
つまり嘉之助は、
「樽熟成の経験値」を持った状態でウイスキーに参入した蒸溜所なのです。
この背景こそが、“やわらかさ”の原点です。
設計思想|三基のポットスチルという選択
嘉之助の最大の特徴は、
三基のポットスチルを導入している点です。
形状はそれぞれ異なり、
- 直線的で軽やかな酒質を生むタイプ
- ふくらみを持たせるバルジ型
- 中間的なバランス型
という設計になっています。
重要なのは、
初留だけでなく 再留(2回目の蒸溜)でどのスチルを選ぶか によって、
- 華やかさを強める
- 重厚さを持たせる
- 角を取って柔らかくする
といったコントロールが可能になることです。
嘉之助の“やわらかさ”は偶然ではありません。
蒸溜段階から設計されている性質なのです。
南国熟成とリチャー・カスクの魔術
鹿児島は、
- 夏は非常に暑く
- 冬も比較的温暖
- 海風が吹き込む
という熟成環境です。
この気候は熟成を早め、
樽の影響を強く引き出します。
そこで嘉之助が選んだのが、
リチャー・アメリカンホワイトオーク樽
です。
これは一度使用した樽を再度焼き直し(Re-char)することで、
- バニラ
- キャラメル
- トースト香
- 東洋的な柔らかいスパイス感
を強調する設計です。
南国の熟成とリチャー樽の組み合わせが、
あの独特の「丸み」を生み出しています。
代表的な銘柄
① シングルモルト嘉之助
蒸溜所の思想が最も分かりやすく表現された一本。
- 蜂蜜のような甘み
- トロピカルフルーツのニュアンス
- なめらかなオーク感
“南国の明るさ”を感じる仕上がりです。
② 嘉之助 HIOKI POT STILL
焼酎文化へのオマージュを体現したボトル。
ウイスキーの文脈だけでは語れない、
嘉之助のルーツが見える一本です。
③ Artist Edition
樽や設計違いによる限定シリーズ。
蒸溜設計と熟成設計の違いが明確で、
嘉之助の「構造」を体験できます。
嘉之助の立ち位置
厚岸が「緊張感」
秩父が「思想」
三郎丸が「重厚」
だとすれば、
嘉之助は
“やわらかさを構造で生み出す蒸溜所”
です。
偶然の飲みやすさではありません。
設計された柔らかさ。
それが嘉之助の核心です。
💎 おすすめの一本:シングルモルト嘉之助
なぜこのボトルなのか?
- 三基スチル設計のバランスが最も体験できる
- リチャー樽由来の甘みが明確
- ストレートでもハイボールでも崩れない
「日本ウイスキーの新世代」を知る入口として、
非常に完成度の高い一本です。
まとめ
嘉之助蒸溜所は、
- 樽熟成焼酎の歴史を持ち
- 三基のスチルで酒質を設計し
- 南国熟成とリチャー樽で丸みを磨く
という、日本でも極めて戦略的な蒸溜所です。
日本ウイスキーは「繊細」だけではありません。
南から生まれたこのやわらかさは、
確実にもう一つの地図を描いています。
出典
- 嘉之助蒸溜所公式サイト
- 小正醸造公式情報
- ウイスキー文化研究所
- Whisky Advocate