0|まず結論から
- 海外進出は、もはや大企業だけの話ではない
- 中堅・中小企業が選ぶ進出先は、実はかなり絞られている
- 成功の分かれ目は「どこへ行くか」よりどう設計するか
この10年で、日本企業の海外進出の意味は大きく変わった。
「安い人件費を求めて海外へ」という発想は過去のものとなり、
現在は 市場獲得・供給網分散・リスク管理 が主目的となっている。
本記事では、
これから海外進出を検討する中堅・中小企業の経営者と、
それを支援する税理士・専門家のために、
まず押さえるべき 全体像(考え方の地図) を整理する。
1|日本企業の海外進出の全体像
海外進出というと、大企業の専売特許のように感じられがちだが、
実際に海外拠点を持つ日本企業の数で見ると、
中堅・中小企業が多数派である。
一方で、中堅企業の海外進出には特徴がある。
- 拠点を作ること自体が目的化しやすい
- 黒字化までの設計が曖昧なまま進むケースが多い
- 管理・ガバナンスを軽視しがち
重要なのは、
「海外に出たかどうか」ではなく、
「黒字拠点を1つ作れるかどうか」
という一点である。
拠点数を増やす時代から、
稼げる拠点を厳選して持つ時代へと、確実に移行している。
2|【地域別】中堅・中小企業が選ぶ海外進出先
2-1|ASEAN(ベトナム・タイ・インドネシアなど)
選ばれている企業タイプ
- 初めて海外進出を検討する中堅・中小企業
- 国内市場の成長に限界を感じている企業
向いている業種
- 製造業(部品・加工・OEM)
- 食品・飲料
- 外食・小売の現地展開
なぜASEANなのか
- 日系企業の集積が厚く、成功・失敗の前例が多い
- 日本語対応の会計・税務・人材が比較的見つかりやすい
- 中堅企業でもコントロール可能な投資規模から始めやすい
中堅企業が詰まりやすい点
- 現地責任者に任せきりになる
- 日本本社との管理レベルに差が出る
- 「最初の海外だから仕方ない」という甘えが生じやすい
税理士・管理面の注意
- 移転価格・ロイヤリティの設計
- 駐在員コストの扱い
- 小規模でもガバナンスは例外にできない点
👉 最初の海外として最有力だが、「管理軽視」は失敗の近道
2-2|中国
現在の位置づけ
- 新規進出先というより、再設計・再編の対象
向いているケース
- 既に中国市場で一定の売上・顧客基盤がある
- 中国市場そのものが戦略上不可欠
中堅企業が直面しやすい課題
- 税務・送金・撤退の難易度が高い
- 利益は出ているが、資金が自由に動かせない
税理士・管理面の注意
- 撤退・縮小時の税務・法務コストが大きい
- 「引き際」を決めにくい構造
👉 これから行く場所というより、どう整理するかを考える場所
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2-3|アメリカ
向いている企業
- 日本ブランド・技術に明確な強みがある
- 高付加価値・ニッチ分野を持つ中堅企業
特徴
- 市場規模は大きいが、人件費・管理コストは高い
- いきなり現地法人を作るケースは少数派
よくある進出形態
- 代理店契約
- 業務提携
- 小規模M&A
税理士・管理面の注意
- 州税を含む税務の複雑さ
- 契約・訴訟リスク
- 会計・税務コストの高さ
👉 「売れる形」を作れた企業だけが成立する市場
2-4|インド
位置づけ
- 短期回収ではなく、10年スパンの将来投資
向いている業種
- 製造業
- 自動車・機械・化学関連
注意点
- 税務・法務の難易度が高い
- 商習慣・文化の違いが大きい
👉 ASEANの次を見据える中堅企業向けの選択肢
3|業種別に見る向き・不向き
海外に出やすい業種
- 製造業(部品・OEM)
- 食品・飲料
- 業務用BtoB商材
共通点は、
品質や技術で差別化でき、現地人材への依存度が低いことである。
慎重になるべき業種
- 人手依存型のサービス業
- 国内規制前提のビジネス
- 現地任せで成り立たない業態
4|ここ10年で何が変わったのか
以前の海外進出は、
- 安い人件費
- とりあえず拠点を作る
という発想が主流だった。
現在は、
- 市場を取りに行く
- 供給網を分散する
- 失敗しても引ける形で始める
という考え方が前提となっている。
その結果、
- 100%子会社にこだわらない
- M&A・業務提携で時間を買う
といった動きが、中堅企業でも一般化しつつある。
5|最近の流れ(撤退条件という最重要論点)
近年の海外進出で、中堅企業が特に注意すべき点は次のとおりである。
- 為替変動の影響が極端に大きい
- 各国で税務・情報開示が厳格化している
- 「海外=節税」という発想は通用しない
- 日本本社のガバナンス責任が明確に問われる
その中でも、最も重要で、かつ見落とされがちなのが
「撤退条件(やめ時)」の設定である。
中堅・中小企業ほど、
- せっかく作った拠点だから
- もう少し様子を見よう
- 現地が大変そうで言い出せない
と判断を先送りし、結果として
赤字拠点が本社のキャッシュを恒常的に消費する例が少なくない。
撤退条件を事前に決めることは、失敗ではない。
経営者の責任である。
いつ・どの指標で・誰が判断するのか。
これを曖昧にしたまま進出することが、最大のリスクとなる。
6|まとめ|中堅企業の海外進出は「設計」で8割決まる
中堅・中小企業の海外進出で重要なのは、次の3点である。
- 行き先より順番
- 規模より撤退条件
- 成功事例より失敗回避
また近年は、IT・デジタルを活用し、
- 越境ECによる市場テスト
- 海外向けWeb広告・SNSでの需要検証
- 現地代理店・パートナーとのリモート連携
といった形で、人を送らずに始める海外展開も現実的な選択肢となっている。
海外進出は、
「現地法人を作るかどうか」の二択ではない。
小さく試し、数字で判断し、撤退も含めて設計する。
この姿勢こそが、これからの中堅企業の海外進出の前提条件である。