業界分析|外部環境分析(制度・市場・マクロ)
目的
この業界が「どんなルールの箱の中にあるか」を、数字と事実中心に理解します。
第0章|この外部環境編の立ち位置
本レポートは、高市内閣が重点分野の一つとして位置付ける「造船」分野のうち、舶用機器産業を外部環境(制度・市場・マクロ)から整理するものです。
本レポートで「やること」
- 変えられない前提条件を示します
- 数字と制度事実で説明します
やらないこと
- 将来予測は行いません
- 儲かる/厳しいという評価は行いません
- キャリア・戦略への言及は行いません
👉 判断は次の「内部環境編」に委ねます。
第1章|市場規模と成長の実態(定量)
世界市場規模
舶用機器(Marine Equipment)世界市場は、推計で約1,500〜2,000億ドル規模とされています。
主な分野は以下の通りです。
- 船舶用ディーゼルエンジン
- LNG/デュアル燃料エンジン
- 推進装置
- 発電・電装機器
- 自動化・制御装置
日本の位置づけ
日本の舶用機器生産額は約1兆円規模です。
世界市場シェアは約20%前後とされています。
主な企業は以下の通りです。
- 三井E&S
- ジャパンエンジンコーポレーション
- ダイハツインフィニアース
過去5〜10年の推移(概算)
2015年〜2020年:世界造船市況低迷
2021年〜2024年:海運市況回復に伴い受注増
CAGR(概算):年率1〜3%程度の横ばい推移です。
成長要因の内訳
- 数量要因:新造船受注量の増減
- 単価要因:LNG・アンモニア対応など高付加価値化
- 制度要因:IMO規制強化
第2章|制度・政策との関係性(P)
制度ビジネスか否か
舶用機器は基本的に民間BtoB市場です。
しかし、制度が仕様を規定する構造を持ちます。
IMO規制の強制力と需要創出
国際海事機関(IMO)は、2050年までに温室効果ガス(GHG)排出ゼロを目指す戦略を2023年に改定しています。
これにより、
- EEXI
- CII
- 燃料転換要請(アンモニア・水素・メタノール)
が実質的に強制力を持ちます。
その結果、既存ディーゼルエンジンのリプレイスや換装需要が制度的に発生しています。
制度は単なるルールではなく、需要の発生源そのものとして機能しています。
公的支出比率
直接的な官需比率は低い(防衛除く)です。
制度変更履歴
- IMO 2020 硫黄規制
- 2023年 GHG削減戦略改定
- EEXI・CII導入
第3章|経済的前提条件(E)
価格決定権
価格は造船所との契約で決定されます。
最終顧客は船主ですが、直接取引は造船所です。
コスト構造(概算)
- 材料費:40〜50%
- 人件費:20〜30%
- 研究開発費:10%前後
- その他間接費
為替と原材料高の二面性
輸出比率は約4〜5割とされています。
円安は売上高の円換算増に寄与します。
一方で、
- 鋼材
- 特殊部品
- 電子部材
の輸入コストは上昇しています。
納期が1〜3年と長いため、固定価格契約下では売上増と利益圧迫が同時に発生し得る構造を持ちます。
第4章|社会・人口動態の影響(S)
労働供給
生産年齢人口は減少傾向です。
製造業平均年齢は約43歳前後です。
機械系・電気系技術者への依存度が高い産業です。
有効求人倍率
製造業全体では1.3〜1.5倍程度です(地域差あり)。
第5章|技術・DXの位置づけ(T)
技術の位置づけ
舶用機器は中核技術型産業です。
IT/DX導入
- 3D CAD設計:高水準
- デジタルツイン:一部導入
- 遠隔モニタリング:普及進行
技術は「補助」ではなく、製品価値の中枢です。
第6章|参入・撤退の制約(L)
必要条件
- 大型加工設備
- 試験設備
- 国際認証取得
初期投資
数十億円〜百億円規模です。
新規参入は限定的です。
第7章|経済安全保障との距離
デュアルユース性
エンジン技術は防衛用途にも転用可能です。
特定重要物資との関係
造船・舶用機器は、経済安全保障政策上の重要分野と位置付けられています。
サプライチェーン強靭化の観点から、
- 重要部品の国内生産回帰
- 税制優遇
- 低利融資
といった経済安保関連予算の対象となりつつあります。
国家依存度
防衛案件を除き、官需比率は低いです。
海外依存度
輸出比率は高く、為替の影響を受けます。
第8章|外部環境の整理
数値サマリー
- 世界市場:約1,500〜2,000億ドル
- 日本市場:約1兆円
- 世界シェア:約20%
- 輸出比率:約40〜50%
- 初期投資:数十億円以上
- 官需依存:低(防衛除く)
変えられない前提条件
舶用機器産業は、
- 国際市況に連動し
- 規制が需要を創出し
- 輸出依存度が高く
- 巨額設備投資を前提とし
- 技術人材に依存する
という構造を持つ制度影響型産業です。
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第9章|次におすすめの資料
外部環境が内部でどのような
- 利益率構造
- 造船所との力関係
- 労働負荷
を生むのかは、次の「内部環境編」で扱います。
出典
- 国土交通省 海事産業統計
- IMO(国際海事機関)資料
- 経済産業省 造船関連資料
- 各社有価証券報告書
- 経済安全保障推進法関連資料