業界分析|外部環境分析(制度・市場・マクロ)
目的:
この業界が「どんなルールの箱の中にあるか」を、数字と事実中心に理解します。
第0章|この外部環境編の立ち位置
本レポートで「やること/やらないこと」
やること
- 変えられない前提条件を示します。
- 感情ではなく事実で説明します。
やらないこと
- 将来予測は行いません。
- 儲かる/厳しい評価は行いません。
- キャリア・戦略への言及は行いません。
👉 判断は次の「内部環境編」に委ねます。
第1章|市場規模と成長の実態(定量)
■ 世界市場規模(確定値・見込み)
- 2023年:約1,060億ドル(踊り場)
- 2024年:約1,180億ドル(前年比 +11%前後で着地)
- 2025年(見込み):約1,330億ドル規模(前年比 +13%前後)
2023年の調整局面を経て、
2024年からはAI投資主導の**「再成長期」**に入っています。
■ 地域別需要の歪み
2024年には、中国向け装置需要が世界全体の約4割を占める月もありました。
背景には、
- 先端装置への輸出規制強化
- 中国による旧世代(成熟ノード)装置の集中購入
という二重構造があります。
**「先端は売れないが、汎用は爆発的に売れる」**という規制由来の歪みが生じています。
■ 市場の中身(2024年の特徴)
数量要因(設備投資の増減)
- 先端ロジック/先端メモリ(HBM等)向け投資の拡大
- 生成AI関連投資の増加
単価要因(装置単価の上昇)
- 先端世代(微細化)対応で、装置が高額化しやすい構造です。
制度要因(地域投資の誘導)
- 各国の補助金・投資誘導策が、設備投資の「場所」を左右します。
■ 主要な企業(例)
- 海外:ASML、Applied Materials、Lam Research、KLA
- 日本:東京エレクトロン、SCREENホールディングス、ディスコ など
第2章|制度・政策との関係性
■ 制度ビジネスか否か
装置産業は、価格そのものが公定される制度ビジネスではありません。
一方で、「輸出規制」および「補助金(顧客側の投資誘導)」の影響が強い産業です。
■ 公的支出との関係(投資の発生源)
装置メーカーへの補助金が直接入るというより、
半導体製造(顧客)の国内投資が補助され、その結果として装置需要が生まれる構造です。
■ 規制の関与(輸出管理)
先端装置は、安全保障上の観点から輸出管理の対象となり得ます。
このため、同じ製品でも「どこに売れるか」が制度により制約されます。
第3章|経済的前提条件
■ 価格決定権の所在
装置価格は市場で形成されますが、以下の制約があります。
- 顧客(少数の巨大半導体メーカー)への依存が大きい
- 個別仕様・認定(クオリフィケーション)を通過しないと売上になりにくい
「汎用品を広く薄く売る」より、特定顧客への深い入り込みが前提になりやすい構造です。
■ コスト構造(硬直性)
装置メーカーのコストは、以下の比率が大きくなりやすいです。
- 研究開発費
- サービス/保守体制
- 高度部材(精密部品・光学系・制御系等)
装置は「1台売って終わり」ではなく、納入後の立上げ・保守負荷が前提です。
■ インフレ圧力(部材・電力・人件費)
- 精密部材やサプライチェーン制約により、原価圧力が発生し得ます。
- 高度人材の獲得競争により、人件費圧力が発生し得ます。
第4章|社会・人口動態の影響
■ 需要側:AI投資への偏り
2024年の装置投資は、生成AI関連の設備投資(先端ロジック/先端メモリ)と結びついています。
需要は「最終製品」ではなく、データセンター投資の強弱に影響を受けやすい構造です。
■ 労働供給側:高度エンジニアの不足
装置産業は、機械・電気・制御・ソフト・プロセスの複合人材が必要です。
生産年齢人口の減少局面では、採用制約が外部条件になります。
第5章|技術・DXの位置づけ(構造変化)
従来、装置産業のルールは「微細化(前工程)」が中心でした。
しかし現在は、
■ 後工程(先端パッケージング)への構造シフト
- 3D積層技術の高度化
- ボンディング(接合)装置の重要性増大
- ダイシング(切断)装置の精度要求上昇
AI半導体では、
チップを積み上げる工程が最大のボトルネックになっています。
この分野で、
- ディスコ
- 東京エレクトロン
など日本企業が高いシェアを持っています。
これが日本装置産業の外部的な「強固な箱」を形成しています。
第6章|参入・撤退の制約
■ 新規参入の難易度
装置産業の参入障壁は、以下の理由で高くなりやすいです。
- 顧客の認定(クオリフィケーション)に時間がかかります。
- 歩留まり・稼働率に直結するため、実績が重視されます。
- 保守体制・サポート体制が前提になります。
■ 初期投資・撤退コスト
- 研究開発投資が先行しやすいです。
- 専用サプライチェーン(精密部品等)の構築が必要になりやすいです。
撤退は、技術者・設備・顧客認定の喪失を伴うため、容易ではありません。
第7章|経済安全保障との距離
■ 規制と需要の同時発生
- 先端装置:輸出規制強化
- 成熟ノード装置:中国需要急増
規制が需要を歪ませるという、
極めて特異な構造が継続しています。
装置産業は、
「技術産業」であると同時に
「地政学産業」でもある
という性質を持っています。
第8章|外部環境の整理(2026年時点)
| 項目 | 数値・事実 |
|---|---|
| 世界市場 | 2024年 約1,180億ドル |
| 2025年見込み | 約1,330億ドル |
| 成長要因 | AIデータセンター投資 |
| 地域歪み | 中国需要 約4割月も存在 |
| 技術制約 | 3D積層・接合工程がボトルネック |
| 制度影響 | 輸出規制+補助金誘導 |
👉 **「AI再成長 × 地政学歪み × 後工程高度化」**が現在の外部条件です。
変えられない前提条件
- 顧客の設備投資循環に強く連動します。
- 輸出規制・投資誘導策により「売り先」「増設場所」が制約されます。
- 顧客認定と保守体制が参入障壁になります。
- 先端世代の高額化により、技術更新の負担が継続します。
👉 **「投資循環 × 規制 × 高額化」**という箱の性質だけを確定させます。
第9章|次におすすめの資料
外部環境が、内部でどんな歪みを生むのか(例:工程別の利益の残り方、開発負荷、サポート負荷、認定待ちによる収益の偏り)は、次の「内部環境編」で扱います。
関連記事
出典
- SEMI(Worldwide Semiconductor Equipment Market Statistics / WWSEMS)関連発表資料
- SEAJ(Semiconductor Equipment Association of Japan)統計・見通し資料
- 各社IR資料(ASML、Applied Materials、Lam Research、KLA、東京エレクトロン、SCREENホールディングス、ディスコ ほか)