業界分析|外部環境分析(制度・市場・マクロ)
航空機体・部品製造産業
目的:
この業界が「どんなルールの箱の中にあるか」を、数字と事実中心に理解することです。
第0章|この外部環境編の立ち位置
本レポートでは、航空機体・部品製造産業が置かれている
- 市場規模
- 制度・規制
- 経済的前提条件
- 社会・人口動態
- 技術環境
- 経済安全保障との接続
を整理します。
将来予測や、儲かる/厳しいといった評価は行いません。
判断は内部環境編に委ねます。
第1章|市場規模と成長の実態(定量)
■ 世界市場規模
- 世界民間航空機市場:約1兆ドル(2025年推計)
- 過去10年CAGR:約4%前後
2019年まで拡大 → 2020年急減 → 2023年回復途上
という局面を経て、
2025年時点では数量面では完全回復水準に到達しています。
一方で、
- 単通路機(A320neo、737MAX等)が需要を牽引
- 部品不足・エンジン供給制約による生産上限
という供給制限が市場の天井を決める構造に移行しています。
■ 日本市場規模
- 航空機体・部品出荷額:約2.1兆円(2024年度確定ベース)
- 2019年:約1.9兆円
- 2020年:約1.2兆円
2024年度は、2019年ピークを超え、過去最高水準を更新しています。
内訳要因:
- 数量要因:民間機生産回復
- 単価要因:円安による押し上げ
- 制度要因:防衛予算増額による装備品製造増加
■ 主要企業(日本)
- 三菱重工業
- 川崎重工業
- SUBARU
- IHI
上位数社で国内売上の大半を占める構造です。
第2章|制度・政策との関係性
■ 制度ビジネスか
民間航空機向け売上が中心ですが、
- 型式証明(国土交通省)
- FAA / EASA認証
- 外為法に基づく輸出管理
など、強い規制下にあります。
■ 公的支出比率
- 防衛兼業企業が多く
- 売上の20〜40%が政府関連(企業により差)
■ 制度の新しい「箱」
2025年以降、制度枠組みに明確な変化が生じています。
① 環境規制(SAF・脱炭素)
- CORSIA(国際航空分野のカーボンオフセット制度)の厳格化
- 欧州中心にSAF導入義務化拡大
これにより、
部品メーカーにも
製造工程の脱炭素化対応が実質的な参入条件となりつつあります。
② セキュリティ・クリアランス制度(経済安全保障)
2025年以降、日本でも
- 重要機密を扱う技術者への適性評価制度が本格始動
民間機と防衛機の境界が曖昧なTier1企業では、
- 管理コスト増大
- 情報管理体制強化
という新しい制度的制約が加わっています。
第3章|経済的前提条件
■ 価格決定権
- 機体OEM(Airbus / Boeing)が主導
- Tier1以下は交渉力が限定的
長期固定価格契約(LTA)が基本構造です。
■ コスト構造
- 人件費:30〜40%
- 材料費:30〜40%
- 設備償却費:高水準
■ 材料費の構造変化
ロシア・ウクライナ情勢の長期化により、
- チタン調達ルート変更
- アルミ価格の高止まり
が継続しています。
特にチタンは航空機向け依存度が高く、
コスト上昇が構造化しています。
■ インフレと価格改定
近年、OEMとTier1間では
- インフレ連動型価格改定条項(エスカレーション条項)
の導入交渉が進んでいます。
ただし、
価格主導権は依然としてOEM側にあります。
第4章|社会・人口動態の影響
■ 需要側
- 世界旅客数:2019年 45億人
- 2024年:ほぼ回復水準
航空機更新需要が数量を左右します。
■ 労働供給
- 技術者平均年齢:約45歳超
- 若年技能工不足が継続
有効求人倍率(輸送用機械器具製造):2倍超水準
第5章|技術・DXの位置づけ
■ 技術分類
→ 補助型
- 複合材加工技術
- MBSE(モデルベース設計)
- デジタルツイン
IT導入率:
- 大手:高水準
- 中小:限定的
技術は代替ではなく、精度・安全性を補助する位置づけです。
第6章|参入・撤退の制約
- 必須認証:AS9100 等
- 初期投資:数十億円規模
- 新規参入数:限定的
- 撤退時:専用設備の転用困難
参入・撤退ともに高コスト構造です。
第7章|経済安全保障との距離
① デュアルユース性
高い(民間機・防衛機共通技術)
② 情報の機微性
設計図・材料仕様は輸出管理対象
③ 政府案件比率
20〜40%(企業差あり)
④ 海外売上比率
60%超(輸出依存)
⑤ セキュリティ・クリアランス影響度
2025年以降、
- 技術者適性評価制度
- 情報管理体制強化
が制度的義務として加わっています。
国家重要分野に該当します。
第8章|外部環境の整理
数値サマリー
- 世界市場:約1兆ドル
- 日本市場:約2.1兆円
- 人件費率:30〜40%
- 材料費率:30〜40%
- 政府関連比率:20〜40%
- 海外売上比率:60%超
変えられない前提条件
- OEM主導の価格決定構造
- 強い国際認証制度
- 高い設備投資負担
- 材料価格の地政学的影響
- 脱炭素規制の制度化
- 経済安全保障制度との接続
👉 この産業は
「重厚長大型 × 高規制 × 経済安保直結型」産業という箱に入っています。
第9章|次におすすめの資料
外部環境が内部でどのような歪みを生むのかは、
内部環境編(無料②)で扱います。
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出典
- 経済産業省「航空機産業の現状」
- 国土交通省 航空局資料
- ICAO CORSIA制度関連資料
- 防衛省 防衛関係費資料
- 各社有価証券報告書(2024年度)
- 日本航空機開発協会統計資料