業界分析|外部環境分析(制度・市場・マクロ)
航空MRO産業
目的:
この業界が「どんなルールの箱の中にあるか」を、数字と事実中心に理解することです。
MROとは何か
MROとは、
- Maintenance(整備)
- Repair(修理)
- Overhaul(分解整備)
の総称です。
航空機は法令により、
- 定時整備(A・C・Dチェック)
- エンジン分解整備
- 部品単位の修理・再生
が義務付けられており、
運航時間に比例して必ず発生する産業です。
新造機と異なり、 機体が存在する限り継続する市場であることが特徴です。
第0章|この外部環境編の立ち位置
本レポートは、航空MRO産業が置かれている
- 市場規模
- 制度・規制
- 経済的前提条件
- 労働供給構造
- 技術変化
- 経済安全保障との接続
を整理します。
将来予測や評価は行いません。
第1章|市場規模と成長の実態(定量)
■ 世界市場規模
- 世界航空MRO市場:約1,100億ドル超(2026年予測)
- 過去10年CAGR:約3〜4%
2025年に航空需要がパンデミック前を完全に上回り、
2026年は
- 高成長
- 部品供給制約
が並行する局面に入っています。
■ 市場構成
- ジェットエンジンMRO:約360億ドル(約3割)
- 機体整備
- コンポーネント整備
- ライン整備
特にエンジン整備の高度化が市場を牽引しています。
■ 日本市場規模
- 約8,500億〜9,000億円(2026年度推計)
要因:
- 円安による部品価格上昇
- 訪日客増加による機材フル稼働
- 防衛整備需要増加
整備需要は過去最高水準で推移しています。
■ 主要プレイヤー(日本)
- ANAホールディングス(ANAグループ整備)
- 日本航空(JALエンジニアリング)
- IHI
- 三菱重工業
- 川崎重工業
航空会社系と重工系が中心です。
第2章|制度・政策との関係性
■ 強い認証産業
- 航空法
- 国土交通省航空局認証
- FAA/EASA整備認証
整備士資格制度(国家資格)により、
人材参入は制度制限下にあります。
■ 高市政権下の制度接続
高市政権が掲げる
- 防衛テック
- 航空・宇宙融合
の文脈で、MROは制度的に強化されています。
■ 防衛テックとしてのMRO
- 自衛隊機整備の民間委託拡大
- 民間MRO企業の防衛案件増加
防衛案件は
- 安定収益源
- 技術高度化の機会
という位置付けに変化しています。
■ 経済安全保障推進法との接続
- 部品の脱・特定国依存
- 国内修理・再生能力の強化
PMA部品やDER修理の活用が
レジリエンス強化政策の一部
として位置付けられています。
第3章|経済的前提条件
■ 価格決定構造
- 航空会社との契約価格
- エンジンメーカー指定整備価格
価格自由度は限定的です。
■ コスト構造
- 人件費:40〜50%
- 部品費:30%前後
- 設備償却費:高水準(整備ハンガー等)
人件費比率は製造業より高いです。
■ 人件費上昇
- 整備士人件費:過去5年で約10%上昇
価格転嫁は契約更新時のみ。
第4章|社会・人口動態の影響
■ 需要側
- 世界旅客数:2019年水準に回復
- 機体稼働時間増加
整備需要は運航時間に比例。
■ 労働供給の質的変化
- 整備士平均年齢:約43〜45歳
- ベテラン退職加速
- 若手流入増加
2026年現在、
現場の低年齢化が進行
しています。
その結果:
- 一等航空整備士など高度資格者不足
- 判断を伴う整備工程のボトルネック化
人員数は回復傾向にありますが、
資格保有者の質的不足が構造化しています。
第5章|技術・DXの位置づけ
■ 技術分類
従来:補助型
現在:運用の中核へ移行
■ MROソフトウェア市場
-
世界MROソフトウェア市場:約86億ドル(2026年)
-
デジタルツイン
-
PHM(予兆保全)
-
整備スケジュール最適化
整備記録のデジタル化は、
努力義務から
認証維持の前提条件へ移行
しつつあります。
第6章|参入・撤退の制約
- 国家資格(航空整備士)
- 整備認証取得
- 初期投資:数十億円規模(ハンガー建設)
新規参入は限定的。
第7章|経済安全保障との距離
■ デュアルユース性
高い(民間機・防衛機)
■ 情報の機微性
整備データ・機体仕様は機密扱い
■ 海外依存度
部品は輸入依存度高い
■ 政府案件比率
10〜30% → 防衛案件拡大傾向
国### ■ 部品レジリエンス
- 国内修理能力強化
- 特定国依存低減
国家安全保障政策と接続しています。
第8章|外部環境の整理
- 世界市場:約1,100億ドル超
- エンジンMRO:約360億ドル
- 日本市場:約8,500〜9,000億円
- 人件費率:40〜50%
- 政府関連比率:10〜30%
- MROソフトウェア:約86億ドル
変えられない前提条件
- 強い国際認証制度
- 国家資格依存
- 運航時間連動型需要
- 防衛との制度接続
- 経済安保政策との統合
- デジタル認証への移行
👉 この産業は
「労働集約型 × 強認証型 × 運航連動型 × 安保接続型」産業です。
第9章|次におすすめの資料
外部環境が内部でどのような歪みを生むかは、
内部環境編で扱います。
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出典
- 国土交通省 航空局資料
- IATA統計資料
- 経済産業省 航空関連資料
- 防衛省防衛関係費資料
- 各社有価証券報告書(2024年度)