業界分析|外部環境分析(制度・市場・マクロ)
次世代空モビリティ(空飛ぶクルマ/AAM)産業
目的:
この業界が「どんなルールの箱の中にあるか」を、数字と事実中心に理解することです。
次世代空モビリティとは何か(用語の確定)
本稿でいう「次世代空モビリティ(AAM)」は、
- 電動推進(eVTOL)
- 垂直離着陸
- 都市・地方の低高度空域運航
- 将来的な自動化・データ連動
を前提とする新しい航空移動産業を指します。
第1章|市場規模と成長の実態(定量)
■ 市場の現在地(2026年)
次世代空モビリティ(AAM)は、
公的統計上まだ独立した産業分類を持ちません。
民間調査では、
- 世界市場規模:数十億ドル規模(2026年時点推計)
と整理されています。
ただし、この市場は
- 機体販売
- 運航サービス
- バーティポート整備
- 整備(MRO)
- ソフトウェア・運航管理
を含む複合市場であり、単純比較は困難です。
■ 成長の中身(フェーズ移行)
2025年大阪・関西万博での実証を経て、
2026年は
- 初号機納入開始
- 型式証明取得の一部進展
- 量産工場立ち上げ
という「供給フェーズ」へ移行しつつあります。
市場は「期待」から「供給能力」で測られる段階へ入りました。
■ 世界主要企業(機体レイヤー)
AAM市場は、機体スタートアップが主導しています。
- Joby Aviation(米)
- Archer Aviation(米)
- Lilium(独)
- Vertical Aerospace(英)
既存のボーイングやエアバスは、
直接主導というより技術・出資・連携の形で関与しています。
■ 日本主要プレイヤー
- SkyDrive(機体開発・量産体制構築)
- ANAホールディングス(運航構想)
- 丸紅(事業化・機体関連連携)
- オリックス(Vertiport開発・運営)
日本市場は「機体単独」ではなく、
商社・不動産・航空会社が組み合わさる構造です。
■ レイヤー別構造整理(市場の輪郭)
AAMは単一産業ではありません。
| レイヤー | 主体 |
|---|---|
| 機体 | スタートアップ主導 |
| 運航 | 既存航空会社参入 |
| インフラ | 不動産・商社 |
| ソフト | 海外IT勢優位 |
| 整備 | 既存航空MRO接続 |
👉 価値の所在は未確定。
■ 2026年時点の市場の特徴
- 市場規模は拡大中だが、まだ小さい
- プレイヤーは分裂構造
- 供給能力が評価軸へ移行
- 認証進捗が企業価値を左右
市場は“完成産業”ではなく、
“構造確定前産業”です。
第2章|制度・政策との関係性
■ 制度フェーズの移行(2026年)
万博以前は
「制度整備の検討段階」
でした。
2026年現在は、
eVTOL特有の耐空性基準・運航基準の具体的運用段階
へ移行しています。
■ 低高度空域のルール具体化
特に、
- ドローン
- eVTOL
- 既存航空機
の空域共有が論点となっています。
レベル4飛行(有人地帯での目視外飛行)に関する運航管理ルールが、
事実上の参入障壁として機能し始めています。
制度は「枠組み」から
「運用の壁」へ変化しました。
第3章|経済的前提条件
■ 価格決定権の所在
現段階では、価格は市場競争で自然形成というより、
- 実証の枠組み(官民プロジェクト)
- 運航設計(路線・頻度)
- インフラ利用料(Vertiport)
- 保険・安全管理コスト
など、制度・運用設計の影響が大きい構造です。
■ コスト構造の硬直性(事実ベース)
- 安全審査・認証(開発・運航・整備)
- インフラ整備(Vertiport等)
- 訓練・資格(操縦・整備)
- 保険・品質管理
特に「認証・安全管理」が固定費として先に立ち上がる箱です。
第4章|社会・人口動態の影響
■ 万博後の社会受容性の現在地(2026年)
万博会期中、
一部機体トラブルによりデモフライトが一時中断された事例がありました。
この経験により、
社会受容性は
- 単なる期待 から
- 安全性への厳格な監視
へと質的に変化しました。
これは今後、
- 認証要求の厳格化
- 保守・点検基準の高度化
- 保険料算定の厳格化
へ波及する可能性があります。
社会的ハードルは下がったのではなく、
**「透明化された」**と整理できます。
第5章|技術・DXの位置づけ
■ 技術は「代替」か「補助」か
現時点の整理としては、
- 自動化・運航管理:補助(安全のための多重化)
- 予兆保全・整備管理:補助(認証維持の前提になり得る)
です。
DXで解決できるという結論は置きません。
ただしロードマップ上、機体・運航・離着陸場・制度・社会受容性を一体で設計する必要がある点は事実として整理されています。
第6章|参入・撤退の制約
■ 許認可・資格
航空領域に入るため、
- 機体の認証(耐空性)
- 運航の認可
- 整備の認証
- 人材の資格・訓練
が参入条件になります。
■ 初期投資・撤退コスト
- 機体開発(研究開発費)
- Vertiport整備
- 安全管理・品質管理の体制整備
撤退時も、設備・認証対応人材・契約が残りやすい構造です。
第7章|経済安全保障との距離(2026年最新視点)
① データ駆動型機体という特性
eVTOLは、
- 通信基盤(5G/6G)
- 位置情報
- クラウド連携
- 運航データ管理
と密接に結びついています。
② セキュリティ・クリアランス法制との接続
2026年現在、
重要経済安保情報保護活用法(いわゆるSC法)に基づく適性評価制度が運用段階に入り、
重要インフラと接続する
- 通信制御ソフト
- 運航管理システム
- データ基盤
の開発・保守において、
適性評価が事実上の標準要件となりつつある
局面にあります。
これは、
単なる航空産業ではなく、
「重要インフラ接続産業」
として扱われ始めたことを意味します。
第8章|外部環境の整理
数値・構造サマリー
- 実証フェーズ → 供給フェーズへ移行
- 型式証明取得・初号機納入が開始段階
- 低高度空域ルールが参入障壁化
- 万博後、社会受容性は“監視型”へ質変化
- SC法との接続が現実化
変えられない前提条件
- 強い認証制度
- 国際当局との整合
- 空域管理という制度インフラ
- 通信・データ基盤への依存
- 経済安全保障接続
👉 箱の性質のみを確定。
第9章|次におすすめの資料
この外部環境が、
- 収益構造
- 現場負荷
- 保守コスト
- 認証対応コスト
として内部にどう現れるのかは、
次の「内部環境編」で扱います。
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出典
- 国土交通省 航空局関連資料
- 経済産業省 空の移動革命関連資料
- 大阪・関西万博 公式発表資料
- 各社公式リリース(量産・認証関連)
- 内閣府 経済安全保障関連資料