業界分析|外部環境分析(制度・市場・マクロ)
目的
この業界が「どんなルールの箱の中にあるか」を、数字と事実中心に理解する
第0章|この外部環境編の立ち位置
本レポートでは
- 市場規模
- 制度
- 技術環境
- 社会構造
など、
舶用機器産業を取り巻く 外部条件 を整理します。
やること
- 変えられない前提条件の整理
- 数字と制度の事実整理
やらないこと
- 将来予測
- 投資判断
- 企業評価
第1章|市場規模と成長の実態(定量)
世界市場
舶用機器市場は主に以下の分野で構成されます。
- 船舶エンジン
- 推進装置
- 航海機器
- 電装・制御装置
世界市場規模(推計)
約1,200億〜1,500億ドル(2024〜2025年)
これは
新造船市場の約50〜60%
の規模に相当します。
日本企業の位置
日本企業は複数の分野で高い技術力を維持しています。
船舶エンジン
主要企業
- ジャパンエンジンコーポレーション(JEC)
- 三井E&S
- IHI原動機(新潟原動機を含む)
このうち
ジャパンエンジンコーポレーション
は
世界に数社しか存在しない
大型舶用エンジンのライセンサー(設計開発元)
の一つであり、
日本唯一の独自ブランド
UE機関
を持つ企業です。
一方、
三井E&S
IHI原動機
などは
MAN Energy Solutions
WinGD
といった海外ライセンサーから図面提供を受けて製造する
ライセンシー
としての側面が強い企業です。
推進装置
代表企業
ナカシマプロペラ
固定ピッチプロペラでは
世界トップシェア
を持つ企業とされています。
電装・航海機器
代表企業
- 寺崎電気産業(配電盤)
- 大洋電機(発電機・モーター)
- 古野電気(航海機器)
寺崎電気は
船舶用配電盤で世界トップクラス。
古野電気は
- レーダー
- 航海装置
- 自動運航支援
などで国際的に知られています。
世界シェア
低速ディーゼルエンジンでは
日本企業の製造シェアは
約30〜40%
とされます。
かつては
50%以上
のシェアを持っていましたが、
現在は
中国
韓国
などの造船拡大に伴い
シェアは低下しています。
ただし
ライセンス技術を含む影響力
という観点では
日本企業の存在感は
依然として大きいとされています。
第2章|制度・政策との関係性
舶用機器産業は
IMO(国際海事機関)
の規制と密接に結びついています。
主な制度
- MARPOL条約
- EEDI
- CII
技術への影響
これらの規制により
以下の技術開発が進んでいます。
- LNG燃料エンジン
- メタノール燃料
- アンモニア燃料
- 電動推進
CII制度の影響
2020年代に導入された
CII(Carbon Intensity Indicator)
は、
船舶の燃費性能を
格付けする制度です。
この制度では
燃費性能が低い船は
格付けが下がり
商業価値が低下
する可能性があります。
その結果
古いエンジンを
- 改造
- 換装
する
レトロフィット需要
が増加しています。
第3章|経済的前提条件
価格決定権
舶用機器の価格は
基本的には
造船所
が決定します。
しかし
大型エンジンなどの主要機器では
船主(オーナー)がメーカーを指定する
ケースも多くあります。
そのため
この産業では
造船所と船主の両方に対する営業力
が必要とされます。
コスト構造
主なコスト
- 金属材料
- 精密加工
- 電装部品
- 人件費
また
エンジン分野では
海外ライセンサーへの技術料
が発生する場合があります。
代表例
- MAN Energy Solutions
- Wärtsilä
- WinGD
第4章|社会・人口動態の影響
舶用機器産業では
以下の人材が重要です。
- 機械設計
- 電装エンジニア
- 制御ソフト
日本では
製造業技術者の平均年齢が
上昇しています。
経済産業省調査では
製造業技術者平均年齢は
約43歳
とされています。
第5章|技術・DXの位置づけ
舶用機器のDXは
主に以下の分野で進んでいます。
- エンジン遠隔監視
- 船舶データ収集
- 予知保全
- 自動運航支援
航海機器メーカーでは
自動離着桟や
自動操船などの研究が進んでいます。
技術位置づけ
DXは
補助型技術
として位置付けられます。
機械構造そのものを
代替するものではありません。
第6章|参入・撤退の制約
舶用機器産業の参入障壁は高いとされています。
主な要因
- 船級認証
- エンジン試験設備
- 国際ライセンス
大型舶用エンジンの開発には
数百億円規模
の設備投資が必要とされます。
第7章|経済安全保障との距離
舶用機器は
デュアルユース技術
に該当します。
理由
- 商船
- 軍艦
の両方に使用されるためです。
経済安全保障政策との関係
日本では
経済安全保障推進法
に基づき
サプライチェーンの強靭化が
政策課題となっています。
船舶関連部品は
特定重要物資またはそれに準ずる分野
として扱われるケースがあります。
防衛技術との関係
舶用エンジン技術の一部は
海上自衛隊艦艇など
防衛用途にも利用されます。
例
- ガスタービン
- 推進装置
など。
これらの技術維持は
防衛産業基盤
とも関係します。
第8章|外部環境の整理
主要ポイント
- 世界市場:約1,200〜1,500億ドル
- 新造船市場の約50〜60%
- IMO脱炭素規制が技術方向を決定
- CII制度によりレトロフィット需要が発生
- 技術ライセンス依存構造
- 高い参入障壁
👉
舶用機器産業は
規制・技術・安全保障
の三要素に強く影響される産業です。
第9章|次におすすめの資料
外部環境で確定した
- 規制主導の技術変化
- 高い参入障壁
- ライセンス構造
が
企業内部でどのような構造を生むのかは
次の
内部環境編
で扱います。
関連記事
出典
- International Maritime Organization(IMO), MARPOL Convention / EEDI / CII regulations
- Clarkson Research, Shipping Intelligence Network / Shipbuilding Market Report
- UNCTAD, Review of Maritime Transport
- 日本舶用工業会, 舶用工業の現状
- 日本船舶輸出組合, 世界造船市場統計
- 経済産業省, 海事産業強化政策・経済安全保障政策関連資料
- 海事プレス社, 舶用機器・海事産業関連報道
- 各社公開資料(ジャパンエンジンコーポレーション、三井E&S、IHI原動機、ナカシマプロペラ、寺崎電気産業、古野電気 等)