判定できないものに、どう投資判断を下すか
前編で産業構造を整理し、中編では「AI創薬はまだ判定できる段階にない」という結論に至りました。
では、判定できないものに投資判断を下すにはどうすればよいのか。本稿の立場は明確です。
臨床の成否を予測するのではなく、臨床の答えが出るまで生き残れるかどうかを測る。
この観点から4つの評価指標を提示し、2026年第2四半期の実数で3社を採点します。
この記事のポイント
- PERもPSRも機能しない。 Recursionの2026年Q2売上は767万ドルで市場予想を約37%下回ったが、これは事業悪化ではなくマイルストーン計上タイミングの問題
- 測るべきは「答えが出るまでの時間を買えているか」。 次の重要な臨床データが出る時期より、キャッシュランウェイが長いかが第一の条件
- 同じ「AI創薬」でも収益構造は正反対。 Schrödingerは ACV +27%で黒字転換、Recursionは純損失1億3,101万ドル。前者は臨床が失敗してもソフトウェア事業が残る
- 提携の公表額と一時金の比率は業界平均で約50対1。 Recursion―Roche案件は一時金1.5億ドル/最大120億ドル(約1.3%)
- 増資は「したかどうか」ではなく「いくらで、誰に売れたか」。 Absciは好材料公表と同日に7.41ドルで1億ドル調達、Eli Lillyが参加
4つの評価指標
| 指標 | 測るもの | 判断基準 |
|---|---|---|
| 1. キャッシュランウェイ | 生存できる期間 | 次の主要データ時期より長いか |
| 2. 反復収益の比率 | 収益の予測可能性 | ACV等の継続収益があるか |
| 3. 一時金 ÷ 公表総額 | 提携相手の本気度 | 比率が高いほど実質的な評価 |
| 4. 増資の価格と引受先 | 資金調達の質 | 高値で、事業会社が入っているか |
スコアカード(要約)
| 指標 | SDGR | ABSI | RXRX |
|---|---|---|---|
| 生存性 | 高 | 高 | 中 |
| 収益の質 | 高 | 低 | 低 |
| 一時金比率 | 中 | 中 | 中 |
| 希薄化コスト | 高 | 高 | 中 |
| 臨床の上振れ余地 | 中 | 大 | 大 |
このスコアカードが示すのは、生存性・収益の質と、臨床の上振れ余地がトレードオフの関係にあるという構図です。どちらが優れているかという問いには答えがなく、投資家が引き受けたいリスクの種類によって答えが変わります。
3部作の結論
| 問い | 結論 | |
|---|---|---|
| 前編 | 誰がどこにいるのか | 4層構造。上振れ余地はレイヤー3に集中。技術的トップランナーの多くは非上場 |
| 中編 | AI創薬は効いているのか | 成功例は1件のみ(香港上場)。承認実績はゼロ |
| 後編 | どう評価するのか | 生存性と資金調達の質で測る |
AI創薬というテーマに向き合う選択肢は3つあります。レイヤー2のデータ・診断インフラを選ぶか、レイヤー3のうちソフトウェア事業という受け皿を持つ企業を選ぶか、純粋なプラットフォーム企業に数年を許容する前提で向き合うか。
避けるべきは、3番目を1番目だと思って持つことです。
レポート全文はこちら
4指標それぞれの定義と適用方法、3社のキャッシュランウェイ比較、ACVと報告売上が逆の印象を与える会計上の罠、主要提携3件の一時金比率、Absciの増資事例の詳細分析、5項目のフルスコアカード、そして「WHAT TO WATCH」6項目を収録した完全版レポートをご用意しています。
👉 赤字先行企業をどう評価するか ―― PERが使えない銘柄の4つの物差し(完全版レポート)
シリーズ構成(完結)
- 前編:産業地図 ―― 誰がどのレイヤーにいるのか(完全版)
- 中編:技術検証編 ―― AI創薬は実際に成果を出しているのか(完全版)
- 後編:投資判断編(本稿) ―― 赤字先行企業をどう評価するか(完全版)
本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の有価証券の購入・売却を推奨するものではありません。掲載したスコアカードは評価軸の適用例であり、投資推奨や格付けではありません。赤字先行企業は追加の資金調達により既存株主の持分が希薄化するリスクを有します。投資に関する最終的な決定は、ご自身の判断と責任において行っていただきますようお願いいたします。