前回取り上げたRecursion(RXRX)は、反復収益が実質ゼロで、1年間に株式数が約52%増えた企業でした。
同じ「レイヤー3:AI創薬プラットフォーム」に分類される Schrödinger(NASDAQ:SDGR) は、こうです。
- 直近4四半期のACV(年間契約額):2億800万ドル
- 2026年上半期の希薄化:+1.5%(公募増資なし、オプション行使のみ)
- 2026年Q2:純利益598万ドルで黒字転換
数字だけ並べると、まったく別の業種のように見えます。同じ枠に入れてよい企業なのでしょうか。
ただし、黒字転換の中身には注意が必要です。営業損失は依然として**▲4,155万ドル**。黒字化の主因は、Eli LillyによるAjax Therapeutics買収完了に伴う非現金の株式評価益4,587万ドルでした。
本記事は、AI×製薬×バイオ シリーズ個別企業編の第2回です。2026年8月5日発表のQ2決算実績をもとに、7章構成で分析しました。
この記事のポイント
- ACV +27%なのにソフトウェア売上は▲10%。 ホスト型(クラウド)ライセンスへの移行を意図的に加速しているため、契約は増えても会計上の売上は減ります。移行期は売上高ではなくACVを見る必要があります。
- 黒字転換は営業利益ではない。 営業損失▲4,155万ドル、調整後EBITDA▲3,099万ドル。本業の黒字化目標は2028年末です。
- 反復収益比率は約58%。 上半期のソフトウェア売上6,810万ドル÷総売上1億1,748万ドル。Recursionの実質ゼロとは対照的で、レイヤー2的な収益構造を半分持っています。
- 希薄化がほぼない。 上半期の財務キャッシュフローは+122万ドル(オプション行使のみ)。反復収益と保有株式の売却で資金需要を賄えている構造です。
- 臨床資産は2本まで減少。 SGR-2921はCDC7阻害剤として開発されていましたが、2025年8月に中止(2例の患者死亡との関連が報じられた)。残るSGR-1505とSGR-3515も、自社ではなく提携先に渡す方向です。
- Q2決算リリースに自社パイプラインの記載がない。 ハイライト欄はBunsen、BMS契約、Simcere提携、論文2本のみ。創薬企業としての上振れ余地を期待する投資家には、前提の変更にあたります。
KPI要約
| 指標 | 数値 | 時点・出典 |
|---|---|---|
| Q2 2026 売上高 | 5,889万ドル(+8%) | 2026年8月5日発表 |
| ├ ソフトウェア | 3,254万ドル(▲10%) | ホスト型移行の影響 |
| ├ 創薬 | 2,299万ドル(+65%) | Ajaxマイルストーン1,000万ドル含む |
| └ 拠出金 | 336万ドル(▲30%) | ゲイツ財団関連の計上時期 |
| Q2 2026 ACV | 2,960万ドル(+27%) | 直近4四半期では2億800万ドル |
| 営業損失 | ▲4,155万ドル | 前年同期▲5,290万ドル |
| 純損益 | +598万ドル(黒字転換) | 主因は株式評価益4,587万ドル(非現金) |
| 調整後EBITDA | ▲3,099万ドル | 前年同期▲3,869万ドル |
| 現金・有価証券 | 4億1,880万ドル | 2026年6月30日時点(上半期に+1,647万ドル) |
| ホスト型比率 | 47%(1年前31%) | 2028年末目標は75% |
| ソフトウェア粗利率 | 71%(前年同期76%) | 2028年に70%台後半へ戻す目標 |
| 発行済株式数 | 74,779,310株(半年で+1.5%) | 公募増資なし |
| 株価 / 時価総額 | 17.81ドル / 約13.3億ドル | 2026年8月6日終値 |
| EV ÷ 直近4四半期ACV(編集部試算) | 約4.2倍 | EV約8.7億ドル |
| 臨床段階パイプライン | 2本(SGR-1505、SGR-3515) | いずれも提携先を模索中 |
完全版レポートで解説していること
- ①市場規模 ― ACVという指標の読み方、Bunsenが「計算化学者の人数」から「創薬研究者全体」へ市場を広げる戦略
- ②政策・規制環境 ― 規制リスクが収益ではなく「上振れ余地」に現れる構造。SGR-2921中止の意味
- ③コスト・収益構造 ― 黒字転換の内訳、ホスト型移行という意図的な自傷、営業CFが+9,187万→▲4,890万に振れた理由
- ④事業セグメント動向 ― ソフトウェアと創薬の2セグメント、株式保有による現金化モデル(累計7.5億ドル超)、Ajax事例の解剖
- ⑤株式バリュエーション ― 4指標をRecursionと並べて比較。EVから現金と保有株式を引いた「約8.7億ドル」の意味
- ⑥リスク要因 ― 営業赤字の継続、ホスト型移行の長期化、創薬売上の単発依存、AI競合の台頭
- ⑦まとめ ― 「レイヤー2.5」として読むべき理由と、両方を持つことが両方で勝つことを意味しない理由
- WHAT TO WATCH ― 今後の注目点6項目
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- 前編:AI×製薬×バイオ 産業地図 ― 4レイヤーで整理する
- 中編:技術検証編 ― AI創薬は本当に効いているのか
- 後編:投資判断編 ― 赤字先行企業を4指標で評価する
- 個別企業編①:Recursion Pharmaceuticals(RXRX)― 実現率2.5%問題
次回はレイヤー3から Relay Therapeutics(NASDAQ:RLAY) を取り上げます。Absci(ABSI)は8月11日発表のQ2決算を反映したうえで、後日あらためて記事化します。
免責事項
本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の金融商品の売買を推奨するものではありません。投資に関する最終的な判断は、ご自身の責任において行ってください。記載された数値は2026年8月上旬時点の公開情報(企業IR資料・決算リリース等)に基づいており、株価等の市場データは日々変動します。「編集部試算」「編集部計算」と明記した数値は公開情報に基づく推計です。調整後EBITDAは非GAAP指標であり、GAAPの純損益に代わるものではありません。