レイヤー3(AI創薬プラットフォーム)の4社を分析し終えました。四半期の収益は、最小のAbsciが32万ドル、最大のSchrödingerでも5,889万ドルでした。
レイヤー2に移ります。Tempus AI(NASDAQ:TEM)の2026年Q2売上は3億8,249万ドル。桁が2つ違います。
さらに、レイヤー3のどの企業も持たない数字があります。
- Net Revenue Retention 約126%(既存顧客だけで年26%成長)
- Total Contract Value 11億ドル超
- 腫瘍領域の検査数 +31%(前四半期の+28%から加速)
そしてGAAP純利益560万ドルで黒字転換。
ただし、営業損失は▲7,591万ドルで、前年同期から23%拡大しています。 黒字化の主因は市場性のある株式の未実現評価益9,850万ドル(非現金)でした。第2回のSchrödingerとまったく同じ構図です。
本記事は、AI×製薬×バイオ シリーズ個別企業編の第5回であり、レイヤー2(データ・診断インフラ)の第1回です。2026年7月30日発表のQ2決算実績をもとに、7章構成で分析しました。
この記事のポイント
- 4指標の重要度が入れ替わる。 レイヤー3で最重要だった「実現率」の出番が減り、「反復収益比率」の中身(NRR、TCV、契約済み比率)が主役になります。
- FDAの意味が変わる。 レイヤー3ではFDA承認が「ゼロがイチになる」イベントでした。診断企業にとっては「既にある売上の単価が上がる」イベントです。xT Tumor Onlyの承認により、組織検査がADLT価格へ移行します。
- 黒字転換は非現金の株式評価益による。 営業損失は▲7,591万ドル。Non-GAAP営業損失は▲271万ドルまで縮小していますが、その差の大半は株式報酬費用(上半期1億683万ドル、前年同期比2.4倍)です。
- 検査数+31%に対し診断売上は+20%。 数量の伸びが単価の伸びを上回っています。MRD検査は現在マージンがマイナスとみられ、CEOは「ASPが損益分岐点に近づいてから販売を加速する」と説明しています。
- 総負債19億2,098万ドル。 株主資本4億4,493万ドルの4.3倍。レイヤー3の4社が実質無借金だったのと質的に異なります。Q2にクーポン0%の転換社債4億6,000万ドルを発行して借り換えを実施しました。
- 15億ドルでPersonalisを買収予定。 販売網は既にあり、技術を内製化して利益率を取りに行く構図。ただし買収対象はまだ黒字化していない事業です。
- 予想を上回ったのに目標株価は引き下げ。 BofAが64→52ドル、Stifelが60→50ドル。決算内容と株価目標の方向が一致していません。
KPI要約
| 指標 | 数値 | 時点・出典 |
|---|---|---|
| Q2 2026 売上高 | 3億8,249万ドル(+22%) | 2026年7月30日発表 |
| ├ 診断 | 2億8,933万ドル(+20%) | 検査数は+31% |
| └ データ・アプリ | 9,315万ドル(+28%) | うちInsightsは+36% |
| 売上総利益 | 2億4,650万ドル(+26%) | 粗利率64.4%(編集部計算) |
| 営業損失 | ▲7,591万ドル(前年同期から+23%拡大) | |
| Non-GAAP営業損失 | ▲271万ドル(84%改善) | 差の大半は株式報酬費用 |
| GAAP純損益 | +564万ドル(黒字転換) | 主因は未実現評価益9,850万ドル(非現金) |
| 調整後EBITDA | +804万ドル | 前年同期▲558万ドル |
| 現金・市場性証券 | 8億2,070万ドル | 2026年6月30日 |
| 総負債 / 株主資本 | 19億2,098万ドル / 4億4,493万ドル | 負債は資本の4.3倍 |
| 転換社債残高 | 11億7,278万ドル | Q2に4億6,000万ドル(クーポン0%)発行 |
| 上半期 営業CF | ▲8,080万ドル | 前年同期▲6,146万ドル |
| Net Revenue Retention | 約126% | 2025年実績 |
| Total Contract Value | 11億ドル超 | 2025年12月31日時点 |
| Q2 新規署名額 | 約2億ドル | BioNTech、第一三共、Incyte等 |
| MRD検査数 | 約9,000件(前四半期比+38%) | 販売部隊の約10%のみが販売 |
| 加重平均株式数 | 179,917千株(前年同期比+3.8%) | |
| 2026年通期ガイダンス | 売上15.95〜16.05億ドル(+約25%)/調整後EBITDA約6,500万ドル | Personalis買収の影響を含まない |
| 株価 | 54.29ドル | 2026年8月14日終値 |
レイヤー2 vs レイヤー3
| 観点 | Tempus(レイヤー2) | レイヤー3の4社 |
|---|---|---|
| 四半期売上 | 3億8,249万ドル | 32万〜5,889万ドル |
| 収益の予測可能性 | NRR 126%、成長の大部分が契約済み | 実現率2.5〜3.7%、または算出不能 |
| FDAの意味 | 承認=単価上昇 | 承認=ゼロがイチ |
| 資金調達 | 転換社債(0%)。株式数+3.8%/年 | 公募増資・ATM。+18〜52%/年 |
| 負債 | 総負債19億2,098万ドル | 実質無借金 |
完全版レポートで解説していること
- ①市場規模 ― 診断は検査数、データはTCVで測る。TCVがレイヤー3の「公表総額」と同じ性格である点と、決定的な違い
- ②政策・規制環境 ― ADLT価格移行の意味、「マージンがマイナスの間は売らない」というMRD戦略
- ③コスト・収益構造 ― 黒字転換の分解、株式報酬2.4倍の意味、営業CFが悪化している理由
- ④事業セグメント動向 ― 2セグメントの中身、関連当事者取引が24%を占める点、Personalis買収15億ドルの評価
- ⑤株式バリュエーション ― 4指標がレイヤー2でどう変質するか。NRR126%と実現率2.5%の構造的な違い
- ⑥リスク要因 ― 負債19億ドル、のれん・無形資産が総資産の33%、MRDのマージン
- ⑦まとめ ― 「収益の確実性」の正体と、それが「割安」を意味しない理由
- WHAT TO WATCH ― 今後の注目点6項目
👉 完全版レポートを読む:Tempus AI(NASDAQ:TEM)徹底分析
シリーズ関連記事
- 前編:AI×製薬×バイオ 産業地図 ― 4レイヤーで整理する
- 中編:技術検証編 ― AI創薬は本当に効いているのか
- 後編:投資判断編 ― 赤字先行企業を4指標で評価する
- 個別企業編①:Recursion(RXRX)― 実現率2.5%問題
- 個別企業編②:Schrödinger(SDGR)― 反復収益を持つ例外的なレイヤー3企業
- 個別企業編③:Relay Therapeutics(RLAY)― 増資で買った第III相
- 個別企業編④:Absci(ABSI)― Eli Lillyが権利を取らなかった理由
次回はレイヤー2から Illumina(NASDAQ:ILMN) を取り上げます。
免責事項
本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の金融商品の売買を推奨するものではありません。投資に関する最終的な判断は、ご自身の責任において行ってください。記載された数値は2026年8月中旬時点の公開情報(企業IR資料・決算リリース・決算説明会等)に基づいており、株価等の市場データは日々変動します。「編集部試算」「編集部計算」と明記した数値は公開情報に基づく推計です。調整後EBITDA等は非GAAP指標であり、GAAPの純損益に代わるものではありません。TCVはすべての契約オプションの行使と早期解約がないことを前提とした潜在総額であり、将来の売上を保証するものではありません。Personalis買収は本記事執筆時点で未完了です。