これまで5社を分析してきました。黒字だったのはSchrödingerとTempus AIの2社だけ。しかもいずれも非現金の株式評価益によるもので、営業損益は赤字のままでした。
Illumina(NASDAQ:ILMN)は違います。
- 四半期営業利益:2億4,500万ドル(前年同期比+14.5%)
- 営業利益率:21.1%
- フリーキャッシュフロー:1億6,200万ドル
- 法人税:5,300万ドルを納付
- 株式数:自社株買いにより2.5%減少
本業で稼いでいます。実態のある利益です。
では、赤字先行企業向けに設計した4指標はどうなるのか。答えは「ほぼ全部が不要になる」でした。ここからはPER・PSRという通常の物差しを使います。
本記事は、AI×製薬×バイオ シリーズ個別企業編の第6回、レイヤー2の第2回です。2026年7月30日発表のQ2決算実績をもとに、7章構成で分析しました。
この記事のポイント
- 4指標がついに役目を終える。 キャッシュランウェイ(不要)、実現率(不要)、増資条件(自社株買いで逆転)、反復収益比率(形を変えて有効)。シリーズの転換点です。
- 反復収益の正体は「設置済み装置」。 シーケンサーは一度設置されると数年使われ、そのたびに試薬・フローセルを消費します。装置の設置は将来の消耗品収益を予約する行為です。Tempusの契約更新型とは異なる形の反復収益です。
- 中国UEL問題は未解決。 2025年3月の輸出禁止は同年11月に解除されましたが、UEL掲載は継続中で装置購入には承認が必要。会社側も掲載期間・最終措置を予測できないとしています。中華圏売上は2024年で3億800万ドル。
- GAAP EPSは減り、Non-GAAP EPSは増える逆転。 1.49→1.35ドル(GAAP)、1.19→1.31ドル(Non-GAAP)。正体は戦略投資の評価損益です。Illuminaも非現金の投資損益がGAAP利益に混入する企業ですが、それを除いても営業黒字である点が決定的に違います。
- Q3の減速が明示されている。 ROW有機成長率がQ2の8.1%から約4.5%へ低下する見込み。通期ガイダンスは引き上げつつ、四半期では減速を示す二重のメッセージです。
- 臨床は伸び、研究は縮む。 臨床消耗品は米国・カナダで+20%超、一方で研究・応用消耗品はROWで**▲7%**。
- BioInsightでTempusと競合しうる領域へ。 Billion Cell AtlasのパートナーはAstraZeneca、Merck、Eli Lilly。AstraZenecaはTempusの顧客でもあり、大手製薬が複数のデータ供給元を並行利用していることを示しています。
- アナリストの見方が割れている。 Leerink 210ドル(Outperform)、Freedom Broker 185ドル(Buy→Holdへ格下げ)、Barclays 160ドル(目標を上げつつUnderweight維持)。
KPI要約
| 指標 | 数値 | 時点・出典 |
|---|---|---|
| Q2 2026 売上高 | 11億5,900万ドル(+9.5%) | 2026年7月30日発表 |
| ├ 製品売上 | 9億8,200万ドル(+7.7%) | |
| └ サービス・その他 | 1億7,700万ドル(+20.4%) | |
| 売上総利益 | 7億7,000万ドル | GAAP粗利率66.4% |
| 営業利益 | 2億4,500万ドル(+14.5%) | GAAP営業利益率21.1% |
| 当期純利益 | 2億700万ドル | 法人税5,300万ドル納付 |
| 希薄化後EPS | GAAP 1.35ドル / Non-GAAP 1.31ドル(+10%) | 方向が逆転 |
| Non-GAAP粗利率 | 68.2%(前年同期69.4%) | メモリ・輸送費上昇の影響 |
| フリーキャッシュフロー | 1億6,200万ドル(前年同期2億400万ドル) | 営業CF 2億100万ドル − 設備投資3,900万ドル |
| 現金・短期投資 | 11億7,000万ドル | |
| 有利子負債 | 19億9,100万ドル | 株主資本28億3,800万ドル |
| 希薄化後株式数 | 1億5,300万株(前年同期比▲2.5%) | 自社株買い |
| ROW有機成長率 | Q2 8.1% → Q3見込み 約4.5% | 中国を除くベース |
| NovaSeq X | Q2に95台超設置/売上比率59% | 2026年末に臨床検体80〜85%目標 |
| 臨床消耗品 | 米国・カナダ+20%超、ROW(中国除く)+15% | |
| 研究・応用消耗品 | ROW ▲7% | |
| 2026年通期ガイダンス | 売上46.0〜46.4億ドル/Non-GAAP EPS 5.30〜5.40ドル | いずれも引き上げ |
| 時価総額 | 約292.5億ドル | 2026年8月6日時点 |
| PSR(編集部試算) | 約6.3倍 | 通期ガイダンス中間値ベース |
6社比較 ― レイヤー2の中の断層
| 企業 | レイヤー | 四半期営業損益 | 成長率 | 主な評価軸 |
|---|---|---|---|---|
| Illumina | 2 | +2億4,500万ドル | +9.5% | PER・PSR |
| Tempus AI | 2 | ▲7,591万ドル | +22% | NRR・TCV |
| Schrödinger | 2.5 | ▲4,155万ドル | +8% | ACV |
| Recursion | 3 | 大幅赤字 | ▲60% | 実現率2.5% |
| Relay | 3 | ▲9,082万ドル | ― | 実現率3.7% |
| Absci | 3 | ▲3,416万ドル | ▲46% | 増資条件 |
同じレイヤー2でも、営業利益率21%の成熟企業と営業赤字の高成長企業が並びます。3部作の「収益の確実性はレイヤー1〜2に集中する」という仮説は、完全版では**「レイヤー2の中でも、事業が成熟した企業に集中する」**と修正しています。
完全版レポートで解説していること
- ①市場規模 ― 装置ではなく消耗品で測る理由、NovaSeq X移行59%の二面性、臨床と研究の分岐
- ②政策・規制環境 ― 中国UEL問題の時系列と現状、「ROW成長率8.1%」が中国を除いた数字である意味
- ③コスト・収益構造 ― GAAP/Non-GAAPの逆転現象の正体、粗利率低下の要因、FCFが減少した理由
- ④事業セグメント動向 ― SomaLogic統合の進捗、BioInsight新事業、GRAILがまだ完全には過去になっていない件
- ⑤株式バリュエーション ― 4指標が不要になる過程と、PER・PSRへの移行。アナリストが分裂している理由
- ⑥リスク要因 ― 技術的破壊、のれん25%、コスト上昇圧力、株価1年で約99%上昇という水準
- ⑦まとめ ― レイヤー2内部の断層、成長率と収益性のトレードオフ、レイヤー間競争の開始
- WHAT TO WATCH ― 今後の注目点6項目
👉 完全版レポートを読む:Illumina(NASDAQ:ILMN)徹底分析
シリーズ関連記事
- 前編:AI×製薬×バイオ 産業地図 ― 4レイヤーで整理する
- 中編:技術検証編 ― AI創薬は本当に効いているのか
- 後編:投資判断編 ― 赤字先行企業を4指標で評価する
- 個別企業編①:Recursion(RXRX)― 実現率2.5%問題
- 個別企業編②:Schrödinger(SDGR)― 反復収益を持つ例外的なレイヤー3企業
- 個別企業編③:Relay Therapeutics(RLAY)― 増資で買った第III相
- 個別企業編④:Absci(ABSI)― Eli Lillyが権利を取らなかった理由
- 個別企業編⑤:Tempus AI(TEM)― 黒字転換の中身とレイヤー2の評価軸
次回はレイヤー2から Veeva Systems(NYSE:VEEV) を取り上げます。
免責事項
本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の金融商品の売買を推奨するものではありません。投資に関する最終的な判断は、ご自身の責任において行ってください。記載された数値は2026年8月中旬時点の公開情報(企業IR資料・決算リリース・決算説明会・SEC提出書類等)に基づいており、株価等の市場データは日々変動します。「編集部試算」「編集部計算」と明記した数値は公開情報に基づく推計です。Non-GAAP指標は企業ごとに算出方法が異なり、GAAP指標に代わるものではありません。アナリストの目標株価・レーティングは各証券会社の見解であり、将来の株価を保証するものではありません。中国のUEL掲載に関する状況は変動する可能性があります。