四半期売上144万ドル。営業損失**▲3億6,599万ドル**。売上が営業費用の**約0.4%**しかカバーしていません。
数字だけ見れば、第3回で扱ったRelay Therapeuticsとまったく同じプロファイルです。
ところがRoivant Sciences(NASDAQ:ROIV)の現金・有価証券は39億ドル。時価総額は230億ドルを超え、現金等を差し引いた実質事業価値は約190〜200億ドル(編集部試算)に達します。
レイヤー3の4社(Relay 約28.7億ドル、Absci 約14〜15億ドル、Recursion 約12億ドル、Schrödinger 約8.7億ドル)を、桁で上回っています。
源泉は創薬ではありません。Modernaとの特許訴訟和解、総額22億5,000万ドルです。
本記事は、AI×製薬×バイオ シリーズ個別企業編の第10回、中小型株編の第1回です。2026年8月6日発表のFY2027 Q1決算実績をもとに、7章構成で分析しました。
この記事のポイント
- RoivantはAI創薬企業ではありません。 brepocitinibはPfizer由来の化合物、IMVT-1402も従来型の抗体医薬。本シリーズに含める理由は、**「AIを掲げない中小型バイオが、同じ土俵でどう見えるか」**という比較軸を得るためです。
- 実質事業価値がレイヤー3の4社を桁で上回る。 決めているのはAIの有無ではなく、資産がどこまで進んだか。brepocitinibはFDA審査中で、2026年9月末の上市を計画しています(承認が前提)。
- 実現率は約42%。 Moderna和解22.5億ドルに対し、7月に9億5,000万ドルを受領。Recursion 2.5%、Relay 3.7%との差は、残額が「臨床開発の成否」ではなく「控訴の結果」に依存するためです。
- 営業費用の約23%が株式報酬。 一般管理費1億6,553万ドルのうち7,462万ドル(約45%)が株式報酬。自社株買いを約2億870万ドル実施してもなお、加重平均株式数は6.0%増加しました。
- Vant構造の代償。 純損失2億9,061万ドルのうち1億77万ドルが非支配持分帰属。損失を分担してもらえる一方、成功時の利益も外部株主と分け合います。
- 13億ドルは控訴の結果次第。 Moderna和解の残額は、合衆国法典第28編1498条に関する控訴が有利に解決することが条件。法的判断であり企業側で左右できません。
- 年内に3件のトップライン読み出し。 NIU(第3相)、PH-ILD(第2相)、CLE(概念実証)。CEOは「いくつか成功すれば会社の姿は根本的に変わる」と述べています。
KPI要約
| 指標 | 数値 | 時点・出典 |
|---|---|---|
| Q1 売上高 | 144万ドル(前年同期217万ドル、▲34%) | 2026年8月6日発表 |
| 研究開発費 | 2億216万ドル(+32%) | うち株式報酬872万ドル |
| 一般管理費 | 1億6,553万ドル(+24%) | うち株式報酬7,462万ドル(約45%) |
| 営業費用合計 | 3億6,783万ドル | 株式報酬が約23%を占める(編集部計算) |
| 売上 ÷ 営業費用 | 約0.4% | 編集部計算 |
| 営業損失 | ▲3億6,599万ドル | 前年同期▲2億8,492万ドル |
| 純損失 | ▲2億9,061万ドル | うち非支配持分帰属▲1億77万ドル |
| Roivant帰属純損失 | ▲1億8,984万ドル(EPS ▲0.26ドル) | 前年同期▲2億2,336万ドル(▲0.33ドル) |
| Non-GAAP純損失 | ▲2億4,369万ドル | 前年同期▲1億7,012万ドル |
| 受取利息 | 3,692万ドル(前年同期4,832万ドル) | 営業費用の約10%を相殺 |
| 現金・現金同等物 | 12億4,846万ドル | 2026年6月30日 |
| 有価証券 | 25億9,363万ドル | 同上 |
| 連結ベース現金等 | 約39億ドル | 7月のModerna入金を含まない |
| 訴訟和解未収金 | 7億7,163万ドル | |
| 総負債 / 株主資本 | 3億8,462万ドル / 49億2,187万ドル | |
| 加重平均株式数 | 720,776,739株(+6.0%) | |
| 自社株買い(Q1) | 730万株/約2億870万ドル | 平均約28.6ドル(編集部試算) |
| Moderna和解 | 総額22億5,000万ドル。うち9億5,000万ドル受領済み(2026年7月) | 残13億ドルは控訴の結果次第 |
| 実現率(編集部試算) | 約42% | 9.5億ドル ÷ 22.5億ドル |
| 株価 / 時価総額 | 34.60ドル(8/6終値)/約250億ドル | 52週レンジ 10.90〜37.00ドル |
| 実質事業価値(編集部試算) | 約190〜200億ドル | 時価総額 − 現金等 − 和解未収金 |
実現率の比較 ― なぜ差がつくのか
| 企業・案件 | 実現率 | 残額の条件 |
|---|---|---|
| AstraZeneca ← Dizal(第9回) | 約40% | 開発・規制・売上マイルストーン |
| Roivant ← Moderna(本記事) | 約42% | 控訴の結果 |
| Relay → Elevar(第3回) | 約3.7% | 臨床開発の成否 |
| Recursion ← 提携各社(第1回) | 約2.5% | 臨床開発の成否 |
実現率が高い案件の共通点は、残額の条件が「臨床開発の成否」ではないことです。レイヤー3企業の2〜4%という数字は、交渉力ではなく条件の性質から説明できます。
完全版レポートで解説していること
- ①市場規模 ― 皮膚サルコイドーシス約4万人という市場の読み方、brepocitinibの4適応とIMVT-1402の6適応
- ②政策・規制環境 ― PDUFAと、本シリーズ初登場の「特許制度」というもう一つの規制
- ③コスト・収益構造 ― 株式報酬が費用の23%、費用増加に含まれる一時的要因(和解関連賞与)
- ④事業セグメント動向 ― Vant構造の利点と代償、非支配持分がほぼ倍増した意味
- ⑤株式バリュエーション ― 4指標のうち半分が機能しない理由と、訴訟を実現率に置き換える読み方
- ⑥リスク要因 ― 承認未確定、13億ドルの条件、持株会社ディスカウント、収益源の非再現性
- ⑦まとめ ― 中小型株編で問うべき3つのこと
- WHAT TO WATCH ― 今後の注目点6項目
👉 完全版レポートを読む:Roivant Sciences(NASDAQ:ROIV)徹底分析
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- 前編:AI×製薬×バイオ 産業地図 ― 4レイヤーで整理する
- 中編:技術検証編 ― AI創薬は本当に効いているのか
- 後編:投資判断編 ― 赤字先行企業を4指標で評価する
- 個別企業編①:Recursion(RXRX)― 実現率2.5%問題
- 個別企業編②:Schrödinger(SDGR)― Ajax買収で黒字転換した企業
- 個別企業編③:Relay Therapeutics(RLAY)― 増資で買った第III相
- 個別企業編④:Absci(ABSI)― Eli Lillyが権利を取らなかった理由
- 個別企業編⑤:Tempus AI(TEM)― AstraZenecaから2億ドルを受け取った側
- 個別企業編⑥:Illumina(ILMN)― シリーズ初の本物の黒字企業
- 個別企業編⑦:IQVIA(IQV)― 受注残342億ドルという可視性
- 個別企業編⑧:Eli Lilly(LLY)― 買い手側から見たAI創薬
- 個別企業編⑨:AstraZeneca(AZN)― Tempusに2億ドルを払った側
次回は中小型株編の2社目、Prime Medicine(NASDAQ:PRME) を取り上げます。
免責事項
本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の金融商品の売買を推奨するものではありません。投資に関する最終的な判断は、ご自身の責任において行ってください。記載された数値は2026年8月中旬時点の公開情報(企業IR資料・決算リリース・SEC提出書類等)に基づいており、株価等の市場データは日々変動します。「編集部試算」「編集部計算」と明記した数値は公開情報に基づく推計です。Non-GAAP指標は企業ごとに算出方法が異なり、GAAP指標に代わるものではありません。本記事で言及したbrepocitinibは執筆時点でFDAの審査中であり、承認されていません。優先審査の付与は承認を保証するものではなく、上市時期に関する記述は企業の計画です。訴訟に関する記述は公表情報に基づくものであり、係属中の訴訟の結果を予測または示唆するものではありません。条件付きの支払いは発生しない可能性があります。本記事は特定の医薬品の使用を推奨するものではなく、医学的助言を提供するものでもありません。